道の先には……(僕と先輩の異世界とりかえばや物語)

神山 備

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謁見の間

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 城に入った僕たちにまるで卒業式みたいに両側に人の垣ができる。卒業式と違うのは彼らのほぼ全員が男性で、拍手の代わりに臣下の礼をとっている所だろう。
 人の波を進んで、広い部屋(謁見の間)に入ると、僕はやっと床に降ろしてもらえた。そしたら、マシューがさりげなく、僕に脇(肩じゃないのが本当に悲しいけど)貸してくれた。王様に謁見するのに座ったりはできないもんね。
 すると、王様が謁見の間につく前に、一人の女性が入ってきた。彼女はまっすぐ先輩のところに来て、
【コータル様ご無事で何よりです。本当にわたくし、心配いたしました。良かった】
と言った。王子様の名前ってコータルなの? 僕はびっくりする反面、マシューが幸太郎という名前をコータルと言ったことに納得した。こっちではコータルという名前が結構あるのかもしれない。
 だけど、その女性を見てまたびっくりする。
「か、薫!」
先輩が思わず素っ頓狂な声を上げた。だって、そこにいたのは総務の谷山先輩のそっくりさんだったからだ。
 谷山先輩というのは、総務の女子社員で、先輩と売り上げの伝票のことなんかでつば迫り合い繰り返している、先輩とは犬猿の仲って感じの人だ。確か、谷山先輩のお祖母ちゃんがイギリス人で、どことなく日本人離れした顔(先輩はそれを『人間離れした顔』なんて茶化すけど)だから、この外人っぽい異世界集団にいても、僕らよりもっと違和感ないんだけれども。
 そのとき、谷山先輩もどきの体が傾いだ。先輩がとっさに彼女の肩を抱いて支える。
【フローリア姫様、大丈夫ですか】
それを見てお付きの侍女が慌てて彼女に近づいたが、先輩はそれをやんわりと制して、そのまま彼女を抱いたままでいた。そうか、谷山先輩もどきが、ガッシュタルトからきたフローリア姫なんだ。状況から考えると彼女はコータル王子の婚約者みたいだから、ふらつく婚約者をさっさと侍女に預けちゃうのはまずいもんね。
【姫様は殿下が消息を絶たれてからほとんど眠っておられませんでしたから】
侍女がそう補足する。
【だって、わたくしコータル様ともう会えなくなってしまうのではないかと不安で……】
【もう心配しなくて良い。私はこうして無事だ】
それを聞いた先輩は、そう言って彼女の頭を撫で始めた。そんな先輩の顔を横目で見ると、先輩はものすごく照れくさそうで嬉しそうな顔をしている。その顔はとても演技だとは思えない。もしかして先輩、本当は谷山先輩のこと好きだったの? いつもケンカばかりしているけど、よくよく考えてみればじゃれあっていたような……
「そっかぁ」
僕がぷっと吹き出してそう言うと、
「宮本、何を変な妄想してる」
と、先輩は横目で僕をにらんだ。僕は、
「何にも。あ、お姫様の手前、あまり日本語でしゃべらない方が良いですよ」
と返した。
 そのことで改めて僕の存在を思い出したみたいの(ホント、2人の世界だったもんねぇ)それからお姫様は、
【セルディオ卿も、今度は誠にご苦労さまでした。あら、そちらの方は……】
とマシューを覗き込む。手紙を届けなきゃならないご本人登場で、しかもかなりの美人だから緊張しているのかもしれないけど、マシューは目を泳がせて明後日の方向を見る。
【ほらマシュー、ガッシュタルトからの手紙渡さなきゃ。本人が出てきたからって固まってどうすんのさ】
貸して貰っている脇を突っつきながら、僕はそう言った。日本語が通じるんだったら、彼の名誉のために日本語で囁いてあげたい位だ。
【手紙ですか? お父様かお母様に何か?】
僕の発言を聞いてフローリア姫がものすごく不安そうな顔になる。そりゃそうだろう、婚約者がやっと戻ってきたと思ったら、今度は親が……なんてことになれば、マジで倒れるかもしれない。でも、マシューは手紙を取り出すどころか、ますます明後日の方を向く。
 それを見たお姫様は、何かを気づいた顔になり、
【まぁあなた、なんて格甲をしているの? 元に戻りなさい!】
と、マシューに向かって一喝したのだった。

