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神山 備

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ご褒美(佐伯くるみ視点)

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「ウブちゃん、もしかしてアレからなんかあった?」
納涼会のあとの休みが明けて、月曜日から休むと言ったウブちゃんに、私-佐伯くるみはこう言ったが、
「い、いえ……土曜に実家の方に帰ったんですけど、日曜日大雨で汽車が止まっちゃって、そっちに戻れなかったんですよ。だもんで、今まだ三重なんですよ」
ウブちゃんから返ってきたのは、そんな答えで、思わず私は受話器を落としそうになってしまう。それにしても今時大雨くらいで止まっちゃうって、しかも汽車ってどんな田舎よ! でも、ウブちゃんはそんな妙な作り話をするような娘じゃないしな。それに、アクセントが微妙にお国寄りになってる。大学から東京暮らしのウブちゃんは普段はきれいな標準語を使うから、これはホントに三重に帰ったんだろう。
 でも、なんで急に? そんな話してなかったけどなと思いながら、ウブちゃんの休みを報告すべく部長の到着を待つ。けど、いつもは一番乗りくらい早い部長が今日はこない。
「部長は?」
と、同僚の高橋君に聞いたら、
「ああ、さっき来られないって電話ありましたよ」
と言う。ウソ! これはもしかして……
「部長とウブちゃん一緒にいる!?」
と一気に色めきたった私に、高橋君は、
「それはないと思いますよ。
部長は20年来の友人のお悔やみに行くって言ってましたから。
それに、それが終わったら夕方顔を出すそうです」
と、素っ気なく部長の電話の内容を告げた。
「なーんだ、つまんない。せっかくお膳立てしたげたのに」
「そうカンタンに巧くいく訳ないでしょ。もう、据え膳食わぬはなんて歳じゃないでしょうし」
悔しがる私に、高橋君はそう言って笑った。

 そう、納涼会のとき、私は高橋君にウブちゃんをお持ち帰りしようとしているフリをしてもらったのだ。お酒に弱いウブちゃんはカンタンにつぶれたし、それをお持ち帰りしようとしている輩がいるとなったら、部長は絶対に阻止する。私には確信があった。
だって、惚れてもない女のコンタクトをメガネに換えさせたりなんて絶対しないから。ウブちゃんを他の男から隔離する気満々ってことでしょ、それって。
あ、もちろん部長が阻止しなかったときは、責任持って私が連れて帰ったけどね。
 そこまでは良かったんだけどな。何がいけなかったんだろ。

 そんなことをつらつら考えながら仕事をしていたら、4時頃になってやっときた部長が高橋君に言った一言に、私は文字通りぶっ飛んだ。部長は、
「金曜日はご苦労様。
で、悪いんだが、これからは志乃に手を出さないでもらえないかな」
と言って、一枚の紙を高橋君の前でヒラヒラさせたのだ。その紙はなんと『家族異動届』! 今日、入籍してきたというのだ。しかも、一人暮らし同士、郵送だと埒が開かないと、直接戸籍のある役所まで取りに行っての速攻技だというのだから、驚きを通り越して半ば呆れた。部長、そこまでして、高橋君に取られたくなかったんですか……

「まぁ、良いじゃないですか。これで所期の目的は達したわけですし」
それはそうなんだけど、あまりにも巧く行き過ぎちゃって気が抜けちゃったというか……
「これで、あなたも長年の片思いから抜け出せるでしょ」
私が黙っていると、高橋君はそう言ってふわっと笑った。バレてたか……やっぱり。
 そうなのだ。私は部長に入社した時から今まで、10年間絶賛片思い中だったのだ。
いつも見ていたから部長の想いにも、ウブちゃんの想いにもすぐ気付いた。だけど、2人はいっこうに一歩を踏み出さない。私の想いは一方通行だから実らないのはしょうがない。だけど、部長たちは両思い。だったらさっさと纏まってくれ。そして、デレデレの笑顔を見せてくれ。歳の差は解るけど、そうでないとあぶれた者が前に進めないじゃないか。

 だから、お膳立てした。だけど、こんなにあっさり纏まってしまうと、それはそれで寂しくて……
「今日はとことん呑みましょう。そして、俺にもご褒美をくださいよ」
私はその言葉尻に不穏なワードが隠れていたことにうっかり気付かず、高橋君に勧められるままにグラスを重ねて……
 気が付いたらそこはホテルの一室で、目の前には大画面で高橋君の顔。
「高橋君、どうして?」
「ご褒美くれるんでしょ?」
訝る私にそう言って薄く笑う高橋君。なんか、すごくイヤな予感がする。
「くるみってそうやって他の人のことは分かるのに、案外自分のことは気が付かないんだね。自分をじっと見てる男がいるって、気付かなかった?」
「高橋君……」
「高橋君なんて他人行儀な呼び方は止めて。郁雄って呼んでくれないかな」
高橋君はそう言って私の唇に、自分の唇を重ね、驚いて半開きなのを良いことに易々と舌を潜り込ませ口内をこれでもかとかきまわす。
「ううん……うん…うん……」
「恋の傷を癒すのは新しい恋が一番、悪いことは言わない俺にしときなよ、くるみ」
そんな甘い言葉をささやきつつ、高橋君は何度も何度も私の唇を奪う。もう、私はすっかり酸欠状態だ。それでもなんとか、
「はぁ、はぁ、高橋君は、私より年下でしょ、はぁ」
それで良いの? と聞く。
「どっちが上でもそんなのどうでもいいことだよ。それにたった、4つでしょ。それをあの2人を纏めたくるみが言う? 愛には歳の差なんて関係ないだろ」

 だから、俺に堕ちなよと凶暴なぐらい美しい顔で言った高橋君は、そのまま私の身体をベッドに縫い止めて、一晩中離してくれなかった。しかも……
「や、やん……お願い……お願いだから避妊だけは……」
と言う私に、
「産むんだったら早くしないと、どんどん子育てが辛くなるでしょ」
と、一切つけないで。
「ああん、今できたら決算期に産休……ああっ……そんなの……」
「そんなこと言ってたら、なんだかんだって一生産めないよ、仕事はフォローしてもらえるんだから」
いい加減諦めたらと、そう言って郁雄(高橋君って呼んでも返事してくれなくなっちゃったし)は私の中に、もう何度目か分からない熱を放った。

 ……そして、佐伯もとい、高橋くるみ32歳。春には母になるのが決定。
 郁雄は私が妊娠したと分かった途端、部長ばりに戸籍を速攻で取り歩き(っても、2人とも都内だから小一時間で済んだんだけどね)速攻入籍した。

 完全に郁雄のペースに巻き込まれた形だけど、私は何故か別れる気にならない。どうやら甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるこの年下夫に、骨を全部抜かれてしまったみたいだ。
 悔しいから『愛してる』だけは絶対に言ってやんない。
 ふふふ、態度でそれくらい察しなさい。私のことずーっと見てきたのなら。
 
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