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いと
許しを乞いに
私たちは、香織の車で香織の実家に向かった。車に乗る際、香織はいつも通り自分が運転しようと、運転席に乗ろうとした。私はそれを扉を手で押さえて制止した。
「今日は僕が運転するよ。しばらくこっちに1人で居る間は仕方ないとしても、運転はお腹に負担がかかるといけないから、僕が一緒の時には僕が運転する」
そして鍵を彼女からもらって運転席に乗り込んだ。
「でも、君のご両親は許してくれるだろうか」
『殴られて来い』の言葉に送られてそれなりの覚悟を決めてきた私だが、彼女の実家が近づくにつれ、徐々に増してくる不安。私は彼女につい、弱音を吐いた。
「大丈夫です」
しかし、彼女は断定するように頷きながらそう返した。
「大丈夫じゃないよ、娘より一回りも違う男が子供まで作ってかっさらっていくんだよ。怒らない訳がない。家に入れてもらえるかどうかも危ないな」
「大丈夫ですよ。エイプリルさんに怒るとしたら、パパは世界中のどんな男が来たって怒ります、たぶん」
「じゃぁ、やっぱり大丈夫じゃないじゃない。それにまた、エイプリルって言った」
「うー、亮……平さんだなんて、やっぱり慣れないです」
どんどんとネガティブになっていく私に返した彼女の返事はフォローになっているようでいない。彼女も緊張しているのかも知れない。昨日約束したのに、相変わらずハンドルネームで私を呼ぶ。
「でも、私やこの子を不幸にするような選択だけは絶対にしないです、たぶん間違いなく」
そう言った彼女は何か確信を掴んでいるような面持ちをしていた。彼女は大丈夫というように頷くと、私がギアを握っている左手に自分の手を重ねて、
「自信を持ってください。これ、あなたがいつもしてくださる……受け売りですけど」
と照れながら笑った。私は彼女の手のぬくもりに、気持ちが落ち着いていくのを感じた。
そして、私たちは彼女の実家の前に立った。一瞬にして喉がからからになっていくのがわかる。
香織は自分の実家のチャイムを押した。
「はーい!」
と勢い良く飛び出してきたのは、妹の詩織ちゃんだった。
「おねえ、ちゃんと居るからね。うひょ、これがうわさの……」
と香織に小さな声でささやいた後、ニヤニヤ笑っている。私は『おねえの王子様』が頭をよぎって、逃げ出したい衝動に駆られた。
「シオ、ちゃんと挨拶ぐらいしなさいよ、もう」
それに対して、香織はぷりぷりしながらしおりにそう返した。
「あ、ごめんなさい。はじめまして、妹の詩織です。姉がいろいろとお世話になってるそーで」
と、ぺこりと会釈した。
「綿貫亮平です。はじめまして」
「こんなとこで立ち話もなんなんで、ちゃっちゃと上がってください」
そう言うと、詩織ちゃんは私にスリッパを勧めて先に奥に入っていった。
「なんだ、香織なの、チャイムなんか押すから誰かと思ったわ…あら、そちらの方は?」
入れ違いに、香織のお母さんが玄関に現われた。
「はじめまして、綿貫亮平です。今日は折り入ってお願いがあって伺いました。」
「あ、綿貫さん……ああ、ええ。どうぞおあがりください。あなた?ちょっと、あなた」
彼女のお母さんは、私の名前を聞くと私の用向きを瞬時に理解したのか、彼女のお父さんを呼んで奥に入って行った。香織は母親にも話していたのだろうか。
それから私はリビングに通され、香織と彼女の父親を待った。やがて彼女の父親が入ってきて、
「お待たせしました、設楽です」
「はじめまして、綿貫亮平です」
と、型通り挨拶だけは済ませたものの、それから言葉が続かない。かなり長い沈黙の後、私は意を決してソファーから立ち、リビングの床に土下座してこう言った。
「今日はお願いとお詫びがあります。どうか私と香織さんと結婚させてください。香織さんより一回りも違うような私はお父さんのお気に召さないかもしれませんが、是非とも許していただきたいんです。
それで、実は……ここからはお詫びなんですが、彼女をつなぎとめたくて私は本来あるべき順番を間違えました。今、彼女のお腹の中には私たちの新しい命が育っています。
だから、許していただけなければ、今日私は帰れません。お願いです。どうか、香織さんと新しい命を私に……」
くださいとはおこがましくて、私にはどうしても言えなかった。預けてくださいというのも返すことができないのでおかしいと思った。私は言い終わった後、再び床に頭をピタリとつけた。
