6 / 31
懇親会
しおりを挟む
新年度から3ヶ月、ボーナスが出たこともあり、部の懇親会が開かれた。光一も普段はあまり大勢で呑むのは好きではないのだが、同じ部署のメンバーは光一のそうした性質よく解っていて、長という事で上座をすすめてくれるが、宴が始まれば、手酌で勝手にやらせてくれる。後は自宅同様ゆっくり呑むだけで良かった。
ふと見ると、志乃はちょうど対角線、入り口側にいた。彼女は入社4年目の高橋郁雄と何か親密そうに話している。
やがて高橋が志乃にピンク色のカクテルを手渡したのを見て光一は眉を寄せる。(ピーチフィズか)ああいうのは、とっつきは良いが、悪酔いしやすい。まさかあいつ持ち帰るつもりじゃないだろうなといきおい不安になる。
だからと言って自分から彼らの中に割り込む訳にも行かない。光一はいつも通りを装って呑んでいるが、その気は漫ろだった。
だが、その内志乃の方が光一に近づいてきて、いきなり何を言うかと思うと、
「ブチョウ? ブチョウっ、何で一人静かに飲んでるんですか。一緒にお話しましょ。
大体ね、ブチョウは普段からもっとしゃべった方がいいですよ。だから未だにひとりなんですよ」
茹で蛸のような顔で、彼に説教を始めたのだ。何せ志乃は今年入社したド新人である。周囲は光一が気分を害して怒り出すだろうと、冷水を浴びせられたように固まるが、
「煩い。それは私の勝手だろうが。
おい、誰だこいつに酒を飲ませた奴は。完全に目が座ってるだろ」
光一はそう言っただけで、相変わらず手酌で酒を進める。もちろん、光一は郁雄がすすめたことも知っている。しかし、それを言っては、志乃の事を逐一観察していたことを皆に悟られてしまう。それは拙い。こっちはこっちで背中に汗をかきながらの発言だ。
「知りませーん」
光一の発言を受けて周りもホッとした様子で白を切る。
「じゃぁ、自分で勝手に飲んだのか。しょうがない奴だ」
光一はそう言って、志乃の頭をポンポンと叩いた。
「私、私ですか? 私は酔ってませんよ。酔ってません。
ふわふわと気持ちいいだけです。それだけですよ」
すると、唇をちょっと突き出しながら志乃はそう言ってから小さくあくびをする。トロンとした目を光一に向けると、首がカタリと落ちた。
「それが酔ってるってんだ。おいこら寝るな!」
それを見た光一は慌てて志乃の肩を掴むと、そう言いながら揺さぶった。志乃の目がゆっくりと開く。
「うふふふ、部長の声って子守歌みたいですね」
何とか眠りに落ちなかった志乃は、今度はそう言うと、ケタケタと笑い出した。どうも慌てふためく光一の姿がツボに嵌ったらしい。
「笑うな! それに俺はおまえの父親じゃない」
と言っても、志乃は依然笑い続ける。
しかし、ふと思い出したかのように、頭を上げると、
「あ、一つだけ聞きたいんですけど、卵焼き、私のと彼女さんの、どっちが美味しいですか?」
と、かなり怪しい呂律でそれを言い終わるや否や、志乃はコテンという擬音が聞こえてくるぐらい呆気なく眠りに落ちてしまったのだ。
「生方! 寝るなって言ってるだろ!」
何故、今ここでその話題だ。しかも答えも聞かないまま戦線離脱か。あとに残される俺の事はどうしてくれるんだ……全く。
「卵焼きって朝ご飯ですよね。えーっ、部長とウブちゃんってそういう関係だったんですか?」
案の定佐伯がそう切り出す。こいつは今までからでもちょこちょこ俺と彼女をくっつけようとする発言をしていた。何を考えてんだ。彼女とは親子ほども歳が違うんだぞ。
「そう言う関係って、どういう関係だ! 誤解するな、私は彼女の弁当をだな」
それにしたって卵焼き=朝ご飯とはどういう図式だ。普通、卵焼き=弁当が正解だろうと、光一は憤慨する。
「へぇ、部長の弁当ってウブちゃんのお手製だったんですか」
すると、別の女子社員からそう言われた。どうして今日は皆そう曲解して取る。
「違う、彼女の弁当に入ってたのをもらっただけだ。彼女の卵焼きの作り方が私と似てると言うんでな、味見させてもらっただけだが、それが何か?」
本当は勝手につまみ食いしたら同じ味だったのだが。これ以上言われたくないし、唯一それを否定できる志乃は今、眠りの国だ。それを聞いた女子社員たちからは、
「なーんだ、つまんない」
と一様に落胆の声が聞こえる。俺はおまえ等の玩具かなんかかと光一は、ホッとしながらも密かに心の中で彼女らに毒づいたのだった。
ふと見ると、志乃はちょうど対角線、入り口側にいた。彼女は入社4年目の高橋郁雄と何か親密そうに話している。
やがて高橋が志乃にピンク色のカクテルを手渡したのを見て光一は眉を寄せる。(ピーチフィズか)ああいうのは、とっつきは良いが、悪酔いしやすい。まさかあいつ持ち帰るつもりじゃないだろうなといきおい不安になる。
だからと言って自分から彼らの中に割り込む訳にも行かない。光一はいつも通りを装って呑んでいるが、その気は漫ろだった。
だが、その内志乃の方が光一に近づいてきて、いきなり何を言うかと思うと、
「ブチョウ? ブチョウっ、何で一人静かに飲んでるんですか。一緒にお話しましょ。
大体ね、ブチョウは普段からもっとしゃべった方がいいですよ。だから未だにひとりなんですよ」
茹で蛸のような顔で、彼に説教を始めたのだ。何せ志乃は今年入社したド新人である。周囲は光一が気分を害して怒り出すだろうと、冷水を浴びせられたように固まるが、
「煩い。それは私の勝手だろうが。
おい、誰だこいつに酒を飲ませた奴は。完全に目が座ってるだろ」
光一はそう言っただけで、相変わらず手酌で酒を進める。もちろん、光一は郁雄がすすめたことも知っている。しかし、それを言っては、志乃の事を逐一観察していたことを皆に悟られてしまう。それは拙い。こっちはこっちで背中に汗をかきながらの発言だ。
「知りませーん」
光一の発言を受けて周りもホッとした様子で白を切る。
「じゃぁ、自分で勝手に飲んだのか。しょうがない奴だ」
光一はそう言って、志乃の頭をポンポンと叩いた。
「私、私ですか? 私は酔ってませんよ。酔ってません。
ふわふわと気持ちいいだけです。それだけですよ」
すると、唇をちょっと突き出しながら志乃はそう言ってから小さくあくびをする。トロンとした目を光一に向けると、首がカタリと落ちた。
「それが酔ってるってんだ。おいこら寝るな!」
それを見た光一は慌てて志乃の肩を掴むと、そう言いながら揺さぶった。志乃の目がゆっくりと開く。
「うふふふ、部長の声って子守歌みたいですね」
何とか眠りに落ちなかった志乃は、今度はそう言うと、ケタケタと笑い出した。どうも慌てふためく光一の姿がツボに嵌ったらしい。
「笑うな! それに俺はおまえの父親じゃない」
と言っても、志乃は依然笑い続ける。
しかし、ふと思い出したかのように、頭を上げると、
「あ、一つだけ聞きたいんですけど、卵焼き、私のと彼女さんの、どっちが美味しいですか?」
と、かなり怪しい呂律でそれを言い終わるや否や、志乃はコテンという擬音が聞こえてくるぐらい呆気なく眠りに落ちてしまったのだ。
「生方! 寝るなって言ってるだろ!」
何故、今ここでその話題だ。しかも答えも聞かないまま戦線離脱か。あとに残される俺の事はどうしてくれるんだ……全く。
「卵焼きって朝ご飯ですよね。えーっ、部長とウブちゃんってそういう関係だったんですか?」
案の定佐伯がそう切り出す。こいつは今までからでもちょこちょこ俺と彼女をくっつけようとする発言をしていた。何を考えてんだ。彼女とは親子ほども歳が違うんだぞ。
「そう言う関係って、どういう関係だ! 誤解するな、私は彼女の弁当をだな」
それにしたって卵焼き=朝ご飯とはどういう図式だ。普通、卵焼き=弁当が正解だろうと、光一は憤慨する。
「へぇ、部長の弁当ってウブちゃんのお手製だったんですか」
すると、別の女子社員からそう言われた。どうして今日は皆そう曲解して取る。
「違う、彼女の弁当に入ってたのをもらっただけだ。彼女の卵焼きの作り方が私と似てると言うんでな、味見させてもらっただけだが、それが何か?」
本当は勝手につまみ食いしたら同じ味だったのだが。これ以上言われたくないし、唯一それを否定できる志乃は今、眠りの国だ。それを聞いた女子社員たちからは、
「なーんだ、つまんない」
と一様に落胆の声が聞こえる。俺はおまえ等の玩具かなんかかと光一は、ホッとしながらも密かに心の中で彼女らに毒づいたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる