157 / 229
第一部
揺れる足元 10
しおりを挟む
「お声を上げて笑う姿は始めて拝見しましたが、楽しんでいただけてるなら良かったです」
「あの…申し訳ございませんでした」
「何がですか?」
「私のワガママにお付き合いさせてしまって」
本来の武官としての仕事からは全く外れた作業なのだ。レフラが改まって頭を下げる。だがそんなレフラにあははと笑ったリランがとんでもないと否定した。
「先ほど申し上げた通り、通常ギガイ様はそばに非常に限られた臣下しか置かれません。それなのにこうやってギガイ様が唯一無二とされているレフラ様へのお仕えを任されるのは、信頼を頂いているようで私達には名誉ある事ですよ」
「リランの言う通りです。それに今はレフラ様の護衛を拝命されております」
「レフラ様の直属の臣下となりますから、気にされず何でもお申し付け下さい」
いつの間にそばに戻って来たのか、ラクーシュとエルフィルの追加の言葉にレフラは開いた口が塞がらなかった。
「えっ??護衛?えっ、直属??ご用聞きではなくて??」
「はい、ギガイ様から聞かれておりませんか?」
不思議そうなラクーシュにレフラがコクコクと頷いた。
「私の直属なんて、そんな……」
あまりの申し訳なさにうろたえるレフラも「我々では力不足でしょうか?」と言われてしまえばもう下手に遠慮もできない状況だった。
「お役に立ってみせますよ!ほらこのとおり!!」
「あっ、お前はまたフライングを!」
「この筋肉バカ共!細かく耕せば良いわけじゃないと言ってるだろ!!」
とたんに騒がしくなった3人に、またクスクス笑いながらレフラも地面を耕していく。だが久しく剣も握っていなかったレフラの手には負担が大きかったのだろう。
「イタッ……」
早々に出来てしまっていた豆が潰れて皮が剥けてしまっていた。
「大丈夫ですか!?」
慌てたように確認する3人は気が気じゃないと分かっている。それでもその掌を見ていると、こみ上がってくる笑いをレフラは抑えることができなかった。
「レフラ様?」
「も、申し訳ございません。何だかとても楽しくて」
「痛くはないのですか?」
「痛いことには痛いんですが、今までは御饌として嫁ぐ身だからと何もさせてもらえなかったので、こんな経験も始めてなんです」
フフッと笑いながら握ったり開いたりと手の動きを確認すれば、引き攣るような痛みが走っていく。そんな掌も痛みも新鮮でレフラはもう一度小さく笑ってしまった。
だがギガイより護衛を任されている3人にはそれでは済まない状況なのか、レフラへ困ったような表情が向けられたときだった。
「こんな所でやっているのか」
いぶかしげな低い声が聞こえてくる。
その方向に目を向ければ、声音と同じように不可解そうな表情を浮かべたギガイがこちらへ向かっていた。
「ギガイ様!」
あっ、とレフラが名前を呼んだのと、3人が一斉に片膝をついて頭を下げたのは、いったいどちらが早かったのかは分からない。
そんな3人にかまうことなく近付いたギガイが、レフラをいつものように抱え上げた。
わざわざ様子を見に来てくれたのだろう。
いつもなら昼餉以降に上に戻った時には黄昏前か、夕餉の頃にしか一時的な戻りもない状況なのだ。そんなギガイの気遣いが嬉しくて、弾んだ気持ちがいっそうふわふわと温かくなっていく。
直近で重なった瞳に思わずレフラの口からクスクスと笑いが漏れた。そんなレフラの雰囲気につられたのか。
「楽しそうだな」
眉をしかめて場所を見回していたギガイの表情が和らいで、口角を上げるように微笑みが返ってくる。
「はい、楽しいです!ただ…」
笑いながら差し出した手に、レフラが思わず苦笑した。脆弱としか言えない柔い肌が恥ずかしかった。
「下手くそすぎて、さっそく豆が出来てしまいました」
そんなレフラの目の前で、ギガイの柔らかな表情がスッと消えて冷たくなっていった。
