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失踪の真実(前編)
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「へぇ、お姉ちゃんからは一流企業に勤めてるてだけ聞いとったんですけど、YUUKIやったんですか……
そこに志乃が行くようになるやなんて、縁なんやな」
光一が志乃の直接の上司だと知った喜美子は、
「やっぱしなんかかんか言うても、お姉ちゃんは成瀬さんには勝手に消えたままにすんのはイヤやったんかもしれやんなぁ」
と言うと、光一の横に座っていた志乃の方に向き直り、
「志乃、あんたにはこの話はキツいかも知らん。そいでもええんか」
と苦悩の表情を浮かべながら聞いた。志乃はそれに対して黙って頷く。
それを見た喜美子は徐に当時の話を始めた。
「お姉ちゃんが結婚したい人を連れて来るて言うたまま、なかなか帰って来んし、電話も繋がらんので、心配した父がいっぺん東京に見に行こかて言い出したとき、そのお姉ちゃんから電話がかかってきたんです」
-*-*-*-*-*-*-*-*-
「お母ちゃん、ごめんな」
美奈子は電話をとった母に開口一番謝った。
「ごめんて、あんたどないしてんの。彼氏連れて家に来るて言うてたやないの」
「うん、それやけどなあかんようになった」
「あかんようになったって! あんただまされとったんか」
美奈子に今度連れて行く人は一流企業に勤めていると聞いてはいたが、実は熱を上げていたのは娘の方だけで、田舎もんが東京もんにええように弄ばれたのかと思い、母親は声を荒げたが、
「ううん、そんなんちゃうねん。光一さんはぜんぜん悪ないん。光一さんにはなんも問題はあらへんからね」
母の憤る声を聞いた美奈子は慌ててそれを否定した。
「けど……ちょっと他のことでいろいろあって、私いま東京におらんのさ」
そして、言いにくそうにそうつづけた。
「東京におらんて、今どこにおんの」
聞き捨てならんと母親は尚も問うが、
「それは言えやん。けど、ちゃんと生きとるで、心配しやんとってな。
お願いやから、騒いだりしやんとって。元気やから」
美奈子はそれだけ言うと一方的に電話を切った。
慌てて両親は東京の美奈子のアパートに向かったが既に契約が解除されており、もぬけの殻になっていた。
そこで彼らは美奈子の職場に問い合わせてみたが、応対した事務員からは逆に、
「家庭の都合で故郷に帰ったんじゃないんですか? こっちも急に辞められて大変なんですから」
と責める調子で返されてしまった。
美奈子は騒ぐなとは言ったが、両親はそのまま警察に駆け込んで相談した。しかし、具体的に犯罪に巻き込まれているという確固たる証拠もなく、しかも本人から電話があったとあっては、ただの家出の扱いしか受けず警察署を後にするしかなかった。
そこで、両親は最後の望みの綱と、光一に事情を聞こうと思ったのだが、ここに来てようやく彼らはその肝心の成瀬光一のことをその名以外何も知らないのだと気付いた。この大都会東京で、さすがに名前しか分からない人間など探しようがない。両親は落胆し、すごすごと三重に帰るより他なかった。
だが、美奈子が忽然と姿を消した5年後、彼女はひょっこり何事もなかったかのように実家に舞い戻る。彼女によく似た少女の手を引いて。もちろん、それが志乃である。美奈子は、
「こっちに仕事があってな。今日だけこの子預かってくれやん?」
と一方的に志乃を預けると、
「帰りに寄ったときにちゃんと説明するでな。時間急いとるから、行くわな」
と言って、逃げるように福島家を立ち去った。だが、彼女の言葉とは裏腹に、美奈子は二度と生きてこの家の敷居を跨ぐことはなかった。
美奈子は志乃を迎えにくることもなく、その約6ヶ月後、東京でも三重でもない、大阪の地で絞殺体となって発見されたからだ。
