泡沫のゆりかご 一部・番外編 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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第一部

跳び族での日々 4

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好意的な目が向けられない事は分かっていた。でも仕方がないじゃないか。この村は貧しいのだ。矢尻一つでも失いたくない大切な物資だ。

「俺が取るよ」

どうせ答えは分かっているから、レフラはその言葉と同時に跳ね上がった。跳躍力だけは昔と変わらず自信がある。矢への足掛かりとするあの枝までなら、レフラにとっては一回の跳躍だけで手が届く。

現に呆気なくその枝に掴まったレフラは、衝撃を伝えないようにクルリと円を描いて着地した。ただ足場とした枝は、イシュカよりだいぶ軽いレフラでも、あまり支える事は出来なさそうだった。背伸びをするように手を伸ばして手早く矢を抜いた後、レフラはそのまま飛び降りた。

ものの数秒の出来事だった。誰も状況へ言葉を発する前に、全てが終わった状態だった。

「はい、これ。次は気をつけて」

「ありがとう!!すごいなレフラ!!

「こんな軽々と取っちゃうなんて!!助かったよ!」

「取って貰えたのは感謝するが、お前は御饌なんだから無茶はするな」

嗜めながらも満更でもなさそうな声と、複数の素直な賛辞が聞こえてくる。矢を渡したサンジャスとその子からの反応は、予想通りの状況だった。別に村人達は悪意を抱いている訳ではない。状況によっては、こうやってレフラを認めて言葉もくれる。

ただ。貧しく毎日を必死に過ごす跳び族の村人は、目の前の日々を追いかけるだけで精一杯なのだ。

「ほらさっさと弓矢を仕舞わんか。飯の後は籠の修理があるからな、早く家の手伝いをしてこい!」

だからこうやって、些細な出来事は日常の仕事に押し出されて呆気なく過ぎていく。そこでレフラと彼等の接点が途絶えてしまうだけだった。

「分かってるよ、うんな怒鳴るなよ!」

バタバタと走り去る子ども達はもうレフラの方など見ていない。だけどそんな中でもレフラは特に表情を変えなかった。

分かっていたような状況なのだ。走り去る彼等の事も、そして今サンジャスの死角から憎々しげにレフラを睨むイシュカの事も。

「満足かよ?」

傍を通り過ぎようとしたレフラにだけ聞こえるように、低い声が掛けられる。立ち止まってイシュカの方を振り返っても、日が落ちて暗がりが広がるこの場所では陰に埋もれた表情は分からない。

(満足…?何に満足すれば良いんだろう?)

どんなに困った状況でも、あてにされない所か存在さえも思い出されないような自分なのだ。こんな立場の自分が何を満足すると言うのだろうか。戸惑いながらレフラがコテンっと首をかしげた。
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