切り取られた青空

神山 備

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切り取られた青空

欠片をつなぐもの

「加奈子、開けろよ!」

修司はしばらく扉を叩いていたが、少しするとその音はしばらく止んで、鍵を開ける音がした。ああそうだ……このドア、鍵のタブは内側しかないけど、実は硬貨を使えば外からも開けられるんだっけ…‥
「来ないで!!」
私はドアを開けて入って来た修司にそう叫んだ。
「ごめん俺、加奈子がそんなに嫌がってるって思わなかった。そりゃそうだよな、いきなり板倉の家の方に来いって言ってもな」
そうか、修司は自分の親元に引き寄せる形になることを嫌がってるんだと思ってるんだ。実際に近くなればトラブルがないかどうかはわからないけど、板倉の義父や義母を私はちっとも嫌だと思ってない。
「そんなんじゃないわ」
「じゃぁ、何だ?」
「私、あなたをちっとも信じてなかった。あなたが浮気してるんだってずっと思ってた」
それを聞いて修司は息を呑んだ。そして、少しの沈黙の後、
「お前……そんなこと考えてた訳!? 大体、俺がそんなにモテる訳ゃねーじゃん。バカだな…‥」
と言って、修司は私の頭をこどもにするように優しく撫でた。
「そんな風に思ってくれるのは、加奈子お前だけだよ。お前だけだから。ホント、今日はお前、恥ずかしいことばかり言わせるよな。」
修司は座り込んでしまっている私に合わせて腰を落として、口づけた。

私はこんなに優しい人を裏切ってしまったんだ。そう思うと尚更涙が止まらなくなって、私は思わず彼から顔を背けた。
そうだ、こんな優しい人を裏切ったんだもの…私は罰を受けなくちゃいけない。言わなきゃ……そして、修司からも亮平からも離れよう。

「……実は…‥」
私が涙でかすれた声で自分の罪を告白しようとした時、陸が部屋に飛び込んできた。
「引越しだなんて、僕はイヤだよ!パパは自分のことしか考えてないんだ!来年からやっと正メンバーに入れてもらえるのに!」
陸は少し遠くても、全国大会に頻繁に出ている今のFC行きたいと自分から言い出したくらいだから、離れたくないのだろう。
「陸、聞いてたのか。」
「あんな大きな声だしたら、聞こえるよ!」
陸はふくれっ面でそう答えた。
「ねぇママ、ママも行きたくないんだよね。行かないって言ってよ!!」
そして私に向かってすがりつくような目をしてそう言った。
「サッカーなんてどこでもできるじゃん。」
「僕はあのチームが良いんだ、パパは何もわかってないよ、パパのバカ!パパなんてだいっ嫌いだ!!」
そう言うと陸はこども部屋に泣きながら走っていった。
そして、入れ替わりに今度はおずおずと瞳が入ってきた。もう既に目に一杯涙を溜めながら…
「ねぇ、マナ一緒じゃないとヤダよ。パパもママもお兄ちゃんもみんな……バラバラなんてダメだよぉ……マナはみんな一緒だったらどこでもいくよ、ねぇ……」
そしてついに本格的に泣き出した。

私にはその瞳の一言が痛くてとても温かかった。

みんなが一緒にいなくちゃダメ……それが、私が亮平の岐阜への誘いに答えられなかった本当の理由なのかもしれない。
たとえば、私と修司の欠片同士が隙間だらけで今にも崩れそうであったとしても、そこに陸や瞳とが溶け合って新しくつなぎ合わされていたんだ。そしてそうやってつなぎ合わされた欠片はきれいに合ってはいてもつなぎ直されていないものよりずっと強くなる。見た目はいびつだとしても…

私は自分の罪を償うことで今度はつなぎ直された欠片を粉々に壊してしまうことになるのか……それもできない。そう思うと、私はすんでのところで自分の罪を飲み込んでしまうしかなかった。




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