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キ、キャラ違うんですけど……
マイケルさんは信号待ちの間に素早くインカムを取り出すと、どこかに電話をかけた。スマホは乗った直後に専用のポートに差し込んである。たぶん、普段からこんな風に電話することが多いのだろう。
「……ああ、櫟原だが。今からそちらに向かうんで、駐車場に車いすを用意してもらいたい。連れが怪我をしているんで。じゃぁ、15分後ぐらいにそちらに着くのでよろしく」
それにしても、いったいどこに行くつもりなのだろうか。でも私は、電話のマイケルさんの口調が思いの外高圧的なのにびっくりして、それを聞くことができず、マイケルさんも何もしゃべらない。電話のためのか、カーオーディオのボリュームを切ってある静かな車内には微妙な空気だけが流れていた。
そしてついたのは都内の有名デパート。駐車場に着くと、デパートの偉いさんらしき人が、車いすを持って待ち構えていた。
「櫟原様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました。こちらのお嬢様をお乗せすればよろしいでしょうか」
デパートの人はマイケルさんににこやかに挨拶をすると、素早く助手席に回り込んでそのドアを開けたけど、
「いや、彼女は私が乗せる。それよりも彼女が動きやすい服を見繕ってもらいたいのだが」
「かしこまりました」
マイケルさんはこちらに回り込み、私を抱き上げると、デパートの人が持ってきた車いすに私を座らせた。デパートの人は、部下の人らしき男の人に、
「和光さんを外商に」
と指示を出した。すぐさま部下の人が和光さんを呼びに走って行く。そして、
「すいません、櫟原様ご自身のお買い物だと思いましたので、中村を来させたんですが」
と恐縮しながら頭を下げた。
「いや、女性の買い物だと言わなかった私が悪い」
「とんでもございません。お電話を頂いたとき、まずこちらがお伺いするべきでした」
大体、デパートの人って低姿勢だけど、この人の姿勢は更に低いような気がする。それだけマイケルさんが普段このデパートで買い物しているのだって解る。でも、相変わらずマイケルさんの口調は高圧的で、私には話しかけてもくれない。どうしちゃったんだろう。
いつもとは違うエレベーターで最上階に上がると、そこは応接室のようなところだった。これが噂の外商部って奴なのね。私には一生縁のないとこだと思っていた。
デパートの人が両開きのドアを開けると、そこには、既に和光と書かれた名札をした女性が衣類ハンガーに服をいっぱい吊り下げて待機していた。そして、
「初めまして、和光と申します」
と完璧な角度でお辞儀をした後、
「お御足のことを考えますと、ストッキングを穿くことも難しいと思いまして、パンツスーツを中心にご用意させていただきました。トップスは7号でボトムスは9号でよろしいでしょうか? それでしたらこれなどいかがでしょうか?」
とたくさん吊ってある中から、ワインレッドのものを取り出す。たぶん私が今着ているエンジに小花柄の着物を見てのチョイスだろう。でもこれは、ママから『見合い』の為に着せられただけなんだけど。それに気づいているのかどうかは別として、和光さんはさらに私が目で追っているの場所を素早く見て取って、
「それからこちらなどもよろしいかと」
と、目線の先にあったスカイブルーのものも取り出した。
それにしても、体型がわかりにくい着物を着て車いすに座ったままの私を見て、どうして即座にサイズが判る?
「それでいいのか」
とマイケルさんが聞く。まぁ、男の人は女の人の服になんか興味ないもんね。私はそれには答えず、
「うーん……」
と言いながらプライスタグを探す。見た目からして、私が普段バーゲンのワゴンで漁っているような奴の3倍? 5倍?? もっとかなと思いつつ。
だけど、残念ながらタグは外してあるのか、はたまた最初からこんなとこに用意するものにはついていないのか見つからなかった。しつこくプライスカードを探し続ける私に、
「決まらないなら、両方買えばいい」
マイケルさんはこともなげにそう言った。折角私はどちらが安いかで品定めをしてるっていうのに、あなたはその努力をムダにするって言うんですか?
大体、私はちゃんと着物を着ているんです。新たに洋服を買ってもらう必要性を感じません。しかも、こんなフランスだかイタリアだかわからない高級ブランドの服、買ってもらう謂われはありません。
だけど、私は声高にそのことを言うことができなかった。ここにいるマイケルさんは、何だかさっきとは別人かと思うくらいに顔つきまで違っているし、なんだかんだと言ってもここまで来てしまった手前、私がギャーギャー騒いだらマイケルさんに恥をかかせてしまうような気がしたからだ。
結局、
「お嬢様はお色が白いですから、この方がお顔映りがよろしいかと」
という和光さんのトークに押し負けて、エンジ色に決定。男性陣にはしばしご退出願って、私はそのパンツスーツに着替えた。
ただ、その時、ぜんぜんそれまで話題にもしていなかったファンデーション(ブラ・キャミソール)までコーディネートして差し出されたのには、驚きを通り越して寒気すら感じた。さすがデパートの外商員、怖そるべし。
もちろん、そのサイズがブラに至るまでジャストフィットだったのは言うまでもない。
「……ああ、櫟原だが。今からそちらに向かうんで、駐車場に車いすを用意してもらいたい。連れが怪我をしているんで。じゃぁ、15分後ぐらいにそちらに着くのでよろしく」
それにしても、いったいどこに行くつもりなのだろうか。でも私は、電話のマイケルさんの口調が思いの外高圧的なのにびっくりして、それを聞くことができず、マイケルさんも何もしゃべらない。電話のためのか、カーオーディオのボリュームを切ってある静かな車内には微妙な空気だけが流れていた。
そしてついたのは都内の有名デパート。駐車場に着くと、デパートの偉いさんらしき人が、車いすを持って待ち構えていた。
「櫟原様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました。こちらのお嬢様をお乗せすればよろしいでしょうか」
デパートの人はマイケルさんににこやかに挨拶をすると、素早く助手席に回り込んでそのドアを開けたけど、
「いや、彼女は私が乗せる。それよりも彼女が動きやすい服を見繕ってもらいたいのだが」
「かしこまりました」
マイケルさんはこちらに回り込み、私を抱き上げると、デパートの人が持ってきた車いすに私を座らせた。デパートの人は、部下の人らしき男の人に、
「和光さんを外商に」
と指示を出した。すぐさま部下の人が和光さんを呼びに走って行く。そして、
「すいません、櫟原様ご自身のお買い物だと思いましたので、中村を来させたんですが」
と恐縮しながら頭を下げた。
「いや、女性の買い物だと言わなかった私が悪い」
「とんでもございません。お電話を頂いたとき、まずこちらがお伺いするべきでした」
大体、デパートの人って低姿勢だけど、この人の姿勢は更に低いような気がする。それだけマイケルさんが普段このデパートで買い物しているのだって解る。でも、相変わらずマイケルさんの口調は高圧的で、私には話しかけてもくれない。どうしちゃったんだろう。
いつもとは違うエレベーターで最上階に上がると、そこは応接室のようなところだった。これが噂の外商部って奴なのね。私には一生縁のないとこだと思っていた。
デパートの人が両開きのドアを開けると、そこには、既に和光と書かれた名札をした女性が衣類ハンガーに服をいっぱい吊り下げて待機していた。そして、
「初めまして、和光と申します」
と完璧な角度でお辞儀をした後、
「お御足のことを考えますと、ストッキングを穿くことも難しいと思いまして、パンツスーツを中心にご用意させていただきました。トップスは7号でボトムスは9号でよろしいでしょうか? それでしたらこれなどいかがでしょうか?」
とたくさん吊ってある中から、ワインレッドのものを取り出す。たぶん私が今着ているエンジに小花柄の着物を見てのチョイスだろう。でもこれは、ママから『見合い』の為に着せられただけなんだけど。それに気づいているのかどうかは別として、和光さんはさらに私が目で追っているの場所を素早く見て取って、
「それからこちらなどもよろしいかと」
と、目線の先にあったスカイブルーのものも取り出した。
それにしても、体型がわかりにくい着物を着て車いすに座ったままの私を見て、どうして即座にサイズが判る?
「それでいいのか」
とマイケルさんが聞く。まぁ、男の人は女の人の服になんか興味ないもんね。私はそれには答えず、
「うーん……」
と言いながらプライスタグを探す。見た目からして、私が普段バーゲンのワゴンで漁っているような奴の3倍? 5倍?? もっとかなと思いつつ。
だけど、残念ながらタグは外してあるのか、はたまた最初からこんなとこに用意するものにはついていないのか見つからなかった。しつこくプライスカードを探し続ける私に、
「決まらないなら、両方買えばいい」
マイケルさんはこともなげにそう言った。折角私はどちらが安いかで品定めをしてるっていうのに、あなたはその努力をムダにするって言うんですか?
大体、私はちゃんと着物を着ているんです。新たに洋服を買ってもらう必要性を感じません。しかも、こんなフランスだかイタリアだかわからない高級ブランドの服、買ってもらう謂われはありません。
だけど、私は声高にそのことを言うことができなかった。ここにいるマイケルさんは、何だかさっきとは別人かと思うくらいに顔つきまで違っているし、なんだかんだと言ってもここまで来てしまった手前、私がギャーギャー騒いだらマイケルさんに恥をかかせてしまうような気がしたからだ。
結局、
「お嬢様はお色が白いですから、この方がお顔映りがよろしいかと」
という和光さんのトークに押し負けて、エンジ色に決定。男性陣にはしばしご退出願って、私はそのパンツスーツに着替えた。
ただ、その時、ぜんぜんそれまで話題にもしていなかったファンデーション(ブラ・キャミソール)までコーディネートして差し出されたのには、驚きを通り越して寒気すら感じた。さすがデパートの外商員、怖そるべし。
もちろん、そのサイズがブラに至るまでジャストフィットだったのは言うまでもない。
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