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本編
第90 艶やかな毒 3
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(お名前は、ナネッテ様、と仰るんですね)
ドクドクと聞こえる鼓動の音に反して、どこか冷静な自分がそんな事を考えている。白族長のナネッテが、いったい自分に何の用があるのだろう。
分からなかった。でも、族長として立つ彼女の前で、ギガイの臣下達の庇護を受け、その影に隠れてやり過ごす。その姿を思うと、レフラは情けなくなってしまう。
「お会いしたいです。こちらへ通されて下さい」
「レフラ様!?」
まさかレフラがそんなことを言い出す、とは思ってもいなかった3人は、その応えに慌て出す。囲うように立っていた状態から、膝を折ってその場に屈み込み、レフラの顔を覗き込む。
「いくら相手が族長とはいえ、謁見の約束もない者へ、時間を割く必要はありません」
「それにレフラ様は、ギガイ様に次ぐお立場です。このような申し出自体が不敬でございます」
弱肉強食とされる世界で、最強だと言われる黒族だ。その中でギガイに次ぐ立場となれば、どの部族の長だったとしても、レフラよりは立場は低かった。
会う必要がない、とラクーシュが主張する。リランなんかは、近衛隊と揉めてまで、謁見を申し出るナネッテに、ハッキリと不快感を示している。
「ギガイ様にお叱りを受けますよ」
そして、エルフィルが困ったような顔でそう言った。
レフラと視線を合わせたまま、3人が口々にどうにか考え直して欲しい、と説得をしてくる。彼等が本当に止めて欲しいと思っていることを、レフラも分かっている。
それでも、とレフラは首を振った。
確かにギガイは、自分が許可をした者以外とレフラが交流することさえ好まない。それに無謀なことをした時のギガイは、レフラにとっても恐かった。
過去の仕置きを思い出して、レフラはコクッと唾を飲む。だけどギガイは常々『逃げ出すようなマネや、損なうマネをしなければ、どんなワガママでも咎めない』と言っていたのだ。それに。
「ギガイ様をずっと閨へ誘いかけていた方が、わざわざこうやって会いに来られたんですよ?」
会いに来た理由は分からないけれど、きっと好意的な理由ではないだろう。
「だからこそ、申し上げております」
「そのような者に、レフラ様が会う必要はありません」
黒族内では、ナネッテの振る舞いは有名だった。だけどレフラが知っているのかは、分からなかった。そのため説得に困っていた3人だったが、知っているのなら、とハッキリとそれを理由に反対をする。
レフラへ悪意を抱いているかもしれない者。悪意とまではいかなくても、レフラと競合しようとする者。そういった者を、3人はレフラへ近付けたくないのだ。
「マテ茶はしっかりと飲んでます。それに、何かあったとしても、皆様が護って下さるでしょ?」
「もちろんです。その時はしっかりと御守り致します! ですがーーー」
「争いは好きではありません。でも、ごめんなさい。負けず嫌いなんです」
アハッと笑うレフラに、日々のギガイとのやり取りや、近衛隊との鍛練の様子を思い出した3人が顔を引き攣らせた。特に最後の近衛隊との鍛練なんかでは、あの若い武官に対してギガイの名前をダシにしてまで、勝負をしていたはずなのだ。
「それにギガイ様も、損なうマネをしなければ構わない、と仰っていました」
「いや、そうは言っても、さすがにこれはダメだと思います」
ラクーシュがガクッと項垂れる。その横でリランとエルフィルが「あぁぁ」だの「うぅぅ」だの唸っていた。
3人としては、この後に機嫌を損ねた主の姿が、簡単に想像できるのだ。だけどこの状態のレフラを説得できる気が全くしない。このまま強固に反対してレフラの機嫌を損ねることも、ギガイの不興を買うだろう。それになによりも、日常のささいなお願いさえ、控えめな態度で望むようなレフラなのだから、望むことはできるだけ叶えてあげたいと、3人だって思っていた。
「ギガイ様のお咎めが、皆さんに行かないように必ずします。だから私のワガママを聞いて下さい。お願いします」
眉尻を下げながら「ダメですか?」と尋ねる姿は、庇護欲を駆り立てる姿だった。それがレフラが信頼を寄せる者へだけ向ける素の表情だと知っている分、3人もダメだとは言い辛い。
「……ベールはしっかり被って下さい」
「……間には俺達が立ちますので、相手へ近付いたりは、なさらないで下さい」
「……状況によっては、お止めしますが、それでもよろしいですね?」
「はい!」
最大限の譲歩を得て、レフラは嬉しそうに微笑んだ。
果たしてこれで本当に良かったのか。そんなレフラに対して、3人は内心では複雑だ。でも嬉しそうなレフラを見れば、もう何も言えなくなる。互いに顔を見合わせた3人は、腹を括って立ち上がり、表情を引き締めて動き出した。
