118 / 179
本編
第117 衆人の中 1
しおりを挟む
「次はどこに行くんですか?」
「ここから、向こうまでの通りの露店を視察する」
「えっ!? 移動ではなくて、ここが視察先なんですか?」
思わず明るく跳ねた声に、ギガイがイヤそうな表情を向けてきた。
「……お前は少しは控える気はないのか」
「だって、今日だけなんです! それとも、明日も降ろして下さいますか?」
「ダメだ」
ギガイからの即答に、レフラがベールの下で、むぅ、と膨れた。
レフラとしてもギガイの言いたいことが分からない訳じゃないのだ。だけど、今日を逃せば、もうこんな機会はそうそう巡って来ない。
誰かが自分の為に、色々な物を選んでくれることも、もちろん嬉しい。だけどレフラの為に選ばれた物は、どれも特別な物なのだ。
レフラとしては、出来ることなら、そんな特別な物だけじゃなくて、何でもない物でも手に取ってみたかった。
「じゃあ、やっぱり降りたいです」
「この通りの視察中は、ずっとという事か?」
「はい」
「移動中でなければ、良いって仰ってました」
「移動と殆ど変わらないだろう」
ブツブツと文句を言いながらも、ギガイがレフラを降ろしてくれた。言い出す事を見越してはいたのかもしれない。もう少し難航すると思っていただけに、アッサリと認めてくれたギガイへレフラが目を瞬いた。
3人もこの状況に、慣れてきたのか、すぐにレフラを囲んでくる。
「離れるのは、7つ隣りまでだ。それ以上は、アイツらに守らせた範囲を超えてしまうからな」
ギガイの指差した先には、近衛隊の武官達が囲む壁が存在していた。
それだけでも十分だ、とレフラは素直に頷いた。
「それでは、どこに向かいますか?」
「露店の視察は、一箇所にあまり時間を割かないので、すべてを見ることは難しいと思います」
「レフラ様が気になる店舗を、主に見ましょう」
「そうなんですか……」
でもどこにしようか、決めるにも、すべてが気になっているのだ。早く決めなくちゃいけないのに、焦る気持ちで、なかなか決めきれなくなってしまう。
慌ててキョロキョロとそれぞれの店を見比べれば、目の端にチラッと入った赤い物に、レフラの動きがフッと止まった。
「レフラ様、決まりましたか?」
「あっ、はい。あのお店を見てきたいです」
「じゃあ、向かいましょう」
そう言っている間に、すでに1つ目の店の視察を終えてしまったのか、次の店とやり取りが始まっているようだった。
「急ぎましょうか?」
「はい!」
パタパタと急ぎ足で向かうレフラに反して、3人は大股に歩く程度で、特に急いでいる様子はない。
「……何だか、複雑です……」
「何がですか?」
あまりの歩幅の違いから、レフラは埋め切れない種族の差など、色々なことを感じてしまった。だけど、こればかりは言ったところで仕方がない。
「……日頃はギガイ様も皆様も、私に合わせてくれていたんだな……と痛感しただけです……」
取り合えず、無難な事だけを告げておく。
「あとは、ギガイ様の視察に、歩いてついていくのは、ムリだと分かりました……足の長さが違い過ぎます……私の足が短い訳じゃないのに……」
レフラの最後の言葉に、リランが苦笑を浮かべて、エルフィルなんかはクククッとおかしそうに笑っていた。
レフラが小走りのまま、そんな2人をジトッと見上げるそばで、ラクーシュがニカッと笑顔を見せる。
「大丈夫ですよ、レフラ様! 好き嫌いなくちゃんと食べていたら、しっかり大きくなれますよ」
「ラクーシュ様……それは、ちょっとムリがあるかと……さすがに、これ以上は大きく成れないです……」
きっと悪意なく、励ますつもりで言ったのだろう。
「お前は、たびたび、たびたび、本当にバカだな!」
リランの手が、今日もまたラクーシュの頭を叩いていた。
「ここから、向こうまでの通りの露店を視察する」
「えっ!? 移動ではなくて、ここが視察先なんですか?」
思わず明るく跳ねた声に、ギガイがイヤそうな表情を向けてきた。
「……お前は少しは控える気はないのか」
「だって、今日だけなんです! それとも、明日も降ろして下さいますか?」
「ダメだ」
ギガイからの即答に、レフラがベールの下で、むぅ、と膨れた。
レフラとしてもギガイの言いたいことが分からない訳じゃないのだ。だけど、今日を逃せば、もうこんな機会はそうそう巡って来ない。
誰かが自分の為に、色々な物を選んでくれることも、もちろん嬉しい。だけどレフラの為に選ばれた物は、どれも特別な物なのだ。
レフラとしては、出来ることなら、そんな特別な物だけじゃなくて、何でもない物でも手に取ってみたかった。
「じゃあ、やっぱり降りたいです」
「この通りの視察中は、ずっとという事か?」
「はい」
「移動中でなければ、良いって仰ってました」
「移動と殆ど変わらないだろう」
ブツブツと文句を言いながらも、ギガイがレフラを降ろしてくれた。言い出す事を見越してはいたのかもしれない。もう少し難航すると思っていただけに、アッサリと認めてくれたギガイへレフラが目を瞬いた。
3人もこの状況に、慣れてきたのか、すぐにレフラを囲んでくる。
「離れるのは、7つ隣りまでだ。それ以上は、アイツらに守らせた範囲を超えてしまうからな」
ギガイの指差した先には、近衛隊の武官達が囲む壁が存在していた。
それだけでも十分だ、とレフラは素直に頷いた。
「それでは、どこに向かいますか?」
「露店の視察は、一箇所にあまり時間を割かないので、すべてを見ることは難しいと思います」
「レフラ様が気になる店舗を、主に見ましょう」
「そうなんですか……」
でもどこにしようか、決めるにも、すべてが気になっているのだ。早く決めなくちゃいけないのに、焦る気持ちで、なかなか決めきれなくなってしまう。
慌ててキョロキョロとそれぞれの店を見比べれば、目の端にチラッと入った赤い物に、レフラの動きがフッと止まった。
「レフラ様、決まりましたか?」
「あっ、はい。あのお店を見てきたいです」
「じゃあ、向かいましょう」
そう言っている間に、すでに1つ目の店の視察を終えてしまったのか、次の店とやり取りが始まっているようだった。
「急ぎましょうか?」
「はい!」
パタパタと急ぎ足で向かうレフラに反して、3人は大股に歩く程度で、特に急いでいる様子はない。
「……何だか、複雑です……」
「何がですか?」
あまりの歩幅の違いから、レフラは埋め切れない種族の差など、色々なことを感じてしまった。だけど、こればかりは言ったところで仕方がない。
「……日頃はギガイ様も皆様も、私に合わせてくれていたんだな……と痛感しただけです……」
取り合えず、無難な事だけを告げておく。
「あとは、ギガイ様の視察に、歩いてついていくのは、ムリだと分かりました……足の長さが違い過ぎます……私の足が短い訳じゃないのに……」
レフラの最後の言葉に、リランが苦笑を浮かべて、エルフィルなんかはクククッとおかしそうに笑っていた。
レフラが小走りのまま、そんな2人をジトッと見上げるそばで、ラクーシュがニカッと笑顔を見せる。
「大丈夫ですよ、レフラ様! 好き嫌いなくちゃんと食べていたら、しっかり大きくなれますよ」
「ラクーシュ様……それは、ちょっとムリがあるかと……さすがに、これ以上は大きく成れないです……」
きっと悪意なく、励ますつもりで言ったのだろう。
「お前は、たびたび、たびたび、本当にバカだな!」
リランの手が、今日もまたラクーシュの頭を叩いていた。
30
あなたにおすすめの小説
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる