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切り取られた青空
電話
その日は修司は朝早く大阪に出張していた。瞳はやはり水疱瘡で、
「今時は大人になるまでかからないで重症化する人が多いんですよ。こどもの内の方が軽く済みますから、良かったんじゃないですか」
と診察を受けたお医者様に言われて帰ってきた。
「陸ももう済んでるけど、今日はパパもいないし、マナはママと一緒に寝させるわね」
家に帰ってそう言うと、
「あ~、 マナずるい!」
と言って陸が拗ねた。
「小学校3年にもなって、何言ってるの、陸」
「マナだって小学生じゃん」
「そうだけど、マナは病気でしょ」
「……」
陸は不満そうに口をとがらせたままだ。
そんな話をしていると、電話が鳴った。修司からだった。
「あのさ、仕事が長引いちゃってさ、明日帰れると思ってたんだけど、まだこっちに2~3日かかりそうなんだ」
「大変ね。でも、こっちも大変だったのよ、マナが熱出したって学校から電話かかってきて、病院に連れて行ったら水疱瘡だって」
「水疱瘡か……ならないより、なった方がいいんだろ。」
「それはそうだけど、今日からしばらく動けないわ」
「ゴメン、目処がついたらなるべく早く帰るから」
「わかった、気をつけてね」
「おう」
前にも出張が長引くことはなくはなかったから、私はすんなりとその言葉を信じていた。
しかし……その翌々日のことだった。
「もしもしコハちゃん?(私の会社時代のニックネーム、旧姓小橋から)修いるかな」
「え、まだ帰ってきてないですよ」
それは私も知ってる修司の同期の男性社員北川さんだった。
「病院にでも行ってるの? 電源切ってあったから、こっちに電話したんだけど。一昨日、大阪からファックスしてもらった資料のことで、帰ってきたら電話くれるように言ってくれるかな。で、ちょっとは元気になった?修。連日オーバーワークだったから、風邪も引くわな」
「え?ええ……まぁ」
病院? 風邪? 何のことだと思いながら、驚いた私は咄嗟に修司のアリバイ工作の片棒を担ぐような返事をしていた。北川さんに修司が帰ってきていないことを知られたら、それはそれで会社には問題なのだろうからと思って……
「コハちゃんも移されんなよ」
「はい」
私は当たり障りなく返事をして電話を切った。
本当は出張はやっぱり1日でおわっていたんだわ。じゃぁ、何のためにあんな電話をよこして帰って来ないんだろう……それって、やっぱり浮気?
受話器をホルダーに戻してから私は、わなわなと震えてリビングの床にへたり込んだ。
私ってば、自分のことを棚に上げて動揺してる……
それはどうにも説明のつかない不思議な感情だった。
私は修司の携帯に電話を入れてみた。やはり電源を切ってあってつながらない。
とにかく私は、修司に北川さんに電話を入れるようにとだけメールを入れた。
そして……次の日には珍しく修司の兄が珍しく電話をかけてきた。
「加奈ちゃん、修司に言われてた物件だけど、1つ良さそうなのがあるって言っといて。早めに1度帰って来いって」
「物件?」
「えっ、あいつ……まさか加奈ちゃんにまだ……あ、それならもう一度携帯に電話してみるよ」
お兄さんは、私が物件の意味が解からないのが判ると、明らかに慌ててそそくさと電話を切ってしまった。
修司は愛知県の出身で、お義兄さんは家を継いで今も実家に住んでいる。そのお義兄さんが見つけてくる物件って一体何? 修司は何をしようとしているんだろうか。
私はまた修司に電話を入れた。しかし、このときにも電話はつながらなかった。いろんなことで頭が混乱し、いっぱい聞きたいこと、聞かねばならないことが山ほどあるというのに……
気がつくと、学校にはまだ行けないが、元気になった瞳がそばに来ていた。
「ママ、どうかしたの?」
瞳は私の顔を覗き込んでそう言った。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「だって、すごくこわい顔してるよ」
「そう?」
私は心配そうな瞳に向かって無理に笑ってみせた。
「今日はパパ帰って来るかな。お土産何かな。」
すると瞳は待ち遠しそうにそう言った。
でも……修司は本当に帰ってくるのだろうか。2~3日で帰るって言ってはいたから、今日か明日には……けれど私は帰って来るとは言えず、瞳を抱きしめて泣いていた。
「ママ、痛いよ。」
という瞳の声に
「ごめんね……」
と謝り続けながら。
「今時は大人になるまでかからないで重症化する人が多いんですよ。こどもの内の方が軽く済みますから、良かったんじゃないですか」
と診察を受けたお医者様に言われて帰ってきた。
「陸ももう済んでるけど、今日はパパもいないし、マナはママと一緒に寝させるわね」
家に帰ってそう言うと、
「あ~、 マナずるい!」
と言って陸が拗ねた。
「小学校3年にもなって、何言ってるの、陸」
「マナだって小学生じゃん」
「そうだけど、マナは病気でしょ」
「……」
陸は不満そうに口をとがらせたままだ。
そんな話をしていると、電話が鳴った。修司からだった。
「あのさ、仕事が長引いちゃってさ、明日帰れると思ってたんだけど、まだこっちに2~3日かかりそうなんだ」
「大変ね。でも、こっちも大変だったのよ、マナが熱出したって学校から電話かかってきて、病院に連れて行ったら水疱瘡だって」
「水疱瘡か……ならないより、なった方がいいんだろ。」
「それはそうだけど、今日からしばらく動けないわ」
「ゴメン、目処がついたらなるべく早く帰るから」
「わかった、気をつけてね」
「おう」
前にも出張が長引くことはなくはなかったから、私はすんなりとその言葉を信じていた。
しかし……その翌々日のことだった。
「もしもしコハちゃん?(私の会社時代のニックネーム、旧姓小橋から)修いるかな」
「え、まだ帰ってきてないですよ」
それは私も知ってる修司の同期の男性社員北川さんだった。
「病院にでも行ってるの? 電源切ってあったから、こっちに電話したんだけど。一昨日、大阪からファックスしてもらった資料のことで、帰ってきたら電話くれるように言ってくれるかな。で、ちょっとは元気になった?修。連日オーバーワークだったから、風邪も引くわな」
「え?ええ……まぁ」
病院? 風邪? 何のことだと思いながら、驚いた私は咄嗟に修司のアリバイ工作の片棒を担ぐような返事をしていた。北川さんに修司が帰ってきていないことを知られたら、それはそれで会社には問題なのだろうからと思って……
「コハちゃんも移されんなよ」
「はい」
私は当たり障りなく返事をして電話を切った。
本当は出張はやっぱり1日でおわっていたんだわ。じゃぁ、何のためにあんな電話をよこして帰って来ないんだろう……それって、やっぱり浮気?
受話器をホルダーに戻してから私は、わなわなと震えてリビングの床にへたり込んだ。
私ってば、自分のことを棚に上げて動揺してる……
それはどうにも説明のつかない不思議な感情だった。
私は修司の携帯に電話を入れてみた。やはり電源を切ってあってつながらない。
とにかく私は、修司に北川さんに電話を入れるようにとだけメールを入れた。
そして……次の日には珍しく修司の兄が珍しく電話をかけてきた。
「加奈ちゃん、修司に言われてた物件だけど、1つ良さそうなのがあるって言っといて。早めに1度帰って来いって」
「物件?」
「えっ、あいつ……まさか加奈ちゃんにまだ……あ、それならもう一度携帯に電話してみるよ」
お兄さんは、私が物件の意味が解からないのが判ると、明らかに慌ててそそくさと電話を切ってしまった。
修司は愛知県の出身で、お義兄さんは家を継いで今も実家に住んでいる。そのお義兄さんが見つけてくる物件って一体何? 修司は何をしようとしているんだろうか。
私はまた修司に電話を入れた。しかし、このときにも電話はつながらなかった。いろんなことで頭が混乱し、いっぱい聞きたいこと、聞かねばならないことが山ほどあるというのに……
気がつくと、学校にはまだ行けないが、元気になった瞳がそばに来ていた。
「ママ、どうかしたの?」
瞳は私の顔を覗き込んでそう言った。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「だって、すごくこわい顔してるよ」
「そう?」
私は心配そうな瞳に向かって無理に笑ってみせた。
「今日はパパ帰って来るかな。お土産何かな。」
すると瞳は待ち遠しそうにそう言った。
でも……修司は本当に帰ってくるのだろうか。2~3日で帰るって言ってはいたから、今日か明日には……けれど私は帰って来るとは言えず、瞳を抱きしめて泣いていた。
「ママ、痛いよ。」
という瞳の声に
「ごめんね……」
と謝り続けながら。
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