「綿貫さん、頭を上げてください……」
私はお父さんに言われて頭を上げた。娘を傷物にしたと、激怒されると覚悟してきたのに、彼は少し寂しそうに笑っていただけだった。
「子どものことは、香織も望んだことでしょう? この娘もいい歳です、どうすればそうなるか位はわかってるはずですから」
彼女のお父さんの言葉に彼女は目を閉じて深く頷いた。
「それに、私たちはあなたには感謝しているんです。どんなダイエットをしても痩せなかった香織が、ブログを始めた途端見る見るたびにきれいになっていった」
「それは私だけの力じゃなくて、ブロ友みんなが切磋琢磨しあって……一番は香織さん自身の努力で……」
私は彼女の父親の発言に驚いた。彼女のお父さんは、どうしてそんな風に言ってくれるのか全く解らなかった。私は彼女のために今まで何もしたことはないのに。
「もちろん、それもあるでしょうけど、その中心にはあなたがいたと聞いていますよ」
「シオね!シオがパパに何か言ったの!? 言わないでって言ってたのに!」
私のことを聞いていると父親に言われて、香織は急に怒りだした。彼女は詩織ちゃんにだけ相談していたのだろう。それを詩織ちゃんは両親に伝えていたのだ。だから、私の名前を聞いただけで彼女の母親が用向きを瞬時に理解したのだろう。
彼女のお父さんは、香織の肩にそっと手を置いて言った。
「香織、良いじゃないか。それに詩織は、綿貫さんがいるからお前のダイエットが続いていると、そう言っただけだよ。」
そして、私の方に向き直って、
「綿貫さん、香織の変わり様はそれこそイモムシが蝶になるようでした。その時から、私はいつかこんな日が来るかもしれないと、心のどこかで思ってました。私からもお願いします。どうか香織をそしてお腹のの子を幸せにしてやってくださいませんか。」
と言った後、頭を下げた。
私はあまりにもあっさりと許してもらえた事が信じられないくらいだった。彼女も子どもも任せてもらえた事に、大きな喜びと責任の重さを痛感した。
「ありがとうございます…ありがとうございます…」
私は嬉しさで涙が止まらなくなっていた。男のクセにと思いながら、どうしても自分の涙を止めることができなかったのだ。
「今日は僕が運転するよ。しばらくこっちに1人で居る間は仕方ないとしても、運転はお腹に負担がかかるといけないから、僕が一緒の時には僕が運転する」
そして鍵を彼女からもらって運転席に乗り込んだ。
「でも、君のご両親は許してくれるだろうか」
『殴られて来い』の言葉に送られてそれなりの覚悟を決めてきた私だが、彼女の実家が近づくにつれ、徐々に増してくる不安。私は彼女につい、弱音を吐いた。
「大丈夫です」
しかし、彼女は断定するように頷きながらそう返した。
「大丈夫じゃないよ、娘より一回りも違う男が子供まで作ってかっさらっていくんだよ。怒らない訳がない。家に入れてもらえるかどうかも危ないな」
「大丈夫ですよ。エイプリルさんに怒るとしたら、パパは世界中のどんな男が来たって怒ります、たぶん」
「じゃぁ、やっぱり大丈夫じゃないじゃない。それにまた、エイプリルって言った」
「うー、亮……平さんだなんて、やっぱり慣れないです」
どんどんとネガティブになっていく私に返した彼女の返事はフォローになっているようでいない。彼女も緊張しているのかも知れない。昨日約束したのに、相変わらずハンドルネームで私を呼ぶ。
「でも、私やこの子を不幸にするような選択だけは絶対にしないです、たぶん間違いなく」
そう言った彼女は何か確信を掴んでいるような面持ちをしていた。彼女は大丈夫というように頷くと、私がギアを握っている左手に自分の手を重ねて、
「自信を持ってください。これ、あなたがいつもしてくださる……受け売りですけど」
と照れながら笑った。私は彼女の手のぬくもりに、気持ちが落ち着いていくのを感じた。
そして、私たちは彼女の実家の前に立った。一瞬にして喉がからからになっていくのがわかる。
香織は自分の実家のチャイムを押した。
「はーい!」
と勢い良く飛び出してきたのは、妹の詩織ちゃんだった。
「おねえ、ちゃんと居るからね。うひょ、これがうわさの……」
と香織に小さな声でささやいた後、ニヤニヤ笑っている。私は『おねえの王子様』が頭をよぎって、逃げ出したい衝動に駆られた。