「あの…申し訳ございませんでした」
「何がですか?」
「私のワガママにお付き合いさせてしまって」
本来の武官としての仕事からは全く外れた作業なのだ。レフラが改まって頭を下げる。だがそんなレフラにあははと笑ったリランがとんでもないと否定した。
「先ほど申し上げた通り、通常ギガイ様はそばに非常に限られた臣下しか置かれません。それなのにこうやってギガイ様が唯一無二とされているレフラ様へのお仕えを任されるのは、信頼を頂いているようで私達には名誉ある事ですよ」
「リランの言う通りです。それに今はレフラ様の護衛を拝命されております」
「レフラ様の直属の臣下となりますから、気にされず何でもお申し付け下さい」
いつの間にそばに戻って来たのか、ラクーシュとエルフィルの追加の言葉にレフラは開いた口が塞がらなかった。
「えっ??護衛?えっ、直属??ご用聞きではなくて??」
「はい、ギガイ様から聞かれておりませんか?」
不思議そうなラクーシュにレフラがコクコクと頷いた。
「私の直属なんて、そんな……」
あまりの申し訳なさにうろたえるレフラも「我々では力不足でしょうか?」と言われてしまえばもう下手に遠慮もできない状況だった。
「お役に立ってみせますよ!ほらこのとおり!!」
「あっ、お前はまたフライングを!」
「この筋肉バカ共!細かく耕せば良いわけじゃないと言ってるだろ!!」
とたんに騒がしくなった3人に、またクスクス笑いながらレフラも地面を耕していく。だが久しく剣も握っていなかったレフラの手には負担が大きかったのだろう。
「イタッ……」
早々に出来てしまっていた豆が潰れて皮が剥けてしまっていた。
「大丈夫ですか!?」
慌てたように確認する3人は気が気じゃないと分かっている。それでもその掌を見ていると、こみ上がってくる笑いをレフラは抑えることができなかった。
「レフラ様?」
「も、申し訳ございません。何だかとても楽しくて」
「痛くはないのですか?」
「痛いことには痛いんですが、今までは御饌として嫁ぐ身だからと何もさせてもらえなかったので、こんな経験も始めてなんです」
フフッと笑いながら握ったり開いたりと手の動きを確認すれば、引き攣るような痛みが走っていく。そんな掌も痛みも新鮮でレフラはもう一度小さく笑ってしまった。
だがギガイより護衛を任されている3人にはそれでは済まない状況なのか、レフラへ困ったような表情が向けられたときだった。
「こんな所でやっているのか」
いぶかしげな低い声が聞こえてくる。
その方向に目を向ければ、声音と同じように不可解そうな表情を浮かべたギガイがこちらへ向かっていた。
「ギガイ様!」
あっ、とレフラが名前を呼んだのと、3人が一斉に片膝をついて頭を下げたのは、いったいどちらが早かったのかは分からない。
そんな3人にかまうことなく近付いたギガイが、レフラをいつものように抱え上げた。
わざわざ様子を見に来てくれたのだろう。
いつもなら昼餉以降に上に戻った時には黄昏前か、夕餉の頃にしか一時的な戻りもない状況なのだ。そんなギガイの気遣いが嬉しくて、弾んだ気持ちがいっそうふわふわと温かくなっていく。
直近で重なった瞳に思わずレフラの口からクスクスと笑いが漏れた。そんなレフラの雰囲気につられたのか。
「楽しそうだな」
眉をしかめて場所を見回していたギガイの表情が和らいで、口角を上げるように微笑みが返ってくる。
「はい、楽しいです!ただ…」
笑いながら差し出した手に、レフラが思わず苦笑した。脆弱としか言えない柔い肌が恥ずかしかった。
「下手くそすぎて、さっそく豆が出来てしまいました」
そんなレフラの目の前で、ギガイの柔らかな表情がスッと消えて冷たくなっていった。
23
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる