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書く理由
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そして、マイケルさんが倒れてから10日、彼の退院が決まった。
退院の日がパパの公休に当たっていると私が言うと、マイケルさんは一旦家に戻ってシャワーを浴びるとすぐに美久さんの車に乗ってやって来ると言った。本当は自分で運転するつもりだったらしいけど、退院後すぐ行くと言ったマイケルさんに、幸太郎さんはそれなら迎えに行った美久さんの運転で行けと譲らなかったらしい。
「シャワーなんてダメですよ。またぶり返したらどうするんですか」
と言う私に、
「そんなこと言ったって、病院の空気を背負ったまま更紗ちゃんのご両親に会えないよ」
と返すマイケルさん。
「次の公休でも良いんじゃないですか」
と言った私に、
「ダメ、今度は絶対に失いたくないんだ。それに、こういうのって勢いが大事だと思わない?」
マイケルさんはそう言って納得してくれなかった。でも、今度は……か。マイケルさんの中にはまだ華子さんへの想いがあったりするのかな。そうだよね、私とはまだ一月も経っていない訳だし。
「どうしたの?」
「い、いえ……何でも」
私が歯切れの悪い返事をすると、マイケルさんは、
「何でもじゃないでしょ、更紗ちゃんって自分の気持ちをすぐ飲み込んじゃうよね。僕にはどんなことでも全部ぶつけて」
と、ちょっとムッとした表情で私にそう言った。
「……」
「思いが膨らみすぎると爆発するよ」
マイケルさんは、ベッド脇に座っている私の髪を撫でながらそう付け加えた。
「マイケルさん……」
「何?」
「マイケルさんは……今でも華子さんのこと……好き……なんですか」
それで、私がようやく華子さんのことを口に出すと、マイケルさんはふっと笑った。
「華子? ああ、香澄のことか。幸太郎君に聞いたの?」
そうか、華子は「コーラルブルー」の登場人物の名前だもんね。本名は香澄さんっていうのか。私は黙って頷いた。
「好きと言えば好きかも知れない」
そして、ものすごく穏やかな顔でマイケルさんはそう返した。だよね、やっぱり忘れていないんだ。解ってたけど、胸が痛い。目頭が熱くなる。
「そうじゃないかな。そう、好きって言うより感謝だと思う」
だけど、私が泣きそうな顔をしたからだろうか、マイケルさんはそう付け加えて、静かに語り始めた。
「パパが結婚して、僕も僕らしく生きようと思ったとき、一番最初に思い出したのは確かに彼女のことだったよ。
で、あのとき、僕はどうすれば良かったんだろう、彼女は何を考えてあの言葉を口に出したんだろうって思ったとき、二次元で僕は彼女になりきって生きてみよう。そうすれば彼女の気持ちが少しでも解るかもって考えたんだ。そうして書いたのがあの、『コーラルブルー』だった。
だからって何が解るってこともなかったんだけどね、ただ、自分の中で彼女への想いが昇華された。それでもう僕は充分だったんだ。
でもね、それを遅ればせながらの恋愛収束宣言のつもりで学生時代の物書き仲間テッちゃんに見せたら、テッちゃんは香澄のことを全部知ってるのに、それでもこれは小説として売れるからって、勝手に知り合いの菊田編集長のところに持ち込んじゃったんだよね。
それでなし崩しにこんな風に小説家になっちゃった。
だから、どうしてもって理由が自分の中になかったんだと思うんだ。書くことはもちろん大好きだし、手を抜いているつもりはないんだけど、書いてると逃げ出したくなっちゃう」
マイケルさんはそう言って舌を出しながら笑った。そして、
「だけどね、最近やっとわかったんだ。僕が小説家になった理由」
と、嬉しそうに続けた。
「わかったんですか?」
私とも逃げ出して出会ったんだから、極々最近だよね。まさか、入院して悟りを開いたとか? マイケルさんはそう思った私の手を握って、
「うん、それはね……更紗ちゃん、君に会うためだよ。
櫟原で仕事に明け暮れていたら、君には絶対に出会えなかったもん」
と言った。しかも、その表情は掟破りの? 天使スマイル。つながれている手からざーっつと音が聞こえる位の勢いで熱が頭に上ってくる。
「あ、あ、あの……」
パクパクと金魚みたいな呼吸をしている私に、
「それにね、更紗ちゃんがいっしょにいてくれると、カラオケの時みたいに、どんどんネタが湧いてくるんだ、だからね」
とマイケルさんは続ける。
「だから?」
「捨てないでね」
と、マイケルさん。そして、
「ヨボヨボのおじいちゃんになってもだよ」
さらにそう念を押す。冗談を言ってる訳じゃなく、その目は至って真剣。私のどこがそんなに良かったのかと首を傾げたくなるくらいに。
で、そんなマイケルさんをかわいいと思ってしまう私。
たぶん……似たものなんだろうな。
