泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第121 衆人の中 5

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「白族の内政に……というよりは、私が、レフラ様のご不興を買ってしまったのが悪いのです。ただ、このままでは白族自体へ害が及びかねなかったので、一族の為にも身を引くことになりました」

「……レフラが……なぜ、ナネッテ様に?」

「仕方ない事です。今やレフラ様はギガイ様の寵妃と言われる方。主であり夫と呼べる方とかつて情を交わらせた者など、不快でしょうから」

「では、貴女はギガイ様と、親密な間柄だったという事ですか」

「過去の話しですわ」

「それが本当なら、貴女ほどの人を、なぜ……?」

男女の事なのだ。本人同士にしか分からない事も多いはずなのだ。ここで『なぜ、ギガイ様が選ばなかったのか?』と尋ねる事が不粋だと気が付いて、イシュカが慌てて口を噤んだ。

でも、それを思わず考えてしまうほど、目の前のナネッテは、魅力に溢れている女性だった。

「ご質問頂いても、構いませんわ」

「申し訳ございません……」

「フフッ……イシュカ様は実直でいらっしゃるんですね」

「……」

「理由は……私が族長だったから……っということ、でしょうか……。レフラ様のように、ギガイ様のおそばに始終寄り添う事も、求められるままに身体を差し上げる事も出来なかったのです。……共に過ごされる時間に負けたというなら、仕方ありません……」

辛そうな表情を一瞬浮かべたナネッテが、それでも、と表情を切り替えた。その表情がナネッテのいじらしさや、誇りを感じさせて、イシュカは目が離せなくなる。

「でもイシュカ様なら、一族を背負う責務をご存知でいらっしゃるでしょう? 愛する方のそばに居られない事は、苦しいですわ。それでも私には、全うしなくてはいけない事が多々在ります。まして私達白族も、身体で媚びる種族だと言われているのですから、なおさらです」

そこで、ナネッテが言葉を切った。

「同じように、悔しい思いをされているイシュカ様なら、きっとお分かり頂けるでしょ?」

口元に浮かんだ笑みは弱々しく、その表情はどことなく疲れていた。それでも、イシュカを見つめる目は真っ直ぐで、愛する者を奪われ、立場を終われた今でも、折れない意思を持っている事が見て取れた。

重なった視線に、イシュカの鼓動がドクッと跳ねる。
ナネッテがイシュカの元に一歩ずつ近付いてくる。フワリと漂っていた香りが、どんどん濃さを増しているようだった。

官能的な匂いが強まるにつれて、喉が乾きを訴えている。アルコールが急激に回り始めた時のように、グルグルとした強い酩酊感が苛んでくる。

「そして。孕み族らしい、胎を使った契約だと、口さがなく言う者達に、イシュカ様がどれだけ口惜しく思っているのか、私には分かります」

「……」

「ですから、黒族との約定を改める事をオススメしますわ……」

「ナネッテ様も、黒族との約定を破棄するべきだと、お考えなんですね!」

「えぇ、そして新たに対等な協定を、他の部族と結べばよいのです」

「新たな、協定を……」

「えぇ。もし、イシュカ様にその気があれば、ご紹介できる者達は居りますわ」

「例えば……?」

「フフフ……今の段階では、ハッキリとは……ただ、全ての部族が黒族のように、統治が行き届く訳ではないんです。そういった部族の中では、次期族長がどの者となるかは、流動的ですから。私がご紹介する者は、そういった者達ですわ」

「……なぜ、貴女が私達跳び族へ、そこまでして下さるんです? 貴女にとっては、むしろ憎い一族でしょう?」

何と言っても、愛する者を奪った、御饌の一族なのだ。

「……一族を恨んだとしても、どうしようもございませんから」

本当は、どうしても思うところがあるのだろう。ナネッテが、遠いところを見つめていた。

「それにギガイ様があのように仰った今、私にはもう、自分の一族を守れる力はありません……なので、食堂でイシュカ様のお話しが聞こえてしまって、せめてイシュカ様だけでもと、ますます思ってしまったのかもしれません……」

「……せめて、私だけでも……でしょうか?」

「えぇ……。余計なお節介でしたでしょうか? ご迷惑でしたら、申し訳ございません」

長年相棒として共にいたシャガトでさえも、イシュカの考えを、なかなか理解してはくれなかった。
そんな中で得られたナネッテの言葉に、イシュカの胸が熱くなる。

「迷惑だなんて、とんでもございません! ありがとうございます……。なかなか理解が得られず、困っていた所です。ぜひ、私に力を貸して下さい!」

慌ててイシュカは、ナネッテへ手を差し出した。
驚いたのか、一瞬だけ間が開いた。だが、そのままナネッテが、イシュカの手を握り返してくる。ソッと包み込むように握られた手が、冷やりと心地良く、ますます高揚感を感じさせてくる。

(やはり、同じように族長として、村を背負う者でなければ分かり合えないのか)

ナネッテから得られた心地良い言葉や感触は、イシュカにそんな想いを植え付けた。
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