切り取られた青空

神山 備

文字の大きさ
47 / 65
いと

ソシテ、ボクハ壊レテイク……

 私はあれ以来、一度もブログ更新をしていなかった。目標を達成してから摂取カロリーを上げたもののカロリー管理も続けていたのだが、それも止めて普通に食べていた。普通に食べているつもりだが、ダイエットしてきた食生活が当たり前になってしまった今、急にリバウンドするということはなかった。

 あの電話から何日経った頃だったろうか、夕方会社から帰宅した途端携帯に着信があった。番号だけの着信に、一度は間違いかと思ってそのままにしたが、またかかってきたので取った。

「あの……エイプリルさんですか」
「ええ、そうですが」
それは、若い女性の声だった。エイプリルということは、オフ会のメンバーか……
「私、設楽香織です。あ、“エル”です。」
女性は名乗ってから、ハンドルネームで言わないと判らないかと思い、慌ててハンドルネームを付け足した。
「ああ、エルちゃん、どうしたの?」
そういえば、オフ会の写真を送ってくれると言うので、住所と携帯番号も書いた覚えがある。
「会っていただけませんか」
と、彼女-エルは言った。そして、
「今、〇〇の駅にいるんです」
と言った。私はは駅名を聞いてまた驚いた。それは私の家の最寄り駅だった。
「〇〇? じゃぁ、とにかくそこまで行くよ。15分ぐらいかかると思うけど」
「はい、お待ちしております」
私は首を傾げながら電話を切った。彼女は何故住所1つでここまで来たのだろう。一体何のために……?
 私は訳も分からぬままその最寄り駅まで車を走らせた。どうせ、近くに旅行で来たついでにでも寄ったのだろう。なら、ちょっと話して岐阜羽島まで送ってやろう。まだ新幹線はある、でも常磐線には乗り継げる時間だろうか……そんなことを考えながら。

 そんな私の想像は彼女の思い詰めた表情をみて、吹き飛んだ。
「どうしたの、いきなり。こっちの方に用事でもあって寄ってくれた?」
それでも、私はとりあえずそう尋ねた。彼女はうつむきながらゆっくり被りを振った。
「とにかく乗って、岐阜羽島まで送るよ」
私がそう言うと、彼女はものすごく悲しげな目をして黙ったまま車に乗り込んだ。

 車が走り出してからしばらくして、彼女はやっと口を開いた。
「エイプリルさんは…エイプリルさんもブログ止めちゃうんですか。」
それは細く消え入りそうな声だった。私はそれに答えることができなかった。
「かりんさんが突然ブログ止めちゃったからですか? 何となくエイプリルさんはかりんさんのこと好きなんじゃないかとは思ってましたけど、そんなので止めちゃうんですか?」
そして、いきなりかりんの名前を出してきた彼女……だが、その時はまだかりんの名前を聞いて冷静で入られるほど私は大人ではなかった。
「僕がかりんのことが好きだって!? それがエルちゃんに何の関係がある!!」
かろうじて路肩に車を止めて、私は自分でもビックリするような大声で怒鳴っていた。
「関係あります! 私、エイプリルさんが好きだから……まだ一緒にいて欲しいから……急にいなくなっちゃうなんて嫌です。このままだとエイプリルさんブログやめちゃう……そう思ったら、いてもたってもいられなくなったんです。」
エルは涙を溜めながらそう言った。彼女が私を? 嘘だ! 彼女はコメントだけで、かりんのような個人的なやり取りなんて何もなかったのに。
「好きだなんてそんなこと、軽々しく言わないでくれ!そうさ、僕はかりんを愛していた、彼女もね……僕らはそういう関係だったんだよ。でも、彼女は結局家族を選んで僕の前から姿を消したんだよ」
「そんな……」
エルの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「大体、ネットでなんかで本当の愛が育つはずがないんだ! 僕がバカだっただけだよ。だから、君の想いも、気が合うとか、似ているとか、そう言うことを好きと勘違いしているだけ、妄想だよ!!」
「そんな、妄想だなんて…ひどい。」
「じゃぁ何かい、君は今すぐ僕の家族になれるとでも言うのか? それじゃぁ、別の女のことを思う男の子供を産むことができるか? そう、こども。こどもさえいなきゃ、かりんは僕のところに来てくれた。僕は決してあいつに負けたわけじゃない……」
私は、ハンドルに突っ伏して頭を抱えながらそう叫んだ。脈略のないめちゃくちゃな論理--ソシテ、ボクハ壊レテイク…--

「じゃぁ、君の望み通りにしてやる!!」
車をUターンさせ、私は今度は自宅に向かって車を走らせた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389