泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

文字の大きさ
166 / 179
本編

第165 深淵を覗いて 3

しおりを挟む
ギガイが去ってどのぐらいの時間が経ったのか。重たい身体を動かして、イシュカは石の壁へともたれ掛かった。

ボンヤリと思い出されるのは、まだレフラと肩を並べていた幼少の頃の事だった。

あの頃に、何をしてもレフラに適わなかった。
生来、レフラは器用な質だったのだろう。イシュカが鍛錬を繰り返して、ようやくレフラに勝てた事さえ、次の勝負の時には容易くレフラはイシュカを上回ってきたのだ。

それが悔しくて、悔しくて、仕方が無かった。
それでもいつかは勝てる日が来ると信じて、ずっと鍛錬を続けていた。

(それも、アイツが御饌になったことで、どうしようも無くなったけどな)

勝ち取りたかった次期族長の座は、イシュカの元に、自動的に落ちてきた。そして同時に告げられた。

『御饌を差し出すことで、跳び族は黒族の庇護が受けられるのだ。御饌を差し出すことを、これからは1番に考えろ』

その言葉は、イシュカを打ちのめすには十分だった。

翁も先代であった父さえも。一族を護るのは御饌なのだと言っていた。それは、いくらイシュカが努力しようと、覆らない事実なのだと告げていた。

胃の中がカッと熱くなる。

『そんなの、アイツだって受け入れるもんか……。 孕むのと引き換えに一族を護ってもらうなんて……そんなの、そんなのは、結局孕み族だって、認めるようなもんだろうーー!!』

その中で、イシュカは絞り出すように訴えた。

孕み族と侮れる事をレフラも同じぐらい、腹を立てていたはずなのだ。だから、大きくなれば、そうやって侮られることがないように、誇り高く生きていく。その想いは、レフラも一緒なはずだった。

『レフラだってそんな約定を、受け入れる訳がない!』

だから、これからも。御饌だとか、そんな事は関係なく。いつかレフラに堂々と勝って、誇りを持ってこの一族を背負っていく。

イシュカは、そう思っていた。

それなのに、蓋を開ければアッサリと、レフラはその立場を受け入れていたのだ。

『レフラは、自分の成すべきことを分かっている。レフラが御饌である以上、次期族長はお前となる。お前もレフラのように、わきまえろ』

そうやって、諭される言葉へも、イシュカは嫌悪感しか感じなかった。

同じ思いなのだと、勝手に信じ切っていた。
大きくなれば矜持を持って、共に一族を護っていくのだと思っていた。

裏切られた、という思いが捨てきれずに、御饌として隔離されて過ごすレフラを、遠くから眺めていた。

日に日に御饌として、細く、華奢に育っていく姿。そのくせ、女のように丸みもなく、凜と佇む中性的な姿は、自分こそが一族を護るのだと見せつけているようで不愉快だったのだ。

(せめてアイツが御饌として、女の姿であったなら、まだ救われたのだろうか)

分からなかった。でも、ここまで来て、イシュカは心の深淵を覗いた気がした。
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...