12 / 229
第一部
唯一無二の御饌 2
しおりを挟む
「あぁ、そう言えば。今日は御饌様が嫁いでくる日でございましたね」
なるほど、といった顔でリュクトワスが大きく頷いた。その言葉に他の近衛官達も、腑に落ちた様子で互いに顔を見合わせている。
知る者は酷く限られた事だったが、歴代の黒族長とも自身の御饌への思い入れは、執着に近いモノだった。
絶望に近い孤独を背負わされ、他者を守り続ける者の飢餓感など、この位置に立たされた者にしか分からない。だからこそ、誰にもこの事には口を出させるつもりはなかった。
ただただ、歴代の族長に倣って迎え入れた自分の御饌を、何よりも慈しもうと思っていた。
「あぁ、だからさっさと戻れるよう、逃げた三体を始末しろ」
忌々しそうに足元の肉片に剣を刺す。こんな事がなければ、今頃はギガイ自身が主要地でレフラを迎えていたはずなのだ。
それなのにこんな領地の片隅に出現した魔種のせいで、急遽討伐に出る事になってしまった事が腹立たしい。
取るに足らない魔種だとしても、数が多ければ話しは変わる。数はそのまま力ともなる。個で向かって敗北する恐れがあるなら、連携して群れとしてその数を的確に潰していく。
その戦い方は黒族が最も得意とする方法だが、その連携が発揮できるのも族長であるギガイだけだった。
扇型に追跡し、内へ閉じるように弧を描く。そうすれば描いた円の内側に、逃げた魔種は閉じ込められたはずだ。案の定、そろそろかと想定した時間と大差なく、殲滅の報告が下より入った。
これでようやく主要地へ戻れる。ギガイの御饌へと会えるのだ。
逸る気持ちを抑えながら、被害の確認と撤収を命じようとしていた時。遠方より急速に駆けて来る獣の存在に気が付いた。
黒族の祖である獣と同じ姿。通常の狼よりも一回り大きなソレがギガイの前へと踊り出た。
獣人として進化したいま、人の姿から獣の姿へ変化できる者は多くはない。そして人の形で過ごす事を当たり前とした昨今、例え変化が可能だとしても獣の形を選ぶ事はそうそう有るような事ではなかった。
そんな中で四本脚で地を駆けてきたというならば、それだけ緊急の何かが生じたのだろう。
「ギガイ様、至急お戻りを!!エクストル様が御饌様を!!」
「レフラをどうしたのだ」
途端に纏う空気が変わり、周りの者が後ずさる。
今にも唸り声が聞こえそうな怒りに満ちた表情に、ギガイの前の獣の者も怯えたように耳が垂れた。
「御饌様の御身を確認される、と医癒棟の地下へ入られてしまい、私どもでは手が出せません」
頬に風を受けたのと、その報告を告げ終えたのは、いったいどちらが先だったのか。周りの者が認識するよりも先に、変化したギガイの脚が地を蹴って、空を切るように走っていた。
なるほど、といった顔でリュクトワスが大きく頷いた。その言葉に他の近衛官達も、腑に落ちた様子で互いに顔を見合わせている。
知る者は酷く限られた事だったが、歴代の黒族長とも自身の御饌への思い入れは、執着に近いモノだった。
絶望に近い孤独を背負わされ、他者を守り続ける者の飢餓感など、この位置に立たされた者にしか分からない。だからこそ、誰にもこの事には口を出させるつもりはなかった。
ただただ、歴代の族長に倣って迎え入れた自分の御饌を、何よりも慈しもうと思っていた。
「あぁ、だからさっさと戻れるよう、逃げた三体を始末しろ」
忌々しそうに足元の肉片に剣を刺す。こんな事がなければ、今頃はギガイ自身が主要地でレフラを迎えていたはずなのだ。
それなのにこんな領地の片隅に出現した魔種のせいで、急遽討伐に出る事になってしまった事が腹立たしい。
取るに足らない魔種だとしても、数が多ければ話しは変わる。数はそのまま力ともなる。個で向かって敗北する恐れがあるなら、連携して群れとしてその数を的確に潰していく。
その戦い方は黒族が最も得意とする方法だが、その連携が発揮できるのも族長であるギガイだけだった。
扇型に追跡し、内へ閉じるように弧を描く。そうすれば描いた円の内側に、逃げた魔種は閉じ込められたはずだ。案の定、そろそろかと想定した時間と大差なく、殲滅の報告が下より入った。
これでようやく主要地へ戻れる。ギガイの御饌へと会えるのだ。
逸る気持ちを抑えながら、被害の確認と撤収を命じようとしていた時。遠方より急速に駆けて来る獣の存在に気が付いた。
黒族の祖である獣と同じ姿。通常の狼よりも一回り大きなソレがギガイの前へと踊り出た。
獣人として進化したいま、人の姿から獣の姿へ変化できる者は多くはない。そして人の形で過ごす事を当たり前とした昨今、例え変化が可能だとしても獣の形を選ぶ事はそうそう有るような事ではなかった。
そんな中で四本脚で地を駆けてきたというならば、それだけ緊急の何かが生じたのだろう。
「ギガイ様、至急お戻りを!!エクストル様が御饌様を!!」
「レフラをどうしたのだ」
途端に纏う空気が変わり、周りの者が後ずさる。
今にも唸り声が聞こえそうな怒りに満ちた表情に、ギガイの前の獣の者も怯えたように耳が垂れた。
「御饌様の御身を確認される、と医癒棟の地下へ入られてしまい、私どもでは手が出せません」
頬に風を受けたのと、その報告を告げ終えたのは、いったいどちらが先だったのか。周りの者が認識するよりも先に、変化したギガイの脚が地を蹴って、空を切るように走っていた。
24
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる