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鮎さん、来襲!!
翌日、朝8時に美久さんが迎えにきた。インターフォン前に待機していた私は鳴った途端、カフをあげる。パパはもう出勤していないけど、ママが起きてきたら厄介だ。
そうやって、素早く家を出て美久さんの車に乗り込んだ。
「朝早くからすいません」
と、頭を下げる私に、美久さんは、
「いいえ、別に。それに、どうせ『親父の様子を見てきてくれ』と社長に言われていますから。どうせ病院に行くのなら、月島さんを乗せて行くのはそんなに手間ではありませんし」
と言った。
そして、病室に着いた時、マイケルさんは眠っていて、美久さんは、
「経過の方はナースステーションで聞いて帰ります」
と、すぐに病室を出て行っってしまった。
一人残された私(正確に言えばマイケルさんがいるんだから一人ではないのだけど)は、ソファーに座って徐に携帯ゲーム機を取り出した。入っているソフトは「ぽよぽよ」、単純明快『落ちゲー』だ。どうせ完全看護だから何もすることはないし、これなら既に何度かクリアしているから、どの面からでも遊べるし、逆にいつでも止められる。私はヘッドホンをしてやり始めた。別に、BGMなんてなくても良いけど、面クリアの時のキャラクターのどーでもいいやりとり、結構面白いのよね。
ゲームをどれくらいやっただろうか、不意に病室の扉が開いた。相手の名誉のために言えば、たぶんノックはされていたと思うけど、脳に直接ゲーム音を浴びていた私には聞こえなかっただけだ。
「タケちゃーん、ちょっとは元気になった」
そして、そう言って現れたのは、品の良いスーツを着た40代くらいの女性。彼女は部屋を見回すと、
「あら、どちら様?」
私を見咎めてそう言った。
「あ、はじめまして、月島です」
「ああ、もしかしたらあなたがタケちゃんの婚約者? 私、幸太郎の母です」
その人はそう言うと名詞を取り出した。受け取ろうとしたとき、横のベッドに動きを感じる。
「鮎さん、来てくれたんだ」
目を覚ましたマイケルさんは、かすれた声でそう言った。そうか、この人がアユさん? そう思いながら渡された名刺を見ると、そこには、ブライダルコンサルタント鮎川 寿子の文字がある。アユさんって言うから『あゆこ』とかそう言う名前なのだと思っていたんだけど、鮎川さんって名字だったのね。分かってしまえばなんてこともない話。それにしても、櫟原家では私はもう婚約者として位置づけられているの? 別に断る気もないんだけど、なんか落ち着かない。
「幸太郎から倒れたって聞いてびっくりしたわよ」
「心配かけちゃったかな、でも、もう大丈夫だよ。結婚式までにはちゃんと良くなるから」
「ああ、そうそう、それそれ。私、月島さんだっけ? あなたにお願いがあってきたのよ。仕事帰りにくらいにはここに見えると思ったから、タケちゃんにお願いしてもらおうと思ったんだけど、手間が省けたわ」
「私に……ですか」
一体、何だろ。
「ええ、来月の幸太郎と薫さんの結婚式なんだけど、月島さんがタケちゃんと両親として出席して欲しいの」
ええーっ! 新郎の親として出席!? 自分たちも結婚してないのに??
「幸太郎はもう櫟原の家に養子に出したんだし、櫟原に両親そろっているんだったら、私が母親面して座ってることないでしょ?」
驚いている私に当然のようにそう言う鮎さん。
「そ、そんなこと言ったって、鮎さんは幸太郎さんの実のお母さんなんでしょう?」
確かに今、私そう聞いたけど。
「ま、それはそうなんだけど、私結婚式でじっとしてるなんて耐えられないの。結婚式は私の戦場だもの」
鮎さんはそう言ってウインクする。確かに名刺にはウエディングコンサルタントと書いてあるけど、自分の息子の結婚式までコーディネートすることないじゃない。
「あ、あの、でも聞きますけど、幸太郎さんお子さんいらっしゃるみたいなんですけど、なんで今頃結婚式なんですか?」
それで、私は前から疑問に思っていたことを口にした。それを聞いた鮎さんは、
「なんだ、タケちゃん話してないの?」
と呆れ口調でマイケルさんに尋ねる。
「だって、幸太郎君たちの結婚は更紗ちゃんと知り合う前から決まってたから。それに、いきなり息子の結婚式に出てくれって普通言える?」
それに対してマイケルさんは口を尖らせてそう答えた。
「要するに、結婚式する前にデキちゃったのよ。
ホントだったら、安定期に入ってやれば良いんだけど、薫さんが切迫流産になったもんだから幸太郎が怖がっちゃってね、絶対に生まれてからしかしないって聞かなかったって訳」
そう言う訳だったのか。そう言えば、幸太郎さんの車に乗ったとき、いきなり童謡がかかったもんね。ホントにお子さんを大事にしてるんだ。
「ま、私も最近は結構そういう『おめでた婚』のお世話もするけど、結構新婦さんが大変だったりするから、幸太郎の選択は間違ってはいなかったって思うのよね。なんたって奏のお披露目も一緒にできちゃうわけでしょ」
一粒で二度おいしいと、鮎さんはどっかのお菓子メーカーみたいな台詞を吐いて笑った。
で、少しは抵抗したけど、
「ね、親代わりとして席に座ってくれてるだけで良いんだから」
最後は鮎さんのそんな言葉に押し負けて、私が渋々幸太郎さんの母親役を引き受けると言うと、鮎さんは、
「じゃぁ、そう言うことで、スタッフに知らせておくわね」
とスキップでもしかねない勢いで、病室を出ていった。
ううっ、幸太郎さんは櫟原の社長な訳だし、義母としては装いは黒留め袖よね。正巳の時に着たからあるにはあるけど、どうママに言おう。 それに、今からこんなに嫁扱いってわかったら、パパは荒れるんだろうな。ホントに許してくれる気がしない。
「鮎さん本気だよ。ずっとディアさん(クラウディアさんのこと。つまり幸太郎さんの義理のおばあちゃん)に頼み込んでたんだけど、あまりにもそれっぽいから、パパが拗ねちゃってね、立ち消えになっちゃたんだ。そこに、更紗ちゃんが現れたもんだから、今度こそはと思ってる」
鮎さんを見送った後、マイケルさんがため息をつきながらそう言った。
クラウディアさんはマイケルさんよりまだ8歳下だもんね。
「それにさ、ディアさんが僕の隣に来るとなると、デビはパパ一人で見なきゃならないからね。そりゃ拗ねるよ」
デビというのは、マイケルさんの末の義弟デビッド(日本名は英雄)くん。もうすぐ4歳になるやんちゃ盛りだ。そりゃ、お父さん一人では荷が重いだろう。でも、デビはもちろんデビッドの相性だけど、実はデビルの意味も言外に含んでいるのを知るのは、この後なんだけどね。
「ねぇ、お嫁にくるの怖くなっちゃった? 僕、退院したらすぐご挨拶に伺うから、更紗ちゃん、嫌がらないで絶対に僕のところにきてね」
たぶん不安感一杯の顔になっている私に、マイケルさんは泣きそうになりながらそう言った。
そうやって、素早く家を出て美久さんの車に乗り込んだ。
「朝早くからすいません」
と、頭を下げる私に、美久さんは、
「いいえ、別に。それに、どうせ『親父の様子を見てきてくれ』と社長に言われていますから。どうせ病院に行くのなら、月島さんを乗せて行くのはそんなに手間ではありませんし」
と言った。
そして、病室に着いた時、マイケルさんは眠っていて、美久さんは、
「経過の方はナースステーションで聞いて帰ります」
と、すぐに病室を出て行っってしまった。
一人残された私(正確に言えばマイケルさんがいるんだから一人ではないのだけど)は、ソファーに座って徐に携帯ゲーム機を取り出した。入っているソフトは「ぽよぽよ」、単純明快『落ちゲー』だ。どうせ完全看護だから何もすることはないし、これなら既に何度かクリアしているから、どの面からでも遊べるし、逆にいつでも止められる。私はヘッドホンをしてやり始めた。別に、BGMなんてなくても良いけど、面クリアの時のキャラクターのどーでもいいやりとり、結構面白いのよね。
ゲームをどれくらいやっただろうか、不意に病室の扉が開いた。相手の名誉のために言えば、たぶんノックはされていたと思うけど、脳に直接ゲーム音を浴びていた私には聞こえなかっただけだ。
「タケちゃーん、ちょっとは元気になった」
そして、そう言って現れたのは、品の良いスーツを着た40代くらいの女性。彼女は部屋を見回すと、
「あら、どちら様?」
私を見咎めてそう言った。
「あ、はじめまして、月島です」
「ああ、もしかしたらあなたがタケちゃんの婚約者? 私、幸太郎の母です」
その人はそう言うと名詞を取り出した。受け取ろうとしたとき、横のベッドに動きを感じる。
「鮎さん、来てくれたんだ」
目を覚ましたマイケルさんは、かすれた声でそう言った。そうか、この人がアユさん? そう思いながら渡された名刺を見ると、そこには、ブライダルコンサルタント鮎川 寿子の文字がある。アユさんって言うから『あゆこ』とかそう言う名前なのだと思っていたんだけど、鮎川さんって名字だったのね。分かってしまえばなんてこともない話。それにしても、櫟原家では私はもう婚約者として位置づけられているの? 別に断る気もないんだけど、なんか落ち着かない。
「幸太郎から倒れたって聞いてびっくりしたわよ」
「心配かけちゃったかな、でも、もう大丈夫だよ。結婚式までにはちゃんと良くなるから」
「ああ、そうそう、それそれ。私、月島さんだっけ? あなたにお願いがあってきたのよ。仕事帰りにくらいにはここに見えると思ったから、タケちゃんにお願いしてもらおうと思ったんだけど、手間が省けたわ」
「私に……ですか」
一体、何だろ。
「ええ、来月の幸太郎と薫さんの結婚式なんだけど、月島さんがタケちゃんと両親として出席して欲しいの」
ええーっ! 新郎の親として出席!? 自分たちも結婚してないのに??
