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揺れる想い
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結婚後、夫となった鳴澤憲幸は結婚式後すぐにほのかを解放してくれず、新婚旅行と称してアメリカの各地を一緒に回ることになってしまったのは手痛い誤算だったが、一月もすぎれば蜜月とも言っていられなくなり、ほのかはやっとひとり日本に帰ることができた。
夫が日本の土を踏むことができるのは、少なく見積もってもあと20日はかかるだろう。ほのかにはその間にやっておかねばならないことがあった。
ほのかが帰国の翌日向かった先は、都内にある、レディースクリニック。低容量ピルを処方してもらうためだ。
だが、子どもをほしがっているはずのほのかが何故そんなものを、しかも秀一郎にも内緒で調達しようとしているのか-
それは、ほのかが本気で秀一郎との子どもだけを産もうと考えていたからである。
『木は盛りの中に隠す』と口では言ってはいるが、秀一郎は二人の子どもを持つということに否定的だ。
確かに自分たちは双子ではある。だが、その内実は異父兄妹、血は半分しか共にしていない。血の濃さからすれば、従兄妹とさして変わりないのではないだろうか。従兄妹なら公に結婚だってできるのに、戸籍上実の兄妹である自分たちは結婚もできない。なんと理不尽なんだろう。
普通に交われば夫と兄どちらの子どもができるかは半々。だが、夫のいる期間には偏りがある。その夫のいる期間に合わせて低容量ピルを服用し、いないのを見計らって服用を止めれば、その跳ね返りも含めて兄の子を産む確率は格段にアップする。
これが、ほのかが渋々ながらも秀一郎の提案を受け入れた真意だ。
ただ、ほのかは件の夫憲幸のことを嫌っているわけではない。本当に嫌いであればほのかの性格から考えれば、触れられることも受け入れられないだろう。ましてや夫婦生活などあり得ない。憲幸とはそれなりに相性は良かった。
クリニックを出たほのかは、徐にマナーモードを解除した。そこには不在着信履歴があった。
「お義母様、何でしょうか」
発信者は憲幸の母、久仁子。
「ほのかちゃん、今どこにいる? おうちかしら」
お家だとちょっと遠いかしらねぇという久仁子に、
「ええ、はい……〇〇にいます」
とほのかは答えた。すると、
「あら、ちょうど良いわ。今からランチに行かない?
お友達に聞いたんだけど、XXにいいお店があるんですって」
久仁子の声のトーンが上がり、口にしたのは、今いる駅の沿線。電車で15分ほどの駅名だ。だが久仁子はそう言ったものの、
「でも、それではわたくしの方が時間かかっちゃうわね」
どうしましょうと、心底困った様子でほのかに尋ねる。
「良いですよ、XXで待ってますから。
あまり、五十嵐さんを急かさないできてください」
それに対して、ほのかはくすっと笑ってそう答えた。五十嵐とは久仁子の運転手の名前だ。
仕事人間の夫や息子たちにいつも置いてけぼりの久仁子は、初対面からほのかを本当の娘のように扱った。ほのかがたった2ヶ月という短期間で入籍したのも、この久仁子の存在が大きい。
思えば、ほのかたちの実母夏海は、周囲に気ばかり遣って自分を見ては複雑な表情を浮かべていた。
その原因がわかったのは皮肉にも最愛の父の死。母は、あっという間に兄とそっくりな男と再婚した。母は、父など最初から愛していなかったのだ。だから、父の面影を色濃く遺す自分は疎まれているのだと。
久仁子はそんなほのかに、
「わたくし、こんな娘が欲しかったのよ~」
と豪語し、時には夫である息子にまでヤキモチを妬くほど猫っかわいがりする。はっきり言おう、ほのかは憲幸ではなく、久仁子に惚れたのだ。この家の子供になりたいと、結婚をする決意をしたのだ。
ただ、今回の計画を推し進めれば結局その久仁子をも裏切ることになる。それでも、自分は秀一郎の子どもを諦めたくはなかった。それは親たちへの復讐ではない、あんなに憎むべき母とあの男の子供であるはずの秀一郎を自分は愛して止まないのだ。己の半身であり足りない部分を持つ彼から離れることができない。
