泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第170 幕の内側 1

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ギガイの執務室の中。
遠征中に代理決裁をアドフィルが行っていたとはいえ、滞ってしまうものはどうしてもあった。そんな溜まりに溜まった書類を、ギガイはずっと捌き続けていた。

「最後の別れは、良かったのか?」

そろそろかと思い、確認した時計は、ちょうど跳び族の者達が発つ時刻を指している。ギガイは改めて、ソファーの上でリランから渡されていた本を読んでいる、レフラへ確認をした。

レフラが望めば、そこまで連れて行ってやるつもりだった。だけど、レフラ自身は元々そのつもりがなかったらしい。

ギガイの言葉に、キョトンとしたように視線を向けて、微笑を浮かべながら首を振った。

「もう昨日で、お別れは済ませましたから」

レフラの中で、何か1つの区切りをつけたのだろう。朗らかとは言えないが、それでもここ数日の中では、だいぶ穏やかな表情だった。

「そうか」

そんなレフラへ向かって、ギガイが手招きをする。読んでいた本と、抱えていたクッションを傍らに退かして、レフラが素直にギガイのそばへ近付いた。膝の上に抱え上げれば、ギガイを見上げたレフラが、少し躊躇いがちにギガイの身体へ腕を回してくる。

「お仕事の、お邪魔になりませんか……?」

「大丈夫だ。むしろ、これだけの書類を捌いたんだ。そろそろ私を、癒してくれ」

レフラの旋毛にキスをして、イスの背にもたれ掛かる。そのまま、レフラの背中をトントンと叩けば、レフラもこれまでのように、ギガイへ身体を預けてきた。やはり、昨日のあのシャガトという男と話しをした事で、何か踏ん切りをつけたようだった。

跳び族の惨状がハッキリして以降、気持ちに整理がつかないといったところか。日頃ギガイへ甘える、レフラの態度は以前に比べてだいぶぎこちなかった。

だが、ギガイから求めれば、素直にすり寄る様子ではあったのだ。そんな仕草から、ギガイへ対する感情の変化からでないことは、ハッキリしていたため、ギガイとしてもソッと様子を見ている状況だった。

だが、今は。遠征中に滞った、仕事に追われるギガイを気遣い遠慮はしても、ここ最近の固さはない。わずかに甘えが含まれているような雰囲気に、レフラを心配していたギガイの心も軽くなる。

「キスをしても良いか? お前がイヤなら止めておくが」

顎先を捕らえて上向かせ、ギガイがレフラの目を覗き込んだ。以前のように、身体だけを望んでいる訳ではないのだ。もしかしたら、心がまだ今回の件に囚われて、その気になれないかもしれない。
ギガイはムリに求める気はないのだから、レフラの目の中に、躊躇いが浮かぶのなら、止めておくつもりだった。

「私はギガイ様の御饌なのに、ギガイ様から求められて、イヤなはずがありません」

だけど、少し照れながら、伸び上がるようにレフラの方からキスをしたのだ。

「いいのか?」

「はい。さっきお伝えしたように、昨日でもう、跳び族の自分ともお別れをしたんです」

言い切ったレフラには、もう迷いは見られなかった。

「そうか」

「はい。ギガイ様、時間をくださり、ありがとうございました」

真っ直ぐにギガイを向く姿に、嫁いだ日の眼差しを重ねてギガイは柔らかく微笑んだ。

『痛みを分かち合って、生きていきたい』

そう告げられていた。だが、約定に基づいた婚姻だった。定めとして、受け入れざる得なかった関係だと、分かっている。
だからこそ、ずっと自分だけの御饌だと主張して、もう私の民と同様だと告げていても、レフラの全てを得ることの難しさを感じていた。

だけどいま、レフラが自分の意思で選んで、共に歩き出したことが伝わってくる。

(ようやく手に入れた)

そんな思いが湧き上がる。
ギガイは改めてこの存在を護ろうと、レフラの身体を抱き締めた。
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