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第一部

忌むべき孕み族 1

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ようやく話がまとまったのか、誰かが立ち去るような足音の後、閉ざされたままだった戸が音を立て、ゆっくり外へと開いていく。

話している内容までは分からなかったが、自分に関することなのだ、ということだけは分かっていた。

どのような決定がされたのか。

緊張で顔が強ばりそうになるのを、奮い立たせた矜持で抑え込む。

「お待たせ致しました、レフラ様。ここからは私、エクストルがご案内致します」

半身を馬車へ乗り入れて、招くように手を差し出したのは、黒族にしては小柄な体躯の男だった。
精一杯の愛想のつもりか、少し笑みを含んだような声にレフラは気付かれない程度に眉を顰めた。愛想が良いとはまた違う、嘲笑染みたように聞こえるその声音は先ほどレフラを『孕み族』と蔑んだ声だ。

「お持ち頂く荷物などはございません」

払い除けたい衝動を抑え、その手を取るつもりはないのだと、スッと目を逸らして支度する。

所在なさげに宙に浮いた、取る者の居ない手が滑稽だ。その手にレフラの溜飲もわずかに下がる。

だがエクストルと名乗った男にしては、もともと蔑んでいた相手にあしらわれたことが気に食わないのだろう。隠すことのない苛立ちが、表情には浮かんでいた。

乗り入れていた半身が外へ引く。入り口を塞いでいたものがなくなった馬車の乗り口を、レフラはようやく潜り出た。

初めて降り立った黒族の地は、掲げる種族の名に反して明るい陽光が射していた。その光を反射する敷石も建物も陽を受け白く輝いている。その光が眩しくて、思わず細めたレフラの目頭が熱くなる。

力の差でここまで変わるものなのか。

眩しく穏やかなこの場所が、レフラの心をささくれ立てる。

「レフラ様?」

「……申し訳ございません。急に明るい場所へ出たため、少し目眩を起こしました」

それでも目を瞬いて涙を隠し、レフラは悠然とした笑みを浮かべて見せた。

こんな場所で決して顔を下げたりはしない。

例え胎のみを望まれた蔑まれるような身だとしても、レフラ自身は成すべき責務を背負ってここにやって来たのだ。

レフラを支えるのは、そんなレフラ自身の矜持なのだから。こんな場所で易々と折れてやる訳にはいかなかった。

「でも、お気になさらずに。もう平気ですから」

「それは良かった。この後に、レフラ様にはお願いすることが多々ございますため、心配しておりました」

もう取り繕うことさえ止めたのか。エクストルに浮かぶ表情はニヤニヤとした不快な笑みだ。
その表情のまま傍らに再び手を差し出され、レフラもハッキリと不快だと表情を顰めてみせた。
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