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いと
承諾
病院を出て私たちはその足で私の実家に向かった。
「ただいま、親父は?」
「あら、こんな時間にどうしたん。お父さんなら5時過ぎには帰ってくると思うけんど。何か用ね?」
突然平日の昼間なんぞに帰ってきた息子に、母はちょっと驚いた様子でそう言った。
「ああ、ちょっと……」、
それから、母は私の後ろに香織がいるのを見つけて不思議そうに会釈した。全く……さんざん嫁はまだかとせっついていたくせに、実際に連れて来くるとなると意外と反応しないもんなんだなと私は思った。私は母に香織を紹介しようとして、
「あ、彼女は設楽香織さん。実は結婚を……」
とまではいえたのだが、私はそれ以上母に説明をさせてはもらえなかった。母は、結婚という二文字にいきなりテンションを上げ、こう叫んだ。
「え~っ!亮ちゃん、やっと結婚する気になったん!? しかもこんなにかわいらしい人!!」
そして、今度は香織に駆け寄り、
「ねぇあんた、あなたホントにこんなのでええが?」
と言った。
「はい」
香織は面食らいながらも笑って答えた。
「こんなのって、一応自分の息子だろ」
「そんなん、自分の息子やから言うがよ。とにかく早くあがりんさい。お父さん早めに帰って来んかいね」
それから香織にスリッパをすすめて、
「香織さんでしたっけな、散らかしてますけどどうぞ。全く……亮ちゃん、急に連れて来んでよ。早めに言ってくれればたら掃除ぐらいしとったのに!」
と言いながら母は、パタパタとスリッパの音を鳴らしながら、リビングに駆け込んだ。
「急に来て本当に良かったんでしょうか」
香織はまた不安そうな顔になった。
「本来は、いろんな手順を踏むべきなんだろうけどね、そうは言ってもゆっくりしている時間もないだろ。心配しないで、お袋あんな言い方してるけど、本当は嬉しいんだよ。後ろから見てると、今にもスキップしそうだったよ。」
私はそう言って彼女の手を握った。
そう、私たちに時間はない。確実に大きくなっていくであろう彼女の中の命のことを考えると、双方の両親の承諾、彼女の会社のことそしてこれからの私たちの生活など…悠長に構えている暇などまるでないのだから。
そして、父の帰宅後改めて私たちは私の両親に結婚の承諾を求めた。彼女の妊娠の報告もした。
「そりゃウチはね、いただく方だしもう万々歳やけどな……亮ちゃんっ、何であんたがあちらにまず伺わないの! 身重なのに茨城からやなんて、お母さん情けないわ」
と、母はため息をつきながら頭を抱える。
「…それは、私が勝手に来ちゃったからで……」
母の剣幕に慌てて香織がフォローに入った。
「ええんええん、香織さんは悪うないわ。どうせこのバカ息子が鈍感がやから、気づかんかっただけやろから。けどね、そういうことしてるんやったら、可能性ぐらい考えてな……」
そんな香織の肩を抱いて、母はうんうんと頷きながらそう続けた。
それに、そう言われると本当に実も蓋もない。可能性はないとは思ってはいなかったが、一回で見事に大当たりするなんて思いもしなかったというのはやはり男の側のエゴでしかないのか。しかし、嬉しくなればなるほど怒り散らすという光景は、どこかで見たことがあると苦笑する。
「香織さん、今日はウチに泊まって。今から沙苗の部屋掃除するから。」
食事が終わって立ち上がった私たちに母がそう言った。
「あ、でも私明日は仕事……」
そして、香織の返事に母は驚いた様子でこう返した。
「あんた、これから茨城に帰るつもりやったの? 仕事をないがしろにせいっては言わんけど、安定期に入ったばっかりなんやろ? 今は子供のことを優先しい」
「本当にそうですね。明日の朝、会社に電話入れます。」
母の言葉に、香織はしばらく考えた後、そう言って頷いた。
「それから亮ちゃん、できるだけ早い内にあちらに行かんと。で、殴られてかんとこまい」
次に、母は私に向かってにやりと笑いながらそう言った。
「殴られるって、何で、そうなる訳……」
「他人様のお嬢さんを傷物にしたんだが。それぐらいの覚悟して行かんと」
