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配属
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「本日からお世話になります」
(な、何故彼女がここに?)
この部署の長である成瀬光一はやってきた今年の新人を見て一瞬言葉をなくした。思わず人事から回ってきた彼女の個人データを見る。
生方志乃(うぶかたしの)、22歳。この春名門女子大を卒業している。研修期間の受講態度も成績も悪くはないし、すでにこの部署で必要な資格も持っている。
とは言え、個人情報の叫ばれるようになった今、光一が一番欲しいと思っていた彼女の情報は、その一枚の紙には見当たらなかった。後で人事の国見にでも聞いてみてもいいが、守秘義務にかかることなので軽い調子で聞くわけにもいかないし、またその理由を述べたところで奴が教えてくれるという確証はない。奴のことだから、奢らされた揚げ句さんざんそれを肴にタダ酒を呑むに決まっている。
それに……彼女があのときのままであるはずがない。光一は自分の歳を忘れてしまっているなと頭を抱えた後、
「あ、ああ……生方(うぶかた)さんだったね、部長の成瀬(なるせ)光一だ、こちらこそよろしく頼むよ」
と、泣きそうな顔になっている志乃にとりあえず挨拶した。志乃の顔が一旦安堵して、また疑問が生まれた顔になり、その内納得した表情になる。短い間にずいぶんところころ表情の変わる娘(こ)だなと思いながら光一はもう一度人事データを見た。
「ところで君、メガネは?」
データに添えられた写真には度の強そうな眼鏡を着用した彼女が写っている。すると、志乃は慌てて、
「琴子……いえ、大学の友人に『あんた仮にもYUUKI入ったんなら、そんなダサい格好は止めなさい』って言われて取り上げられたんです。とは言え、ないと視力表の一番上も見えないので、コンタクトにしたんですが」
と答えた。琴子と言うと、あのお嬢ちゃんのことか。そう言えば彼女もあの女子大だったな。それにお嬢ちゃんのご学友なら、きっと他人の空似だ。
「そうか」
光一は少し落胆しながら素っ気なくそう答えたが、志乃はそれでもまだ何か言いたいような顔をしている。首を傾げた光一に志乃は、
「あの……私はメガネ着用が採用の条件なのでしょうか」
と真顔で質問したのだ。光一はまさかこんな事を聞かれるとは夢にも思わなかったので、呆気に撮られた後、思わず吹き出した。
「あはは、済まない。無論そんな特殊条件なんてないよ。もし聞かれるとしても、健康診断で位だ」
光一が笑いながらそう言うと、志乃は明らかに安心した表情になる。まったく、どこまで天然なんだ、こいつは。お嬢ちゃんじゃないが、庇護欲をかき立てられるのはよくわかるな。まぁ、会社では仕事ができればそれで問題はない。自分の半分の歳を下回る子供のような彼女と個人的にかかわることはないのだから。光一はそう思って、
「では、君の席はそこだ。
佐伯さん、今日付けで配属になった生方さんだ。
生方さん、エクセルは大丈夫だね」
「はい」
「いい返事だ。じゃぁ、頼むよ」
志乃に指示を下したが、心のどこかでそれが寂しいと思う自分がいた。彼はそれを自分気の迷いだと押し込め、席に戻って仕事を始めた。
(な、何故彼女がここに?)
この部署の長である成瀬光一はやってきた今年の新人を見て一瞬言葉をなくした。思わず人事から回ってきた彼女の個人データを見る。
生方志乃(うぶかたしの)、22歳。この春名門女子大を卒業している。研修期間の受講態度も成績も悪くはないし、すでにこの部署で必要な資格も持っている。
とは言え、個人情報の叫ばれるようになった今、光一が一番欲しいと思っていた彼女の情報は、その一枚の紙には見当たらなかった。後で人事の国見にでも聞いてみてもいいが、守秘義務にかかることなので軽い調子で聞くわけにもいかないし、またその理由を述べたところで奴が教えてくれるという確証はない。奴のことだから、奢らされた揚げ句さんざんそれを肴にタダ酒を呑むに決まっている。
それに……彼女があのときのままであるはずがない。光一は自分の歳を忘れてしまっているなと頭を抱えた後、
「あ、ああ……生方(うぶかた)さんだったね、部長の成瀬(なるせ)光一だ、こちらこそよろしく頼むよ」
と、泣きそうな顔になっている志乃にとりあえず挨拶した。志乃の顔が一旦安堵して、また疑問が生まれた顔になり、その内納得した表情になる。短い間にずいぶんところころ表情の変わる娘(こ)だなと思いながら光一はもう一度人事データを見た。
「ところで君、メガネは?」
データに添えられた写真には度の強そうな眼鏡を着用した彼女が写っている。すると、志乃は慌てて、
「琴子……いえ、大学の友人に『あんた仮にもYUUKI入ったんなら、そんなダサい格好は止めなさい』って言われて取り上げられたんです。とは言え、ないと視力表の一番上も見えないので、コンタクトにしたんですが」
と答えた。琴子と言うと、あのお嬢ちゃんのことか。そう言えば彼女もあの女子大だったな。それにお嬢ちゃんのご学友なら、きっと他人の空似だ。
「そうか」
光一は少し落胆しながら素っ気なくそう答えたが、志乃はそれでもまだ何か言いたいような顔をしている。首を傾げた光一に志乃は、
「あの……私はメガネ着用が採用の条件なのでしょうか」
と真顔で質問したのだ。光一はまさかこんな事を聞かれるとは夢にも思わなかったので、呆気に撮られた後、思わず吹き出した。
「あはは、済まない。無論そんな特殊条件なんてないよ。もし聞かれるとしても、健康診断で位だ」
光一が笑いながらそう言うと、志乃は明らかに安心した表情になる。まったく、どこまで天然なんだ、こいつは。お嬢ちゃんじゃないが、庇護欲をかき立てられるのはよくわかるな。まぁ、会社では仕事ができればそれで問題はない。自分の半分の歳を下回る子供のような彼女と個人的にかかわることはないのだから。光一はそう思って、
「では、君の席はそこだ。
佐伯さん、今日付けで配属になった生方さんだ。
生方さん、エクセルは大丈夫だね」
「はい」
「いい返事だ。じゃぁ、頼むよ」
志乃に指示を下したが、心のどこかでそれが寂しいと思う自分がいた。彼はそれを自分気の迷いだと押し込め、席に戻って仕事を始めた。
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