「幸太郎はもう櫟原の家に養子に出したんだし、櫟原に両親そろっているんだったら、私が母親面して座ってることないでしょ?」
驚いている私に当然のようにそう言う鮎さん。
「そ、そんなこと言ったって、鮎さんは幸太郎さんの実のお母さんなんでしょう?」
確かに今、私そう聞いたけど。
「ま、それはそうなんだけど、私結婚式でじっとしてるなんて耐えられないの。結婚式は私の戦場だもの」
鮎さんはそう言ってウインクする。確かに名刺にはウエディングコンサルタントと書いてあるけど、自分の息子の結婚式までコーディネートすることないじゃない。
「あ、あの、でも聞きますけど、幸太郎さんお子さんいらっしゃるみたいなんですけど、なんで今頃結婚式なんですか?」
それで、私は前から疑問に思っていたことを口にした。それを聞いた鮎さんは、
「なんだ、タケちゃん話してないの?」
と呆れ口調でマイケルさんに尋ねる。
「だって、幸太郎君たちの結婚は更紗ちゃんと知り合う前から決まってたから。それに、いきなり息子の結婚式に出てくれって普通言える?」
それに対してマイケルさんは口を尖らせてそう答えた。
「要するに、結婚式する前にデキちゃったのよ。
ホントだったら、安定期に入ってやれば良いんだけど、薫さんが切迫流産になったもんだから幸太郎が怖がっちゃってね、絶対に生まれてからしかしないって聞かなかったって訳」
そう言う訳だったのか。そう言えば、幸太郎さんの車に乗ったとき、いきなり童謡がかかったもんね。ホントにお子さんを大事にしてるんだ。
「ま、私も最近は結構そういう『おめでた婚』のお世話もするけど、結構新婦さんが大変だったりするから、幸太郎の選択は間違ってはいなかったって思うのよね。なんたって奏のお披露目も一緒にできちゃうわけでしょ」
一粒で二度おいしいと、鮎さんはどっかのお菓子メーカーみたいな台詞を吐いて笑った。
で、少しは抵抗したけど、
「ね、親代わりとして席に座ってくれてるだけで良いんだから」
最後は鮎さんのそんな言葉に押し負けて、私が渋々幸太郎さんの母親役を引き受けると言うと、鮎さんは、
「じゃぁ、そう言うことで、スタッフに知らせておくわね」
とスキップでもしかねない勢いで、病室を出ていった。
ううっ、幸太郎さんは櫟原の社長な訳だし、義母としては装いは黒留め袖よね。正巳の時に着たからあるにはあるけど、どうママに言おう。 それに、今からこんなに嫁扱いってわかったら、パパは荒れるんだろうな。ホントに許してくれる気がしない。
「鮎さん本気だよ。ずっとディアさん(クラウディアさんのこと。つまり幸太郎さんの義理のおばあちゃん)に頼み込んでたんだけど、あまりにもそれっぽいから、パパが拗ねちゃってね、立ち消えになっちゃたんだ。そこに、更紗ちゃんが現れたもんだから、今度こそはと思ってる」
鮎さんを見送った後、マイケルさんがため息をつきながらそう言った。
クラウディアさんはマイケルさんよりまだ8歳下だもんね。
「それにさ、ディアさんが僕の隣に来るとなると、デビはパパ一人で見なきゃならないからね。そりゃ拗ねるよ」
デビというのは、マイケルさんの末の義弟デビッド(日本名は英雄)くん。もうすぐ4歳になるやんちゃ盛りだ。そりゃ、お父さん一人では荷が重いだろう。でも、デビはもちろんデビッドの相性だけど、実はデビルの意味も言外に含んでいるのを知るのは、この後なんだけどね。
「ねぇ、お嫁にくるの怖くなっちゃった? 僕、退院したらすぐご挨拶に伺うから、更紗ちゃん、嫌がらないで絶対に僕のところにきてね」
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