「シオ、ちゃんと挨拶ぐらいしなさいよ、もう」
それに対して、香織はぷりぷりしながらしおりにそう返した。
「あ、ごめんなさい。はじめまして、妹の詩織です。姉がいろいろとお世話になってるそーで」
と、ぺこりと会釈した。
「綿貫亮平です。はじめまして」
「こんなとこで立ち話もなんなんで、ちゃっちゃと上がってください」
そう言うと、詩織ちゃんは私にスリッパを勧めて先に奥に入っていった。
「なんだ、香織なの、チャイムなんか押すから誰かと思ったわ…あら、そちらの方は?」
入れ違いに、香織のお母さんが玄関に現われた。
「はじめまして、綿貫亮平です。今日は折り入ってお願いがあって伺いました。」
「あ、綿貫さん……ああ、ええ。どうぞおあがりください。あなた?ちょっと、あなた」
彼女のお母さんは、私の名前を聞くと私の用向きを瞬時に理解したのか、彼女のお父さんを呼んで奥に入って行った。香織は母親にも話していたのだろうか。
それから私はリビングに通され、香織と彼女の父親を待った。やがて彼女の父親が入ってきて、
「お待たせしました、設楽です」
「はじめまして、綿貫亮平です」
と、型通り挨拶だけは済ませたものの、それから言葉が続かない。かなり長い沈黙の後、私は意を決してソファーから立ち、リビングの床に土下座してこう言った。
「今日はお願いとお詫びがあります。どうか私と香織さんと結婚させてください。香織さんより一回りも違うような私はお父さんのお気に召さないかもしれませんが、是非とも許していただきたいんです。
それで、実は……ここからはお詫びなんですが、彼女をつなぎとめたくて私は本来あるべき順番を間違えました。今、彼女のお腹の中には私たちの新しい命が育っています。
だから、許していただけなければ、今日私は帰れません。お願いです。どうか、香織さんと新しい命を私に……」
くださいとはおこがましくて、私にはどうしても言えなかった。預けてくださいというのも返すことができないのでおかしいと思った。私は言い終わった後、再び床に頭をピタリとつけた。
「綿貫さん、頭を上げてください……」
私はお父さんに言われて頭を上げた。娘を傷物にしたと、激怒されると覚悟してきたのに、彼は少し寂しそうに笑っていただけだった。
「子どものことは、香織も望んだことでしょう? この娘もいい歳です、どうすればそうなるか位はわかってるはずですから」
彼女のお父さんの言葉に彼女は目を閉じて深く頷いた。
「それに、私たちはあなたには感謝しているんです。どんなダイエットをしても痩せなかった香織が、ブログを始めた途端見る見るたびにきれいになっていった」
「それは私だけの力じゃなくて、ブロ友みんなが切磋琢磨しあって……一番は香織さん自身の努力で……」
私は彼女の父親の発言に驚いた。彼女のお父さんは、どうしてそんな風に言ってくれるのか全く解らなかった。私は彼女のために今まで何もしたことはないのに。
「もちろん、それもあるでしょうけど、その中心にはあなたがいたと聞いていますよ」
「シオね!シオがパパに何か言ったの!? 言わないでって言ってたのに!」
私のことを聞いていると父親に言われて、香織は急に怒りだした。彼女は詩織ちゃんにだけ相談していたのだろう。それを詩織ちゃんは両親に伝えていたのだ。だから、私の名前を聞いただけで彼女の母親が用向きを瞬時に理解したのだろう。
彼女のお父さんは、香織の肩にそっと手を置いて言った。
「香織、良いじゃないか。それに詩織は、綿貫さんがいるからお前のダイエットが続いていると、そう言っただけだよ。」
そして、私の方に向き直って、
「綿貫さん、香織の変わり様はそれこそイモムシが蝶になるようでした。その時から、私はいつかこんな日が来るかもしれないと、心のどこかで思ってました。私からもお願いします。どうか香織をそしてお腹のの子を幸せにしてやってくださいませんか。」
と言った後、頭を下げた。
私はあまりにもあっさりと許してもらえた事が信じられないくらいだった。彼女も子どもも任せてもらえた事に、大きな喜びと責任の重さを痛感した。
「ありがとうございます…ありがとうございます…」
私は嬉しさで涙が止まらなくなっていた。男のクセにと思いながら、どうしても自分の涙を止めることができなかったのだ。
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