泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第129 陰る幸せ 1

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「けっこう収穫できましたね」

「はい、ありがとうございます!」

籠に詰まった赤い実を、宝石を見るとき以上にキラキラしている目で見ているのだ。
日頃は纏っている落ち着いた雰囲気が消えて、プレゼントを前にした子ども染みたレフラの様子に、3人は思わず顔を綻ばせた。

「とても、嬉しそうですね」

エルフィルがレフラの様子に、思わずクスッと笑いを漏らした。リランやラクーシュにしても、取り繕った様子のないレフラの姿に、ニコニコとした笑顔を浮かべている。

照れて否定をするか、慌て出すか。それとも、最近では無くなりつつある、感情を律した穏やかな笑みへ、切り替わってしまうのか。

エルフィルの言葉に予想していたのは、そんなレフラの反応だった。
だけど3人の予想に反して、レフラが浮かべたのは、どこか泣き出しそうにも見える笑顔だった。

「はい……初めて自分の手で、育てきれました……!」

籠に詰まったマトゥルの赤い実を、レフラが大切そうに1つ摘まみ上げて、掌にそっと転がした。

「……嬉しい、です……」

噛みしめるように聞こえた言葉に、3人が顔を見合わせた。

レフラの言葉から、報告書の中に載っていた過去や、ポツ、ポツとレフラ自身から聞いた話しを思い出したのは、きっと互いに同じなんだろう。

『どうして、開墾から初めてみよう、と思ったんですか?』

ラクーシュの何気ない質問へ『笑わないで下さいね』と前置きされた話しだった。

『御饌の役割が終わった時に、1人で生きていけるように成りたかったんです』

尋ねたラクーシュへ、レフラはそう言っていた。

『無謀な計画だって、ちゃんと分かっていたんですよ』

世間知らずからくる、甘い発言ではなかった。

『せめて季節を一巡りだけでも、できたら良いなって思ってて……志が低くて、ちょっと情けない話しですよね……』

最後まで独りで生きて、死んでいく。
そんな覚悟を、恥ずかしそうに笑っていた。

その時は、何も上手く言葉を返せずに、苦笑で収めた3人だった。だけど、その日の夜に自然と集まった3人で、酒を飲みながら、少し泣いてしまったのだ。

初めて耕した日に、楽しそうに声を上げて笑った姿を思い出して。その裏の覚悟を、今さら知って。

大の男が3人もだ。これは、互いに気まずい思い出だった。

何となく鼻の奥が痛くなり、堪えると、どうしたって表情がおかしくなる。だけど他の2人も同じような表情に加え、視線が柔らかくなっていた。

武官らしくない表情を、互いの顔を通じてそれぞれ認識して、また、気まずさに3人とも顔を背けて咳き込んだ。

「そうですね、レフラ様がご自身で畑を耕して、1から育てあげた野菜です」

「マメを作りながらも、頑張ってきた結果ですよ!」

リランとラクーシュの言葉に、顔を上げて頷くレフラの頬が少し赤くなっている。
嬉しい、と言葉だけじゃなくて、全身から感じる様子に、また3人は微笑んだ。

「召し上がってみては、どうですか?」

マトゥルの実は基本的に生で食べる野菜だ。特に取れたては美味しいはずなのだ。

「あ、はい。あの……」

だけど、何か思うところがあるのか、促すリランにレフラが何かを言いかけた。だけど言い辛いことなのか、躊躇う様子が見て取れた。

「どうかしましたか?」

「あっ、いえ。何でもありません。後で食べようと思います。ただ、すみません。皆様にも差し上げたいんですが、明日でも良いですか?」

「はい、もちろんです。頂けるだけでも、光栄ですから」

ただ、なぜ明日? と疑問に思ったのは、答えたラクーシュだけではなく、3人とも同じだった。そんな中でエルフィルだけが、レフラの様子から、さっき言いかけたことに何となく気が付いたのだ。

「では、レフラ様、先にギガイ様へ差し入れにでも行きましょうか?」

「えっ、ギガイ様の所へですか?」

「はい、せっかくレフラ様が初めて収穫された物ですから。1番美味しい時に召し上がって頂くのが、良いと思いませんか?」

他の2人も、エルフィルの意図を理解したのか。

「良いですね」

「きっと、喜ばれますよ」

レフラの背中を押すように、ニコニコと笑いかけていた。
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