 マシュー! 君ってば何? 実はラスボスだったとか言わないでよね。 
 フローリア姫に一喝されたマシューは唇をかみしめて立ち尽くしていたが、姫様が
【エリーサ! 分かっているのよ】
と言うと、マシューははぁっと大きなため息を吐いた後、それこそしゅるしゅるという擬音が聞こえてきそうな勢いで、どんどんと縮んでいき、あっと言う間に子供の姿になった。それは、僕がガザの実を初めて食べたときに見たあの少女だった。僕がその姿を一瞬でも見破れたのは、ガザ実を食べることで、一時的に魔力が上がったからだと後で聞いた。でも、僕は経験値が限りなくゼロに近い、だから一瞬しか見えなかったってこと。
 それに、日本語と違って英語は言葉尻で性別を特定するのは難しいし、なにより僕にとっては外国語だからマシューの体格で低音の声音で話されたら、僕の頭は無意識のうちにそれを男言葉として認識するのは当然で、だから、僕は一瞬魔法の解けた姿を見ても、マシューが本当は女の子だったなんて微塵も思わなかったのだ。
【お姉ちゃま、なんで分かっちゃったの?】
エリーサちゃんは、フローリア姫にふくれっつらでそう尋ねた。
【分からない訳がないでしょ、あなたが家出したってことはとっくにソルグが知らせてきてるし。あなたがお城を出て、向かうとしたら、私の所しかないだろうって、おじいさまもね】
【そう、バレてたの……それにしてもあのバカ烏、速すぎるよ】
フローリア姫の答えに、エリーサちゃんが舌打ちをする。
【あら、あなたが遅すぎるのよ。大体、空を突っ切って飛んでくる烏に、徒歩のあなたが勝てるわけないじゃない。途中からは、コータル様たちの馬にでも乗せてもらえたの? 先触れの者からは、あなたたちが歩いていたと聞いたけれど】
 ソルグというのは、伝書鳩みたいなもんなんだろうな。ただ、烏が届けるのは悪い知らせしかない気ががするけれど。こっちでは烏は不吉な鳥じゃないんだろうな。
 それはともかく、この世界の魔法使いが箒に乗って空が飛べるかどうか僕は知らない。あの魔道書にも、空を飛ぶ項目はなかったし、飛ぶ魔法自体存在しない可能性が高い。
 と言うことは、この幼い少女はなりを大人に変えていたとしても、たった一人、車で何時間もかかる道程を行こうとしていたってことだ。
 パシンッ、次の瞬間、広い謁見の間に平手打ちをする音が響く。いや、正確に言えば響かせる。僕が、エリーサちゃんの頬を打ったのだ。
「なっ、宮本!」
【ビク! 】
フローリア姫をお姉ちゃまと呼ぶのだから、エリーサちゃんは間違いなく隣国のお姫様。国際問題に発展しかねないその状況に、周りは一気に青ざめた。だけど、僕は怯まずに、
【エリーサ様、あなたは何という無茶をなさるんですか。魔法で大人のフリをしたからと言って、それはあくまでもフリでしかないんです。あのときもたまたま殿下と私が通りかかったからよかったものの、そうでなかったらどうなっていたことでしょう。そうなれば、ガッシュタルトの陛下やお后様はもとより、国中の者が悲しむ。そういうことは考えなかったんですか!】
と言った。
【だって……】
【だってじゃないです。知り合って三日と経たないこの僕が、それを知ったらこんなに苦しいんですよ】
【ビク……】
【本当に何もなくて良かった】
僕はそう言いながらエリーサちゃんの頬を撫でた。すると、エリーサちゃんは泣きながら僕にしがみついてくる。やっとこで立っている僕はちょっとよろけたけど、何とか踏ん張って、彼女を抱きしめた。その様子に、安堵のため息がそこかしこからもれてくる。
【お、おっほん、そろそろ陛下が参られます。お控えください】
 その時、奥の方から出てきた人が僕たちをちらりと横目で見てそう言った。僕は慌ててエリーサちゃんの身体を離し、臣下の礼をとって、王様を待った。 
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