ドクドクと聞こえる鼓動の音に反して、どこか冷静な自分がそんな事を考えている。白族長のナネッテが、いったい自分に何の用があるのだろう。
分からなかった。でも、族長として立つ彼女の前で、ギガイの臣下達の庇護を受け、その影に隠れてやり過ごす。その姿を思うと、レフラは情けなくなってしまう。
「お会いしたいです。こちらへ通されて下さい」
「レフラ様!?」
まさかレフラがそんなことを言い出す、とは思ってもいなかった3人は、その応えに慌て出す。囲うように立っていた状態から、膝を折ってその場に屈み込み、レフラの顔を覗き込む。
「いくら相手が族長とはいえ、謁見の約束もない者へ、時間を割く必要はありません」
「それにレフラ様は、ギガイ様に次ぐお立場です。このような申し出自体が不敬でございます」
弱肉強食とされる世界で、最強だと言われる黒族だ。その中でギガイに次ぐ立場となれば、どの部族の長だったとしても、レフラよりは立場は低かった。
会う必要がない、とラクーシュが主張する。リランなんかは、近衛隊と揉めてまで、謁見を申し出るナネッテに、ハッキリと不快感を示している。
「ギガイ様にお叱りを受けますよ」
そして、エルフィルが困ったような顔でそう言った。
レフラと視線を合わせたまま、3人が口々にどうにか考え直して欲しい、と説得をしてくる。彼等が本当に止めて欲しいと思っていることを、レフラも分かっている。
それでも、とレフラは首を振った。
確かにギガイは、自分が許可をした者以外とレフラが交流することさえ好まない。それに無謀なことをした時のギガイは、レフラにとっても恐かった。
過去の仕置きを思い出して、レフラはコクッと唾を飲む。だけどギガイは常々『逃げ出すようなマネや、損なうマネをしなければ、どんなワガママでも咎めない』と言っていたのだ。それに。
「ギガイ様をずっと閨へ誘いかけていた方が、わざわざこうやって会いに来られたんですよ?」
会いに来た理由は分からないけれど、きっと好意的な理由ではないだろう。
「だからこそ、申し上げております」
「そのような者に、レフラ様が会う必要はありません」
黒族内では、ナネッテの振る舞いは有名だった。だけどレフラが知っているのかは、分からなかった。そのため説得に困っていた3人だったが、知っているのなら、とハッキリとそれを理由に反対をする。
レフラへ悪意を抱いているかもしれない者。悪意とまではいかなくても、レフラと競合しようとする者。そういった者を、3人はレフラへ近付けたくないのだ。
「マテ茶はしっかりと飲んでます。それに、何かあったとしても、皆様が護って下さるでしょ?」
「もちろんです。その時はしっかりと御守り致します! ですがーーー」
「争いは好きではありません。でも、ごめんなさい。負けず嫌いなんです」
アハッと笑うレフラに、日々のギガイとのやり取りや、近衛隊との鍛練の様子を思い出した3人が顔を引き攣らせた。特に最後の近衛隊との鍛練なんかでは、あの若い武官に対してギガイの名前をダシにしてまで、勝負をしていたはずなのだ。
「それにギガイ様も、損なうマネをしなければ構わない、と仰っていました」
「いや、そうは言っても、さすがにこれはダメだと思います」
ラクーシュがガクッと項垂れる。その横でリランとエルフィルが「あぁぁ」だの「うぅぅ」だの唸っていた。
3人としては、この後に機嫌を損ねた主の姿が、簡単に想像できるのだ。だけどこの状態のレフラを説得できる気が全くしない。このまま強固に反対してレフラの機嫌を損ねることも、ギガイの不興を買うだろう。それになによりも、日常のささいなお願いさえ、控えめな態度で望むようなレフラなのだから、望むことはできるだけ叶えてあげたいと、3人だって思っていた。
「ギガイ様のお咎めが、皆さんに行かないように必ずします。だから私のワガママを聞いて下さい。お願いします」
眉尻を下げながら「ダメですか?」と尋ねる姿は、庇護欲を駆り立てる姿だった。それがレフラが信頼を寄せる者へだけ向ける素の表情だと知っている分、3人もダメだとは言い辛い。
「……ベールはしっかり被って下さい」
「……間には俺達が立ちますので、相手へ近付いたりは、なさらないで下さい」
「……状況によっては、お止めしますが、それでもよろしいですね?」
「はい!」
最大限の譲歩を得て、レフラは嬉しそうに微笑んだ。
果たしてこれで本当に良かったのか。そんなレフラに対して、3人は内心では複雑だ。でも嬉しそうなレフラを見れば、もう何も言えなくなる。互いに顔を見合わせた3人は、腹を括って立ち上がり、表情を引き締めて動き出した。
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