泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第149 夢の終わり 1

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鍛え上げた小隊長クラスの武官ですら、ギガイの威圧を打ち消すことは難しい。そんな力を使われたのだ。抗う力がないレフラには、負担はかなり大きかった。

精神が崩壊しないよう、手加減は辛うじてされていたらしい。それでも、気を失ったまま発熱をしたレフラが、はっきりと覚醒をしたのは、あれから1週間以上経っての事だった。

その後もレフラ自身の体力や、薬の影響が重なって、まともに動けるようになる頃には、ゆうに一月以上過ぎていた。

「……レフラ様……」

ようやく医癒官からの許可が下りて、いつものソファーの上で会った護衛の3人は、まだ包帯を巻いているような状態だった。

「ごめんなさい。私のせいで、本当に、ごめんなさい……」

俯いてしまったレフラの顔を覗き込むように、3人が慌ててレフラの足元に膝を付く。

「いえ、これは俺達が勝手にした事です。レフラ様が気に病む必要はございません」

「それにあの後は、特にギガイ様からのお咎めなどもありませんから」

「まずは、レフラ様こそしっかりと療養して下さい」

こんな事態を引き起こしたのだ。それにも関わらず、エルフィル、リラン、ラクーシュと3人がそれぞれ口にするのは、レフラを気遣うような言葉だった。

どこまでも優しくレフラへ寄り添おうとしてくれる、そんな彼らを裏切った。そして、惜しみない愛情を注いでくれたギガイに対しても、手酷い裏切りをしてしまったのだ。

冷静になったいま。
3人の優しさに触れて、その事を改めて思い知らされる。

あの日から、一度もギガイは来なかった。
一月以上の間で一度もだ。口止めされているのか、堪りかねてギガイの様子を聞いた医癒官には、回答をはぐらかされている。

『いつも通りに、お過ごしです』

ただ迷うように告げられた、その言葉だけが全てだった。
その言葉が頭を回る。そして、顔を上げた先にあった3人の、あの日の傷付く姿が忘れられなかった。

「……ありがとうございます……もし、可能でしたら教えて下さい……」

「……どのような事ですか?」

「…………あの件は……どう、なったのでしょうか……?」

「申し訳ございません。お伝えできる答えを持っておりません……」

職務を超えた情報なのだ。本当に知らないのか、それとも口止めされているのか分からなかった。
ただ、分かるのは、レフラが知る術はない、という事だけだった。

「分かりました。申し訳ございませんでした……」

レフラが黙り込めば、沈黙が部屋に流れていく。
何も伝えることが出来ない以上、レフラが気持ちの整理をするのを待っているのかもしれない。リラン達3人も、レフラを黙ったままで見つめていた。

「……では、ギガイ様は……?」

長い沈黙の後に、レフラが小さな声で確認をした。
あの医癒官に答えはすでに貰っている。それでも、縋りたい気持ちがどうしても残っていた。

「……遠征に出ておられます」

そして返ってきた答えを噛みしめるように、レフラはゆっくりと瞬きをした。

「……そうですか」

魔種の討伐などの遠征は、ギガイの日常そのものだった。

(医癒官も “いつも通り” に過ごしているって仰ってましたから……)

きっとギガイの中であの件は、もう終わった話なのだろう。
そして、そんな日常の中で、レフラの元へのおとないが途絶えてしまったのだ。

(それだけのことを、してしまったんですよね……)

いつもいつも。

『逃げ出すマネと、損なうマネだけは許さない』

そう言われ続けてきた中で、自分の手でこの身体を傷付けて、命を盾に交渉の真似事をしたのだから。

(言葉の通り、許して貰えなかった……)

きっと自分は、それでも許して貰えると、どこかで、甘い期待をしていたのだ。
今回の裏切りに対するギガイの答えを目の当たりにして、痛む胸が情けなくて、辛かった。
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