Cascade~想いの代償~

神山 備

文字の大きさ
28 / 31

訣別

しおりを挟む
 健史は隼人が諏訪正輝への復讐のために政治家を目指したと聞いて、ショックを受けながらも納得もしていた。初体験のアレは独占欲の現れと言うには、ちと猟奇的すぎた。隼人は、自分にされたのと同じことを『諏訪家の息子』に味合わせるために自分に近づいたのだ、そう考えれば全てのつじつまが合う。
「大体、父親も知らない俺の存在をどうしてお前が知っていたのか。そこからおかしい」
「ああ、それね。正輝伯父さんから聞いたんです。正治伯父さんにもう一人子供がいたのは知ってたんですが、亡くなってると思ってたんです。でもその話をしたら……」

 正輝と正治の後継者の話になった時、正輝は、正治にはもう一人子供がいると言い出した。
「亡くなられたんですよね」
「いや、死んではいないよ。正治は知らないがな。母親と一緒にこの東京生きている」
と言ったというのだ。隼人はすぐにその子-つまりは健史-を大学まで見に行ったのだという。

 また、龍太郎との密室の会話を知っていたのも、当時の健史のマンションの電話に盗聴器をしかけてあったという、まことにお粗末なオチだった。

 健史は、開けた部屋のドアを掴みながら、
「そうか、諏訪の子を手玉にとって飼い殺しにするのはさぞ小気味よかったろうよ」
と吐き捨てるように言った。
「違います。飼い殺しだなんて、そんなこと思ったことはありません」
すると、隼人は泣きそうな顔でそれを否定する。
「ふん、俺が諏訪の次男の子供だと知ってて近づいたクセに」
健史はそれをちらっと見てそう鼻を鳴らした。
「た、確かにあなたに最初近づいたのはそういう理由ですけど……」
隼人も渋々そう答える。
「ほら、やっぱりな」
「でもあなたは正治叔父さんの子。正治叔父さんには恨みはないですから。
ただ……諏訪と関わりを絶っているあなた方がどんな暮らしをしているのか知りたかっただけです」
そしてそう必死に弁明する隼人に、
「母子家庭だからさぞかし、貧乏で惨めな暮らしをしてるだろってか? そりゃ、社長の息子のお前から見りゃ、俺たち母子の暮らしなんて赤貧だったろうよ。けどよ、俺はお袋との暮らしを惨めだなんて思ったことは一度もねぇ。
それにな、俺を見たかったって? 俺はパンダやコアラじゃねぇってんだ」
健史は隼人の所に戻って、胸座を掴みながらそういった。
「誰もそんなこと、言ってないじゃないじゃないですか。
それに、会ってすぐ僕はあなたが好きになりました。一緒に居てほしいと言ったのは、本当にそう思ったからです。断じてウソはありません」
そして持ち上げられている首を振りながらそう主張する隼人に、
「信じられねぇな」
健史は冷たくそう言い放つ。
「健史!」
「信じられる訳ゃねぇだろ。あんな風に龍太郎が死んで……お前のそんな話を聞かされたら……」
そう言いながら健史は、隼人にかけた手を乱暴に離すと、横のリビングの壁に拳を食らわす。
「でも、僕は結城さんを自殺に追い込む気なんて全然……」
おろおろと、それでも取り繕おうとする隼人に、
「でももへちまもねぇ! もう何聞いても信用できる訳ゃねぇだろうが……俺は最初から本気で……本気で惚れてたんだぞ、おま……」
そう怒鳴った健史の声が涙で途切れる。その様子に思わず隼人も、
「すいません……」
と謝ってしまった。
「もういい」
「健史……」
「もう良いってんだよ! お前に都合の良い御託なんてもうたくさんだってんだよ!!」
健史はもう一度壁に拳を食らわすと、
「待ってください!!」
と制止する隼人の言葉も聞かずに夜の街へと飛び出して行った。
 