そして、そこで見つかった美奈子の手記と美奈子を殺害した犯人の男から語られた彼女のこの5年間は、周りの想像をはるかに超えるものであった。
そこに志乃が行くようになるやなんて、縁なんやな」
光一が志乃の直接の上司だと知った喜美子は、
「やっぱしなんかかんか言うても、お姉ちゃんは成瀬さんには勝手に消えたままにすんのはイヤやったんかもしれやんなぁ」
と言うと、光一の横に座っていた志乃の方に向き直り、
「志乃、あんたにはこの話はキツいかも知らん。そいでもええんか」
と苦悩の表情を浮かべながら聞いた。志乃はそれに対して黙って頷く。
それを見た喜美子は徐に当時の話を始めた。
「お姉ちゃんが結婚したい人を連れて来るて言うたまま、なかなか帰って来んし、電話も繋がらんので、心配した父がいっぺん東京に見に行こかて言い出したとき、そのお姉ちゃんから電話がかかってきたんです」
-*-*-*-*-*-*-*-*-
「お母ちゃん、ごめんな」
美奈子は電話をとった母に開口一番謝った。
「ごめんて、あんたどないしてんの。彼氏連れて家に来るて言うてたやないの」
「うん、それやけどなあかんようになった」
「あかんようになったって! あんただまされとったんか」
美奈子に今度連れて行く人は一流企業に勤めていると聞いてはいたが、実は熱を上げていたのは娘の方だけで、田舎もんが東京もんにええように弄ばれたのかと思い、母親は声を荒げたが、
「ううん、そんなんちゃうねん。光一さんはぜんぜん悪ないん。光一さんにはなんも問題はあらへんからね」
母の憤る声を聞いた美奈子は慌ててそれを否定した。
「けど……ちょっと他のことでいろいろあって、私いま東京におらんのさ」
そして、言いにくそうにそうつづけた。
「東京におらんて、今どこにおんの」
聞き捨てならんと母親は尚も問うが、
「それは言えやん。けど、ちゃんと生きとるで、心配しやんとってな。
お願いやから、騒いだりしやんとって。元気やから」
美奈子はそれだけ言うと一方的に電話を切った。
慌てて両親は東京の美奈子のアパートに向かったが既に契約が解除されており、もぬけの殻になっていた。
そこで彼らは美奈子の職場に問い合わせてみたが、応対した事務員からは逆に、
「家庭の都合で故郷に帰ったんじゃないんですか? こっちも急に辞められて大変なんですから」
と責める調子で返されてしまった。
美奈子は騒ぐなとは言ったが、両親はそのまま警察に駆け込んで相談した。しかし、具体的に犯罪に巻き込まれているという確固たる証拠もなく、しかも本人から電話があったとあっては、ただの家出の扱いしか受けず警察署を後にするしかなかった。
そこで、両親は最後の望みの綱と、光一に事情を聞こうと思ったのだが、ここに来てようやく彼らはその肝心の成瀬光一のことをその名以外何も知らないのだと気付いた。この大都会東京で、さすがに名前しか分からない人間など探しようがない。両親は落胆し、すごすごと三重に帰るより他なかった。
だが、美奈子が忽然と姿を消した5年後、彼女はひょっこり何事もなかったかのように実家に舞い戻る。彼女によく似た少女の手を引いて。もちろん、それが志乃である。美奈子は、
「こっちに仕事があってな。今日だけこの子預かってくれやん?」
と一方的に志乃を預けると、
「帰りに寄ったときにちゃんと説明するでな。時間急いとるから、行くわな」
と言って、逃げるように福島家を立ち去った。だが、彼女の言葉とは裏腹に、美奈子は二度と生きてこの家の敷居を跨ぐことはなかった。
美奈子は志乃を迎えにくることもなく、その約6ヶ月後、東京でも三重でもない、大阪の地で絞殺体となって発見されたからだ。
そして、そこで見つかった美奈子の手記と美奈子を殺害した犯人の男から語られた彼女のこの5年間は、周りの想像をはるかに超えるものであった。
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