道の先には……(僕と先輩の異世界とりかえばや物語)

神山 備

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時限爆弾を背負った脱出作戦

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 後に残されたのは、僕と先輩から中司さんを預かった谷山先輩。谷山先輩は僕に、
「ねぇ宮本君、急いで私の席から膝掛けと財布取ってきてくれる。部長には私が休憩させても体調が戻らないから、連れて帰りますって言って。私、まさかこんなことになってるって思わなかったから、良くなったら戻りますって言ってきちゃったから」
と頼んだ。
「膝掛けと財布……ですか?」
「うん。鞄はロッカーにあるんだけど、肝心の財布が私の席の長い引き出しに入ったままなの。それに、膝掛けは椅子の上にちゃんと乗ってるから。
この子、こんなごわごわしたスーツにくるまったままなんてかわいそう。それに、私が男物のスーツを持っているのも、宮本君が2着抱えてるのもどっちも変だわ。私はこの子を連れてロッカールームに向かうわ」
「そんなことして見つかったらどうするんですか。中司さんは魔法で寝てるから起きないでしょうし、とりあえず中司さんをこの部屋に残して谷山先輩だけ……」
と言いかけた僕に谷山先輩は
「ダメよ、鮎川たちが交渉を終わって外に出たんだから、ここには直に誰かが片づけに来るわ。それに、ロッカールームに行けさえすれば大丈夫よ。宮本君もそこに私の私物を持って来て」
ぴしゃっとそう言い、じゃぁあまり時間はないからと、僕を置いてさっさとロッカールームに向った。もうこうなれば、彼女がその道中社内の誰にも会わないことを祈るばかりだ。僕もあわてて総務に向かう。そして、谷山先輩に言われた通りに上司の門田さんに伝える。
「そうか、やっぱりな。実は薫姫、最近あんまり調子良くなさそうなんで、内心心配してたんだよ。ちょこちょこ吐くのを堪えてるようだったしな。
俺から会長補佐にチクるのもねぇ」
薫姫はなんか理由付けて辞めさせられるって、戦々恐々としてるとこあるからなと、門田さんはそれを聞いて苦笑した。谷山先輩、このことがなくても体調良くなかったんだ。もしかして、最初に見たとき顔が蒼かったのも、驚いていただけじゃなかったのかも。
 あ、ちなみに会長補佐というのは先輩のこと。今、会長は奥さんの実家にいるから。社長は小説の仕事が忙しいし、実質今から社長みたいなモノなんだよね。でも、会長補佐って、なんか苦肉のネーミングだと思わない?
 そんなだから、先輩の方はもうすぐにでも結婚したいと思っているみたい。でも、谷山先輩の方がまだ仕事をしていたいと渋っていて、結局あれから1年以上も経つって言うのに、この二人はまだ結婚していないのだ。
「薫姫に、あしたは週末だから気にしないでゆっくり休めって言っといてくれ」
僕はそう言う門田さんに再度頭を下げてロッカールームに向かった。
 ロッカールームのドアをノックすると、中から谷山先輩の
「入って」
と言う声がした。でも当然だけど、そのロッカールームは女性用。『入れない』僕がそう思って逡巡していると、
「早く入って。そこに立っているのを見られる方がやばいから」
と谷山先輩に言われて、慌ててあたりを見回して中に飛び込む。すると、そこにはベビーキャリーが用意されていた。スーパーの買い物かごに被せて使うタイプのマイバッグの中に、書類を入れるトレーを仕込んだ苦肉の策だけど。でも瞬時にこんなこと、よく思いついたもんだ。
「宮本君、そこに膝掛けを敷いて」
谷山先輩は、トレーの中に膝掛けを敷くように言い、僕がそうすると、そこに中司さんを
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
と言いながら寝かせて、それを僕に託した。
「さぁ、本当に時間がないわ、行きましょう。重いけど、絶対に落とさないでね」
と、自分は別の紙袋に彼の着ていたもの一式を詰め込んでロッカールームを出る。
 僕は『命の重み』をずっしりと肩に食い込ませて彼女の後に続いた。



 歩くほどにしっかりと食い込んでくる、だからといって、荷物みたくその辺に放り出せない。それはまさに『命の重み』そして、僕のしたことの『責任の重み』に他ならない。とは言え、僕も自分が魔法が使えるとちゃんとわかっていたら、迂闊にこんな大魔法なんて詠唱しなかったに違いない。
 違う、知らなくて良かったのかもしれない。もし知っていたら、僕は時々見ているオラトリオの夢の中でセルディオさんが使っている大魔法をきっちりチェックして、その効果も考えないで、もっと取り返しのつかない魔法を詠唱していたかも。
 どっちにしてもこの今が現実なのだから、とりあえず急ごう。中司さんにとっても、この時期にこんな化繊のテントみたいな所に長時間入れられているのはイヤだろうし。
 そう思いながら会社の廊下を歩いていると、後少しで通用門を出ると言うところで、谷山先輩が立ち止まる。僕が慌てて彼女の顔をのぞき込んだとき、
「おう、薫ちゃんどうした?」
と、廊下横のブースから声がした。守衛の村井さんだ。彼は僕らの環境が一瞬にして変わっても態度をぜんぜん変えなかった人の一人。彼は社員みんなの良きおじさんなのだ。
「うん、何でもないです」
すると、そう言いながら谷山先輩は僕に目配せした。ああ、一応伏線引いておく訳ね。
「何でもないですじゃないですよ。谷山先輩、すぐに我慢しちゃうんだから」
だから、僕は彼女に合わせて一芝居打ってことさらに谷山先輩の体調不良をアピールしてから、
「じゃぁ僕、谷山先輩を送ってきます」
と言って彼女の肩を抱く。
「そう言ゃ、薫ちゃん顔色良くないな。んじゃ、お大事にな。宮本君頼むな」
村井さんはすっかり真に受けてそう言って手を振ってくれた。
「ありがとう、じゃぁお先に失礼します」
「失礼します、村井さん」
僕たちはそう言ってやっとこ会社を出た。そこで改めて谷山先輩の顔を見る。外の日差しに照らされたその顔はいつもより白い。
 もしかしたら、谷山先輩は本当に気分が悪くて立ち止まったのかも。

 それから車にたどり着いた僕は、まず後部座席のドアを開けて中司さんを降ろした。そして、
「谷山先輩、助手席だと丸見えだから、後ろに乗ってください」
と言った。
「えっ? お店わからないでしょ、私が運転するわ」
「何言ってるんですか、送られる人が運転したら、シャレにならないでしょ? まだ、100%会社を出た訳じゃないんですよ」
「あ、そうね。じゃぁ、鍵貸してくれる?」
谷山先輩はそう返して、僕から車の鍵を受け取った後、助手席に座り、財布から何かを取り出すとエンジンをかけて、ナビをいじくり始める。
「これで、OK。宮本君、ここに行って」
と言うと、僕が中司さんを降ろした方とは反対のドアから車に乗り込み、中司さんを簡易キャリーから出し、抱き上げる。それを見届けて僕は、ドアを閉めて運転席に乗り込んだ。
 僕は『ナビ様の言う通り』に走り出した。谷山先輩が打ち込んだ目的地は『赤ちゃんキャッスル〇〇店』赤ちゃん洋品の大型専門店だ。
「谷山先輩、何でこんな店知ってるんですか?」
(会員証まで持ってるみたいだし)
「私この店の会員なのよ。あ、何か変なこと考えてない? 絵梨紗やデビ君の物を買うのによ」
その質問に、谷山先輩は少々ふくれっ面でそう答えた。クラウディアさんに日本語の読み書きは荷が重いし、でも絵梨紗ちゃんはまだ会員登録出来る歳じゃないから、谷山先輩がサポートしているという事だった。でも、何でそこで怒らなきゃならないんだろ。
 そして、ナビ子さんが美しい声で
「目標が近づきました。これでナビを終了します」
と言った直後だった。
「ふぐっ、ぐすっ、おあっ、おんぎゃぁ~!!」
中司さんがけたたましい声で泣き始めたのだ。

-た、タイムアップだ……-





 



 
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