切り取られた青空

神山 備

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切り取られた青空

塗り重ねる嘘

 夢の中にいた私を、携帯の着信音が一気に現実に引き戻した。この音は……私の実家だ。
「あ、おかあさん?ごめんね、話し込んじゃっててすっかり遅くなっちゃって……今から迎えに行こうと思ったんだけど、マナ寝ちゃったの? 陸も映画が終わるまで帰らないって? いいの? じゃぁ明日迎えに行ったら良いのね。ありがとう、じゃぁそうするわ。」
私はすぐにでも迎えに行けるかの様な口ぶりで母に応対する。でも、まだ東京-しかも私の隣には亮平がいる。

「今のはお母さん?」
電話を切った後すぐ、亮平がそう聞いた。
「私のね。今日は迎えに来なくて良いって」
「迎えに行かないでいいなら、もう少し一緒に居られる?」
「ありがとう……でも、車を家に置いてきたから帰らなきゃ」
「じゃぁ、明日は逢える? 帰ってしまったらなかなか逢えないから」
「明日……明日は日曜日だから、ちょっとムリ」
さすがに子供たちを置いて二日も出られない。
「じゃあ明後日は? 有給がたまってるからもう1日ならこっちに居るのを延ばせる」
「うん、月曜なら大丈夫だと思うわ。帰ってまたメール入れるわ」
「待ってるよ」
亮平はそう言って、別れ際口づけを一つ落とした。


 帰り着いた私は、家に入るとまず、シャワーを浴びて自分の香りをこの家のものに戻した。修司はもう眠っているみたいだ。

風呂場から出てきた私は、リビングの床に座り込んだ。そこに、しばらくして修司が起きてきた。
「いつ帰ってきたんだ?」
「うん…?ちょっと前」
「こどもたちは?」
「マナが寝ちゃってて、置いてきちゃったの。陸もテレビの映画を最後まで見たいって言うし。結局お酒も飲まなかったし、小橋に車置いとけば良かった」
と、さも、実家に寄って置いて来たように私は言った。ちなみに、小橋というのは、私の旧姓だ。
「ま、いいじゃん。それなら俺、明日も出かけっから、お前もあっちでゆっくりしてきていいよ。」
すると、修司はそんな私の嘘に気づきもしないでそう答えた。私はホッとする反面、休みの度にどこかに出て行く修司に少し腹を立てていた。
(本当は、もうこんなことを言える立場ではないのに)そう思いながら。

「じゃ、先に寝るわ」
修司が寝室に戻り際、そう言うとすっと私を抱きしめた。
「きゃぁ!」
夫婦だから当たり前なのに、私はその時叫び声を上げて飛び退いてしまった。
「ん? 何??」
修司が不思議そうに私の顔をのぞき込んだ。
「ごめん…今日はかなり疲れてるみたい。メールだけチェックしたら寝るから」
「おう、早く寝ろよ」

私は修司が寝室に入るのを確認してパソコンを開いた。宣伝以外にメールは2通、1通は亮平から。そしてもう1通は……うららさんからだった。

-かりんちゃん、どーも!きょうはおつかれさんでした。(中略)

ところで、今日の取材の帰りにかりんちゃんとエイプリルさんが一緒だったのを見かけたような……もう2人とも普通だから良く似たカップルを見間違えたのかもしんないけどさ。
私もオフ会でアブナイとか言ったし、なんか気になってね。人違いならいいけど。
んじゃぁ、また♪                                        うららー

-人違いですよ~。私、こども迎えに実家に帰ったし。 
今日は楽しかったですね。また、オフ会やりましょうね 
                           
                                                かりん-
そう打ち込んだら、涙が出た。私はどれだけ嘘をつけばいいんだろう。
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