Cascade~想いの代償~

神山 備

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告白

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 龍太郎はやはり自殺だった。それも自分が手を貸したせいで……そう男泣きにくれる健史に、
「あなたのせいじゃないですよ」
隼人が見かねてそう言う。だが、
「でも、本当になんでセカンドオピニオンを受けなかったんでしょうね。子種の数なんて、メンタルや食事で結構変わるものなのに」
続けてそう言った隼人の言葉に、
「お前、それが分かってたんなら、なんで俺にあんな計画を勧めた!」
健史が思わずそう言って咬みつくと、
「だって、子供ができないって言えば、普通無精子症を想像するじゃないですか。僕だって、結城さんに1%でも可能性があるって分かってたら、ムリに勧めたりはしませんでしたよ」
隼人もそう言って口を尖らせる。
「にしたって、死ぬことはないですよね。いろいろ抱えているものは大きいかったのかも知れないですけど、甘いですよ。所詮、あなたが言う『お坊ちゃん』だったんですよ」
そして、首をすくめてそう続ける隼人に、
「隼人、お前に龍太郎の何が解るってんだ!」
健史はそう怒鳴って隼人を睨んだ。隼人にすれば健史を悪者にしたくないのかもしれないが、この言い種はいただけない。健史が龍太郎をお坊ちゃんと呼ぶのは、優しい彼がそのままでいてほしいという、健史なりの龍太郎への愛情の現れで、決して彼を貶しているのではないのだ。だが、
「ええ、解りませんね。確かに道はまちがったのかも知れないです。だったら、その現実を受け止めて歯を食いしばってでも生きればいいじゃないですか。
誰にだっていろんなことがあるんです。僕だって死にたくなるようなこともありましたよ。でも、ちゃんと生きてる」
それに対して隼人は吐き捨てるようにそう言った後、自分の失言を感じたのか、ハッと口を押さえた。
「おまえこそ大企業の御曹司、なのに学生時代に起業したという理由で跡を継がなかったクセに。そんなおまえにどうして死にたくなるようなことがあるってんだ」
だが、健史はそれをスルーして、鼻を鳴らしながら隼人にそう返す。すると隼人は、
「まだ、右も左も解らない中学生が男を無理やり教えられてでもですか?」
と言ってふくれっ面を健史の顔の前に突きつける。
「えっ」
その衝撃の発言に健史が驚いているのを後目に、隼人は尚も続けた。
「僕は中学2年の時に、3人の男に輪姦まわされたんです。
そりゃ僕はゲイですよ。その当時、既にその自覚だってありました。
だけど、初めてを複数の男に前も後も犯される恐怖があなたに解りますか。しかも僕はその時まだ10代です」
自分もその隼人に襲われたクチだが、そのとき既に自分は彼に惚れていたし、二十歳はとうに超えていた。行為そのものは猟奇的だったが、それは彼が自分をつなぎ止めたいと必死になっていたことの現れだと思ったからトラウマにもならなかった。
「そして、そこから助けてくれたのが、正輝伯父さんだったんです」
だから、隼人はあんなに正輝を慕っていたのか。自分が興した仕事をなげうってまで政治の世界に飛び込んだのは、そういうことだったのかと、健史は得心する。ただ、その伯父の話をする眼はぞくりとするほど冷たいのが気になる。そして……
「でも、それが正輝伯父さんの手だったんです。男たちは実は、彼が雇った者だったんですよ。
僕がそれを知ったのは、彼に骨までしゃぶられた後でした。
だから、僕は誓ったんです。僕も僕の全てを奪った彼の全てを奪ってやるって」
続いて隼人の口をついて出てきたのは、なんと伯父の裏切りと復讐の言葉。
「まさか!」
「いえ、本当の話ですよ」
「それで、せっかく立ち上げた仕事を辞めてまで政策担当秘書になったっていうのか」
健史が隼人にそう尋ねると、
「ええ、そうですよ。形だけだった正輝伯父さん夫婦には子供なんていませんからね。彼のお気に入りにさえなっていれば、彼に何かあった時、担ぎ出されるのは傍系の僕になる確率が高い。もちろん出そうな杭寝取られそうな相手は早い目に打っておきましたけどね」
隼人は口角を上げてそう答える。まるで、伯父が早死にするのを知っていたかのような言い種だ。
「おまえ……まさか……」
健史は若干引き気味にそう投げかけると、
「まさか。正輝伯父さんを殺したりなんかしませんよ」
隼人は頭を振りながら、そう即答して、
「でも、あの人は長生きできないんじゃないかと思ってました。
だって、あの人僕がどんなに言ったってコンドームさせませんでしたからね。確かに生で中出しする方がこっちだって気持ちいいですけどね。
はっきり言って他人の精液なんて異物でしかない。女性のようにちゃんとした受け皿があるのならともかく、男性はただの穴ですからね。そこに再三再四異物を取り込むんです。身体に負担にならない訳ないですよ。しかも酒は飲むタバコは止めない、政治家なんて時間があってないような仕事を続ける。で、予想通りの悪性腫瘍。
僕に言わせれば、自業自得です」
と、笑顔でそう付け加えた。『未必の故意』という言葉が健史の頭を過ぎる。隼人はある程度こうなることを予想して、敢えて伯父の暴走を本気で止めてこなかったのではないだろうか。もちろん、100%悪性腫瘍ができるとは限らないが、体に良くないことだらけの政治家の生活とそれが加われば、かなりの確率で罹患する、隼人はそう踏んだのだ。ある意味、気の長い『完全犯罪』と言えるだろう。隼人らしいやり方だとも言える。

 だが健史はそこまで考えて、ひとつの憶測にたどり着き、わなわなと震え始めた。
(これが諏訪への復讐なのなら……)
「どうしたんですか?」
拳を握りしめ、急に黙り込んでしまった健史に、隼人が心配気に声をかけてその手を取ろうとしたが、
「触るな!」
健史は隼人の手を払いのけると、
「お前にとってどうせ俺も復讐の道具だったんだろ!!」
と怒鳴ったのだった。
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