泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第83 華やかな祭 3

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「何か気になる物があるなら、首の調子を確認していた、後ろにいるアイツらを使え」

ギガイの指が背後に立つ3人を差していた。まさか気付かれているとは思わなかった3人は、その指摘に顔を青ざめる。

ギガイの視線はさっきも今も、ずっと腕の中のレフラへ向いていたはずなのだ。
その上、3人だってギガイの視野を考慮した、立ち位置にしっかり立っていた。ギガイには劣るが、小隊長を拝命するぐらいの、実力はある3人だ。その程度を調整するぐらいの能力はちゃんと持っている。それなのに、どうして気付かれたのか。卓越しているギガイの能力には、ただただ驚くばかりだった。

だけど今は悠長に、そんなことを言っている場合じゃないはずだ。ギガイとレフラのやり取りに、介入したことを見咎められた状況なのだ。そのマズさを知っているだけに、どうしたものか、と3人は顔を見合わせた。

「……ギガイ様、後ろにも目がある……わけないですよね?」

そんな護衛の3人に反して、レフラはギガイの指摘に、純粋に驚いているだけだった。

「あるかもしれないぞ」

「えっ!? そんなはずは……」

揶揄からかうようなギガイの返事に、戸惑ったような顔でレフラが腕を伸ばしていた。そのまま、レフラはギガイの後頭部をサワサワと撫でている。

3人は緊張しながらも、レフラとギガイのやり取りを、黙って見守り続けるしか術はない。固唾をのんで見守りながら、ギガイからのさっきの言葉の続きを待っていた。

だけど、レフラを面白そうに見ているギガイにとっては、3人のことなどどうでも良いのかもしれない。それっきり、特に咎める様子も、警告染みた様子もない。

レフラの反応にクツクツ笑う姿は、むしろ機嫌は良さそうだ。図らずとも、後頭部を弄るレフラの手は、この主を癒す感触になったのだろう。

(レフラ様のお陰で助かった……)

目配せをした3人は、同時にホッと息を吐き出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「さて、行くか」

再びギガイがレフラを腕に抱いたまま、歩き出す。
3人がレフラの護衛と用聞きのために、前後と左に付く。そしてギガイの右側には、リュクトワスが1歩後ろへ立ちながら、視察についてギガイへ時折話しをしていた。

その外周を近衛隊の者が複数名、周囲を警戒するように囲んでいる。

(立場的にも仕方ない、とは分かっていますが、自分で自由に動けたら嬉しいのに……)

嫁いだ時にも思ったことだが、部族の名前に反して、陽を受けた市場は、敷石も建物も白く輝いていて綺麗だった。
さらに整備されたこの地では、あちらこちらに街路樹さえ植えられている。その木々が白い敷石に落とす、涼しげな陰。そんな何気ない街の光景さえも、レフラにとっては心が惹かれる所が多いのだ。

レフラは残念に思いながらも、大人しくギガイの腕の中で周りを見回した。

それでもギガイにお供をして、あちらこちらの店を覗けることは、楽しかった。 連なる店先や露店に並んでいる品々は、跳び族のレフラには見慣れない物がかなり多い。

「これ何かも、面白い作りになっていますよ」

あれこれと目移りするレフラへ、3人が色々な物を差し出してくる。自分で選んで、自由に手に取ることはできないけど、それでも十分に楽しい。

「気に入ったのなら、いくつかーーー」

ただそんな中で困るのが、レフラが興味を持った物を、何でもギガイが買ってしまおうとすることだった。

「さっきも、ヘッドチェーンを、買って頂いたばかりですから、もう十分です!」

「だが、これはアンクレットで、全く物が違うだろう」

「でも、その前のお店で香油も簪も頂けました! その前の前のお店でも宝石も、布も頂きましたし、さらに前のいくつかのお店では靴も、本も、音楽を奏でるからくり箱も、たくさん頂いております!」

今日だけで、どれだけ浪費してしまったのか。贅沢に慣れないレフラは、もう十分だと、ギガイへ主張した。だけど日頃、贈り物を断られている反動なのかもしれない。散財を止めようとするレフラに対して、断っても断っても、ギガイは買い与えようとしてくる。その度に一生懸命抵抗をしているのに、その抵抗が役にたつのは10回中、せいぜい2回程度だ。

いつもなら。護衛の3人はレフラの気持ちを汲んで、できるだけレフラに添ったように動いてくれる、優秀な人達だった。でも今日はそんな3人も、色々な物を差し出し続けて、ギガイを増長させてくる。 
物珍しい品に目を輝かせるレフラを、楽しげに見ている3人なのだから。

(私のためだと、分かっています……)

だけど、それに加えて。直接レフラへ話しかける資格を持たない店の者達さえも、同じなのだ。明らかに高級そうな品を選んで、ソッと用聞きの3人の目に留まる位置へと、ここぞとばかりに配置するのだから堪らない。

そんな中で目に留まった物を、全て購入する気だったのだろう。

「ギガイ様! 買って頂くのでしたら、これが良いです!! むしろ、これ以外は要りません!!」

店主だという男と話しを進めようとしていたギガイを、レフラがとっさに制止した。どれだけ止めても買ってしまうのなら、せめてその個数を制限した方が良い。

(贈り物の嵐に悩む日が来るなんて、思いませんでした……)

これを嬉しい悲鳴、と言って良いのか悪いのか。レフラはまた、キリキリと痛みを訴える胃に手を添えた。
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