泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第81 華やかな祭 1

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雨季が終わり、ようやく晴れ渡った青い空。

爽やかな天気は、だいぶ気持ちを開放的にしてくれる。そんな気持ちも拍車をかけているのだろう。色々な種族の者達が入り乱れた街の中は、活気に満ちて華やいでいた。

今いる場所は、黒族の主要地の中央にある、1番大きな市場だった。行き交う人の数も、種族の種類もかなり多い。いつものようにギガイの腕に抱えられながら、ゆっくりと周りを見回していたレフラは、最後に空を見上げて目を細めた。

久しぶりに感じる太陽の光は、レフラだって心地良い。
だけど、初めて正式に公に出てきたギガイの寵妃がそこに居るのだ。日頃は恐れている族長相手だとしても、市井の者達も好奇心が抑えきれない様子だった。

(ずっと、見られてます……)

遠巻きに、色々な人達から向けられ続ける視線に辛くなる。不躾なぐらいにジロジロと見られているのだ。レフラの胃も、ずっと痛みを訴えていた。

一応は、紗で誂えられたヘッドベールとフェイスベールを、外へ出る前から纏っていた。

『あまり他人に晒したくない』

そんなギガイの願いもあって、この祭のために急遽ギガイが誂えさせたベールだった。だから、レフラの素顔は遠目には、ハッキリ分からないように成っている。

それでもギガイの髪と眼を思わせる、青味がかった黒色に金色の組み合わせは、黒族の中でギガイにだけ利用を許された色の組み合わせなのだ。

黒色の紗に、金糸とレフラの白金の髪を思わせる銀糸。煌めく2色の糸で刺繍が施されたベールは、それだけでも人目をだいぶ惹いていた。

レフラは改めて姿勢を真っ直ぐに伸ばして、口元には柔らかな笑みを形作った。ベールで表情が見えないことは分かっている。でも表情を含めた細かい所作は、纏う雰囲気へ影響する。

(私のせいでギガイ様のお名前に、傷が付いてしまうわけにはいきませんから)

そう思えば、気の抜きようもなかったのだ。レフラは内心で大きく溜息を吐き出して、視線をチラッとギガイへ向けた。

リュクトワスが差し出した資料を見ながら、何か指示をしているのだろう。思った通り、執務室でよく見掛けた表情を浮かべている。

「どうした?」

そんな族長としてのギガイの姿が、レフラの視線に気が付いた途端、険しさが解けて変わっていく。柔らかくなった眼差しに、声音さえも穏やかだ。

一瞬前まであった冷たさは、最早どこにも残っていなかった。

「何か気になる物でもあったか?」

それはレフラにとっては見慣れた、いつものギガイの姿だった。だけど日頃、冷酷無慈悲と言われ、ろくに感情を表すことがない、と聞くようなギガイだからか。

ギガイがレフラへ柔らかな表情を向ける都度、至る所から動揺の声が聞こえてくるのも居たたまれなかった。

(ギガイ様にも聞こえているはずなのに、どうしてこんなに平然としていられるんでしょう……)

また聞こえたどよめく声に、レフラは思わず表情を強張らせた。

「変な顔をして、どうした?」

「いえ、何でもありません。ただ……あまり大勢の視線を受けることに慣れてなくて……」

何でもない、と言い張ったところで、ギガイ相手にはムダなのだから。レフラは素直に理由を告げた。

「そういう事か。安心しろ、お前はいつも通りでいればいい。私のそばで、そんな余所行き用の表情なども不要だ」

「ダメです! だって私のせいで、ギガイ様が侮られてしまったらーーー」

「そんな事にはならない。そんな輩を、私がそのまま野放しにするとは、周りの奴らも思っていないだろうからな」

そこで言葉を切ったギガイが酷薄そうな表情を浮かべて、周りをグルリと見回した。

「それでも、もしそんな輩がいるのなら……ただ私が見くびられたに過ぎないということだ。その時は、相応の覚悟をしてもらおう」

ギガイが一瞥しただけで、遠巻きにジロジロと視線を向けていた人々が、慌てたように散けていく。レフラはそんなギガイに腕を伸ばして、冷淡な表情を浮かべた顔に手を添えた。
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