 出て行った健史が隼人との家に戻ったのは、翌日の昼。
「部屋、決めてきた。明日出て行くわ」
開口一番、健史は隼人にそう言った。
「健史、何もそこまでしなくても」
それにそう返した隼人だったが、
「今までみたいに一日中顔を付きあわせてんのは、正直キツい。
心配するな、仕事は辞めねぇから。その代わりといっちゃなんだが、しばらくでも良いから俺に一人になれる時間をくれ」
健史にそこまで言われてしまうと、もう頷く他なかったようだ。だが、
「気持ちが落ち着いたら帰ってきてくださいよ」
と尚も縋る隼人に、
「ああ、解った」
と返事したものの、たぶん二度とここに戻ることはないだろうと健史は思った。
 一度できてしまった綻びは、確かに高等技術を駆使すれば表面上は全くの元通りにできるが、それは表面上の事であって、裏側は違う。それと同じ事、人の心にできた綻びも100%元にもどることはないのだ。

 それから健史はてきぱきと自分個人の物を片づけ始めた。元々物に執着する性格でもないし、この家の家具の全ては隼人が買い求めたものだ。健史だけの持ち物は体格が違うので、共用できない衣類と、パソコンぐらいのものだ。片づけは夜までに終了してしまった。
「じゃぁ、また明日来るわ」
 荷物を持って家を出ようとした健史に、
「えっ、どこに行くんですか。まだあなたの家はここでしょ」
隼人がそう言って引き留める。
「そうだけどよ、今更一緒に寝るのはな」
それに対して、健史はそう言ってベッドを指さす。今まで夫婦のような生活をしてきたのだ。ベッドは大きいがひとつしかない。その真ん中に境界線でも設けて不可侵条約を要求するのも大人げない話だ。
「隼人、これ以上お前を嫌いにさせないでくれ」
健史はそう言って、玄関を目指す。
 そう、同じベッドで絡んでしまえば、その場は収まるかも知れないが、そのなし崩しのツケはこの関係を根本から崩壊させる。それだけはどうしてもしたくない。
「解りました。じゃぁ……事務所で会いましょう」
隼人もそう言って唇をかみしめると、健史に背中を向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この胸の高鳴りは・・・

暁エネル
BL
電車に乗りいつも通り大学へと向かう途中 気になる人と出会う男性なのか女性なのかわからないまま 電車を降りその人をなぜか追いかけてしまった 初めての出来事に驚き その人に声をかけ自分のした事に 優しく笑うその人に今まで経験した事のない感情が・・・

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

出来損ないの花嫁は湯の神と熱い恋をする

舞々
BL
凪が生まれ育った湯滝村は、温泉地として栄えた地域だ。凪は湯滝村で一番老舗とされている温泉宿、「椿屋」の一人息子。幼い頃から両親の手伝いをして、椿屋を支えている。そんな湯滝村にある湯花神社には、湯の神「湯玄」が祀られ、村人たちから信仰されてきた。 湯滝村には湯玄に花嫁を捧げるという風習ある。湯玄は花嫁から生気を貰い、湯滝村に温泉をもたらすのだ。凪は自ら志願し、花嫁となって湯滝神社へと出向いたが「子供には用がない」と追い返されてしまった。村に戻った凪は「出来損ないの花嫁」と村人たちから後ろ指をさされ、次第に湯玄を恨むようになる。 凪が十七歳になり、美しい青年へと成長した頃、湯玄より「もう一度凪を花嫁として捧げよ」という申し渡しがあった。しかし凪は、湯玄からの申し渡しを受け入れることができずにいる。そんな凪に痺れを切らした湯玄は、椿屋に押しかけてきてしまったのだった。 湯玄が椿屋に来てからというもの、貧乏神、アカシャグマ、商売繁盛の神に五穀豊穣の神……色々な神が椿屋を訪れるようになる。椿屋を訪れる神々は実に個性豊かで、椿屋は次第に以前のような活気を取り戻していく。 はじめのうちは突然椿屋にやってきた湯玄に反発していた凪。しかし、強引に迫ってくるだけではなく、自分を溺愛してくる湯玄に少しずつ心を許し、二人の距離は次第に縮まっていく。 出来損ないの花嫁凪と、温泉の神湯玄。そして八百万の神々が送る温泉宿物語。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

夢の続きの話をしよう

木原あざみ
BL
歯止めのきかなくなる前に離れようと思った。 隣になんていたくないと思った。 ** サッカー選手×大学生。すれ違い過多の両方向片思いなお話です。他サイトにて完結済みの作品を転載しています。本編総文字数25万字強。 表紙は同人誌にした際に木久劇美和さまに描いていただいたものを使用しています(※こちらに載せている本文は同人誌用に改稿する前のものになります)。

処理中です...