久仁子の迎えが来るまでの間、勇んで処方してもらったはずの鞄の中身がほのかにはやけに重く感じられたのだった
夫が日本の土を踏むことができるのは、少なく見積もってもあと20日はかかるだろう。ほのかにはその間にやっておかねばならないことがあった。
ほのかが帰国の翌日向かった先は、都内にある、レディースクリニック。低容量ピルを処方してもらうためだ。
だが、子どもをほしがっているはずのほのかが何故そんなものを、しかも秀一郎にも内緒で調達しようとしているのか-
それは、ほのかが本気で秀一郎との子どもだけを産もうと考えていたからである。
『木は盛りの中に隠す』と口では言ってはいるが、秀一郎は二人の子どもを持つということに否定的だ。
確かに自分たちは双子ではある。だが、その内実は異父兄妹、血は半分しか共にしていない。血の濃さからすれば、従兄妹とさして変わりないのではないだろうか。従兄妹なら公に結婚だってできるのに、戸籍上実の兄妹である自分たちは結婚もできない。なんと理不尽なんだろう。
普通に交われば夫と兄どちらの子どもができるかは半々。だが、夫のいる期間には偏りがある。その夫のいる期間に合わせて低容量ピルを服用し、いないのを見計らって服用を止めれば、その跳ね返りも含めて兄の子を産む確率は格段にアップする。
これが、ほのかが渋々ながらも秀一郎の提案を受け入れた真意だ。
ただ、ほのかは件の夫憲幸のことを嫌っているわけではない。本当に嫌いであればほのかの性格から考えれば、触れられることも受け入れられないだろう。ましてや夫婦生活などあり得ない。憲幸とはそれなりに相性は良かった。
クリニックを出たほのかは、徐にマナーモードを解除した。そこには不在着信履歴があった。
「お義母様、何でしょうか」
発信者は憲幸の母、久仁子。
「ほのかちゃん、今どこにいる? おうちかしら」
お家だとちょっと遠いかしらねぇという久仁子に、
「ええ、はい……〇〇にいます」
とほのかは答えた。すると、
「あら、ちょうど良いわ。今からランチに行かない?
お友達に聞いたんだけど、XXにいいお店があるんですって」
久仁子の声のトーンが上がり、口にしたのは、今いる駅の沿線。電車で15分ほどの駅名だ。だが久仁子はそう言ったものの、
「でも、それではわたくしの方が時間かかっちゃうわね」
どうしましょうと、心底困った様子でほのかに尋ねる。
「良いですよ、XXで待ってますから。
あまり、五十嵐さんを急かさないできてください」
それに対して、ほのかはくすっと笑ってそう答えた。五十嵐とは久仁子の運転手の名前だ。
仕事人間の夫や息子たちにいつも置いてけぼりの久仁子は、初対面からほのかを本当の娘のように扱った。ほのかがたった2ヶ月という短期間で入籍したのも、この久仁子の存在が大きい。
思えば、ほのかたちの実母夏海は、周囲に気ばかり遣って自分を見ては複雑な表情を浮かべていた。
その原因がわかったのは皮肉にも最愛の父の死。母は、あっという間に兄とそっくりな男と再婚した。母は、父など最初から愛していなかったのだ。だから、父の面影を色濃く遺す自分は疎まれているのだと。
久仁子はそんなほのかに、
「わたくし、こんな娘が欲しかったのよ~」
と豪語し、時には夫である息子にまでヤキモチを妬くほど猫っかわいがりする。はっきり言おう、ほのかは憲幸ではなく、久仁子に惚れたのだ。この家の子供になりたいと、結婚をする決意をしたのだ。
ただ、今回の計画を推し進めれば結局その久仁子をも裏切ることになる。それでも、自分は秀一郎の子どもを諦めたくはなかった。それは親たちへの復讐ではない、あんなに憎むべき母とあの男の子供であるはずの秀一郎を自分は愛して止まないのだ。己の半身であり足りない部分を持つ彼から離れることができない。
久仁子の迎えが来るまでの間、勇んで処方してもらったはずの鞄の中身がほのかにはやけに重く感じられたのだった
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