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第一部
誤りを正して 8
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「本当のことですか…?」
最近は見ることが増えた濃褐色の眼をレフラが戸惑いながら見つめ返す。
「なぜお前の過去を知られる事がそれほど不安なのかが分からない。どのような事を知ったとしても私にはお前が唯一である事は変わらない。お前への想いは何も変わらない。それなのになぜそこまで頑なに知られる事を拒絶する?」
「…最後までただのレフラで居たかったから…だから知られたくなかったんです」
「…最後まで?」
「はい」
「もうご存知の通り、ずっと跳び族を守るための供物、黒族へ胎を差し出す存在だと育てられました。だから子を成すための道具としてだけ、扱われると思ってたんです」
レフラが自分の下腹部をそっとなぞる。
「でも違っていたから、嬉しかったんです……嫁いだばかりの時は辛かった事もあったけど、それでもギガイ様から優しくして頂けることも多くて…何よりも今までは誰も傍に寄り添ってくれた事がなくて。あんな風に抱き締めてもらえたり、優しい言葉をもらえたこともなくて……だからとっても嬉しかったんです」
何も言わずにレフラを見つめ続けるギガイが何を考えているのかは分からなかった。だからこそ聞いてもらえる今の内に、想いを伝えておくべきなのだろう。
レフラが姿勢を正して真っ直ぐにギガイの方へ向き直る。
「子を成すためだけの者ですが、感情を酌んで下さりありがとうございます。ただ胎を差し出す道具ではなくて、心を持った者だと扱って頂けて幸せです」
「……幸せではあるのか?」
「はい、もちろん!だから、この期間だけは供物としての自分ではなくて、レフラとして最後までギガイ様に見てもらえたら嬉しいのに…、と思ってしまいました」
今まで花に水を与えるように優しい言葉を与え続けてくれたギガイを思い出して、ほころぶようにレフラがフワッと微笑んだ。
「ギガイ様はお優しいから、扱いは変わらないと信じてたんですよ。でもどうしても最後まで知られたくなかった…。知られないままで終わっていきたかったんです」
「……終わりか…」
「あっ、あの。こんな事になってしまいましたが、胎は本当に無事なんです。ですから、役目が終わるまでは精一杯頑張りますので、このまま御饌として務めを果たさせて頂けないでしょうか?」
「…お前が御饌だと言っただろう」
「ありがとうございます。子を成せるまで精一杯頑張ります」
「…子を成した後は、お前はどうするのだ」
「前もお伝えした通り子を成すための存在なので、もうお役に立つ事ができないと思います。私から離れるようなマネはしないというお約束なので、不要になったらお伝えください。出て行きます」
「お前は出て行きたいのか?」
「……お役に立てないまま、おそばにいるのはツラいです」
その顔を真っ直ぐに見つめていたギガイが何かを堪えるように目を瞑り重たい溜息を吐き出した。
最近は見ることが増えた濃褐色の眼をレフラが戸惑いながら見つめ返す。
「なぜお前の過去を知られる事がそれほど不安なのかが分からない。どのような事を知ったとしても私にはお前が唯一である事は変わらない。お前への想いは何も変わらない。それなのになぜそこまで頑なに知られる事を拒絶する?」
「…最後までただのレフラで居たかったから…だから知られたくなかったんです」
「…最後まで?」
「はい」
「もうご存知の通り、ずっと跳び族を守るための供物、黒族へ胎を差し出す存在だと育てられました。だから子を成すための道具としてだけ、扱われると思ってたんです」
レフラが自分の下腹部をそっとなぞる。
「でも違っていたから、嬉しかったんです……嫁いだばかりの時は辛かった事もあったけど、それでもギガイ様から優しくして頂けることも多くて…何よりも今までは誰も傍に寄り添ってくれた事がなくて。あんな風に抱き締めてもらえたり、優しい言葉をもらえたこともなくて……だからとっても嬉しかったんです」
何も言わずにレフラを見つめ続けるギガイが何を考えているのかは分からなかった。だからこそ聞いてもらえる今の内に、想いを伝えておくべきなのだろう。
レフラが姿勢を正して真っ直ぐにギガイの方へ向き直る。
「子を成すためだけの者ですが、感情を酌んで下さりありがとうございます。ただ胎を差し出す道具ではなくて、心を持った者だと扱って頂けて幸せです」
「……幸せではあるのか?」
「はい、もちろん!だから、この期間だけは供物としての自分ではなくて、レフラとして最後までギガイ様に見てもらえたら嬉しいのに…、と思ってしまいました」
今まで花に水を与えるように優しい言葉を与え続けてくれたギガイを思い出して、ほころぶようにレフラがフワッと微笑んだ。
「ギガイ様はお優しいから、扱いは変わらないと信じてたんですよ。でもどうしても最後まで知られたくなかった…。知られないままで終わっていきたかったんです」
「……終わりか…」
「あっ、あの。こんな事になってしまいましたが、胎は本当に無事なんです。ですから、役目が終わるまでは精一杯頑張りますので、このまま御饌として務めを果たさせて頂けないでしょうか?」
「…お前が御饌だと言っただろう」
「ありがとうございます。子を成せるまで精一杯頑張ります」
「…子を成した後は、お前はどうするのだ」
「前もお伝えした通り子を成すための存在なので、もうお役に立つ事ができないと思います。私から離れるようなマネはしないというお約束なので、不要になったらお伝えください。出て行きます」
「お前は出て行きたいのか?」
「……お役に立てないまま、おそばにいるのはツラいです」
その顔を真っ直ぐに見つめていたギガイが何かを堪えるように目を瞑り重たい溜息を吐き出した。
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