似ている

神山 備

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門出

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 さて、男2人の酒盛りが始まってしばらくした頃……

「ただいまぁ」
と家の軒で元気な挨拶が聞こえた。
「美和、あんた何で帰ってきたんさ」
志乃がびっくりして玄関に向かうと、そこにいたのは彼女の妹の美和。美和は、名古屋の短大に進み、そのまま名古屋で就職している。
「お姉ちゃんこそ、いきなり彼氏連れてくるなんて反則技やわ。
今日、たまたま電話したらお母さんが『今からお姉ちゃんの彼氏が来る』て言うから、慌ててとんできたんさ。どうせお父さんは使い物にならんやろうから、多気からタクシー乗ってきたし」
えらい出費さ。と、美和はプリプリしながら帰省の経緯を語る。
「そんなん、別にやんでもええのに」
頭を抱える志乃に、
「お姉ちゃんの彼氏やに、そら見な。
いや、盗られると思てる?」
くるくるよく動く表情で好奇心丸出しでそう言う美和。
「そんな訳ないやろ」
志乃はそう言って彼女を睨む。美和に光一を盗られるなどとはこれっぽっちも思ってはいない。ただ絶対に……

「う、ウソ……」
案の定美和は、父親ほどの歳の光一に驚いて口を半開きにした。
「確かにカッコええのは認めるけど……」
(どう表現してええんか、正直判らん)
妹にまで折り目正しく頭を下げる、美和が道中予想していたところから斜め45°ぐらい右を走るその男に、少しめまいを覚えながらも、これが姉のストライクゾーンなのなら、確かに今まで姉に言い寄ってきた男たちは洟垂れなガキどもにしか見えないだろうなと思った。それどころか、それ以前にこの姉はそのガキどもがアプローチしていたことさえ気付いていなかったんだろうなぁと、妙に納得した美和だった。
 その内、あの『成瀬光一』が訪ねてきたと聞き、美奈子・喜美子の両親もすっとんできた。そこに、高校生の弟も帰ってきて、一気に志乃の家族へのお披露目が終了、大宴会に発展した。

 祖父母はかわいい孫の結婚相手が娘のかつての恋人だったことにやはり戸惑いは隠せないようだったが、結果的に彼を捨てる選択をした娘のことを詫びて許した。
「美奈子はな、中西っちゅう男があんな風に大それたことをやってしもたんは自分のせいやと思とったみたいです。殺しとらんけど、死なせたんは自分やて。
せやから、せめてあの男の子供だけはどうしてもこの世に生み出してやりたかったし、産んでからはこの志乃が美奈子が生きる全てやったんですわ。
もしかしたら成瀬さん、あんたはそれを全部聞いても自分のことを受け入れてくれるかも知れやん。けど、それはそれで辛いんやって、あの娘の日記には書いてありました」
妹弟を自室に送った後、美奈子の父はしみじみとそう語った。
「そうですか……」
「けど、今こうして2人がおるとこを見たら、何かな、その選択は正しかったんやなと思います。
あの娘があんな経緯で子供が出来たとそん時知ってたら、儂ら美奈子の出産をよう許さんかったと思いますで。
そしたら、今ここに志乃はおらんかった訳ですし、もっと早うに小平に目ぇつけられて、あの娘だけやのうて成瀬さんまで危険にさらしたかも知れません。そんなん、死んでも死に切れませんに」
それに、縦しんばそうして美奈子が自分の許に戻って来たとしても、果たして若い頃の自分に彼女を丸ごと受け止められる甲斐性があったかどうかは判らない。まったく元通りには決してならなかっただろう。そう思うと、悲しすぎる結末なのだが、それでもこれが最善の策だったのかも知れないと光一も思った。

 翌朝、光一と志乃は美奈子の墓の前にいた。美奈子に助けてやれなかった謝罪と、志乃を遺してくれた感謝とを思い長々と頭を垂れていた光一だったが、漸く顔を上げると、志乃の手を取り歩き始めた。

 光一たちは、役場で志乃の戸籍をとり、一路横浜へ。光一の戸籍もとって、その日の内に婚姻届を提出した。

         ーThe End-




 
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