「はいはい、私もその頃にはオバサンですからね、その言葉そのまま返します」
私もそう言って笑った。
退院の日がパパの公休に当たっていると私が言うと、マイケルさんは一旦家に戻ってシャワーを浴びるとすぐに美久さんの車に乗ってやって来ると言った。本当は自分で運転するつもりだったらしいけど、退院後すぐ行くと言ったマイケルさんに、幸太郎さんはそれなら迎えに行った美久さんの運転で行けと譲らなかったらしい。
「シャワーなんてダメですよ。またぶり返したらどうするんですか」
と言う私に、
「そんなこと言ったって、病院の空気を背負ったまま更紗ちゃんのご両親に会えないよ」
と返すマイケルさん。
「次の公休でも良いんじゃないですか」
と言った私に、
「ダメ、今度は絶対に失いたくないんだ。それに、こういうのって勢いが大事だと思わない?」
マイケルさんはそう言って納得してくれなかった。でも、今度は……か。マイケルさんの中にはまだ華子さんへの想いがあったりするのかな。そうだよね、私とはまだ一月も経っていない訳だし。
「どうしたの?」
「い、いえ……何でも」
私が歯切れの悪い返事をすると、マイケルさんは、
「何でもじゃないでしょ、更紗ちゃんって自分の気持ちをすぐ飲み込んじゃうよね。僕にはどんなことでも全部ぶつけて」
と、ちょっとムッとした表情で私にそう言った。
「……」
「思いが膨らみすぎると爆発するよ」
マイケルさんは、ベッド脇に座っている私の髪を撫でながらそう付け加えた。
「マイケルさん……」
「何?」
「マイケルさんは……今でも華子さんのこと……好き……なんですか」
それで、私がようやく華子さんのことを口に出すと、マイケルさんはふっと笑った。
「華子? ああ、香澄のことか。幸太郎君に聞いたの?」
そうか、華子は「コーラルブルー」の登場人物の名前だもんね。本名は香澄さんっていうのか。私は黙って頷いた。
「好きと言えば好きかも知れない」
そして、ものすごく穏やかな顔でマイケルさんはそう返した。だよね、やっぱり忘れていないんだ。解ってたけど、胸が痛い。目頭が熱くなる。
「そうじゃないかな。そう、好きって言うより感謝だと思う」
だけど、私が泣きそうな顔をしたからだろうか、マイケルさんはそう付け加えて、静かに語り始めた。
「パパが結婚して、僕も僕らしく生きようと思ったとき、一番最初に思い出したのは確かに彼女のことだったよ。
で、あのとき、僕はどうすれば良かったんだろう、彼女は何を考えてあの言葉を口に出したんだろうって思ったとき、二次元で僕は彼女になりきって生きてみよう。そうすれば彼女の気持ちが少しでも解るかもって考えたんだ。そうして書いたのがあの、『コーラルブルー』だった。
だからって何が解るってこともなかったんだけどね、ただ、自分の中で彼女への想いが昇華された。それでもう僕は充分だったんだ。
でもね、それを遅ればせながらの恋愛収束宣言のつもりで学生時代の物書き仲間テッちゃんに見せたら、テッちゃんは香澄のことを全部知ってるのに、それでもこれは小説として売れるからって、勝手に知り合いの菊田編集長のところに持ち込んじゃったんだよね。
それでなし崩しにこんな風に小説家になっちゃった。
だから、どうしてもって理由が自分の中になかったんだと思うんだ。書くことはもちろん大好きだし、手を抜いているつもりはないんだけど、書いてると逃げ出したくなっちゃう」
マイケルさんはそう言って舌を出しながら笑った。そして、
「だけどね、最近やっとわかったんだ。僕が小説家になった理由」
と、嬉しそうに続けた。
「わかったんですか?」
私とも逃げ出して出会ったんだから、極々最近だよね。まさか、入院して悟りを開いたとか? マイケルさんはそう思った私の手を握って、
「うん、それはね……更紗ちゃん、君に会うためだよ。
櫟原で仕事に明け暮れていたら、君には絶対に出会えなかったもん」
と言った。しかも、その表情は掟破りの? 天使スマイル。つながれている手からざーっつと音が聞こえる位の勢いで熱が頭に上ってくる。
「あ、あ、あの……」
パクパクと金魚みたいな呼吸をしている私に、
「それにね、更紗ちゃんがいっしょにいてくれると、カラオケの時みたいに、どんどんネタが湧いてくるんだ、だからね」
とマイケルさんは続ける。
「だから?」
「捨てないでね」
と、マイケルさん。そして、
「ヨボヨボのおじいちゃんになってもだよ」
さらにそう念を押す。冗談を言ってる訳じゃなく、その目は至って真剣。私のどこがそんなに良かったのかと首を傾げたくなるくらいに。
で、そんなマイケルさんをかわいいと思ってしまう私。
たぶん……似たものなんだろうな。
「はいはい、私もその頃にはオバサンですからね、その言葉そのまま返します」
私もそう言って笑った。
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