よくよく考えてみればそうかもしれない。私が逆の立場なら、こんなかわいい娘にそんなことをする奴がいたら、一発殴る位では済みそうにない、そう思った。
「ただいま、親父は?」
「あら、こんな時間にどうしたん。お父さんなら5時過ぎには帰ってくると思うけんど。何か用ね?」
突然平日の昼間なんぞに帰ってきた息子に、母はちょっと驚いた様子でそう言った。
「ああ、ちょっと……」、
それから、母は私の後ろに香織がいるのを見つけて不思議そうに会釈した。全く……さんざん嫁はまだかとせっついていたくせに、実際に連れて来くるとなると意外と反応しないもんなんだなと私は思った。私は母に香織を紹介しようとして、
「あ、彼女は設楽香織さん。実は結婚を……」
とまではいえたのだが、私はそれ以上母に説明をさせてはもらえなかった。母は、結婚という二文字にいきなりテンションを上げ、こう叫んだ。
「え~っ!亮ちゃん、やっと結婚する気になったん!? しかもこんなにかわいらしい人!!」
そして、今度は香織に駆け寄り、
「ねぇあんた、あなたホントにこんなのでええが?」
と言った。
「はい」
香織は面食らいながらも笑って答えた。
「こんなのって、一応自分の息子だろ」
「そんなん、自分の息子やから言うがよ。とにかく早くあがりんさい。お父さん早めに帰って来んかいね」
それから香織にスリッパをすすめて、
「香織さんでしたっけな、散らかしてますけどどうぞ。全く……亮ちゃん、急に連れて来んでよ。早めに言ってくれればたら掃除ぐらいしとったのに!」
と言いながら母は、パタパタとスリッパの音を鳴らしながら、リビングに駆け込んだ。
「急に来て本当に良かったんでしょうか」
香織はまた不安そうな顔になった。
「本来は、いろんな手順を踏むべきなんだろうけどね、そうは言ってもゆっくりしている時間もないだろ。心配しないで、お袋あんな言い方してるけど、本当は嬉しいんだよ。後ろから見てると、今にもスキップしそうだったよ。」
私はそう言って彼女の手を握った。
そう、私たちに時間はない。確実に大きくなっていくであろう彼女の中の命のことを考えると、双方の両親の承諾、彼女の会社のことそしてこれからの私たちの生活など…悠長に構えている暇などまるでないのだから。
そして、父の帰宅後改めて私たちは私の両親に結婚の承諾を求めた。彼女の妊娠の報告もした。
「そりゃウチはね、いただく方だしもう万々歳やけどな……亮ちゃんっ、何であんたがあちらにまず伺わないの! 身重なのに茨城からやなんて、お母さん情けないわ」
と、母はため息をつきながら頭を抱える。
「…それは、私が勝手に来ちゃったからで……」
母の剣幕に慌てて香織がフォローに入った。
「ええんええん、香織さんは悪うないわ。どうせこのバカ息子が鈍感がやから、気づかんかっただけやろから。けどね、そういうことしてるんやったら、可能性ぐらい考えてな……」
そんな香織の肩を抱いて、母はうんうんと頷きながらそう続けた。
それに、そう言われると本当に実も蓋もない。可能性はないとは思ってはいなかったが、一回で見事に大当たりするなんて思いもしなかったというのはやはり男の側のエゴでしかないのか。しかし、嬉しくなればなるほど怒り散らすという光景は、どこかで見たことがあると苦笑する。
「香織さん、今日はウチに泊まって。今から沙苗の部屋掃除するから。」
食事が終わって立ち上がった私たちに母がそう言った。
「あ、でも私明日は仕事……」
そして、香織の返事に母は驚いた様子でこう返した。
「あんた、これから茨城に帰るつもりやったの? 仕事をないがしろにせいっては言わんけど、安定期に入ったばっかりなんやろ? 今は子供のことを優先しい」
「本当にそうですね。明日の朝、会社に電話入れます。」
母の言葉に、香織はしばらく考えた後、そう言って頷いた。
「それから亮ちゃん、できるだけ早い内にあちらに行かんと。で、殴られてかんとこまい」
次に、母は私に向かってにやりと笑いながらそう言った。
「殴られるって、何で、そうなる訳……」
「他人様のお嬢さんを傷物にしたんだが。それぐらいの覚悟して行かんと」
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