道の先には……(僕と先輩の異世界とりかえばや物語)

神山 備

文字の大きさ
61 / 65

トールの説教

しおりを挟む
「何で、何で別れなきゃなんないのよ!!」
「だってお前怒ってんだろ」
「そりゃ、多少は……でも、でも……」
だからって別れるなんて言ってないじゃない。
「泣くなよ、薫。言い過ぎた、謝る」
ボロ泣きする私の髪を撫でながら、鮎川はそう言っておろおろと謝った。
 そうね、トール。私今まで、この鮎川の優しさに甘えきっていたのかもしれない。

-*-*-*-*-*-*-


「薫様は鮎川様の優しさに少々甘えすぎておいでです」
 彰幸くんの個展の会場で、トールは鮎川と宮本君が作品に見入っているのを確認して、私だけを少し離れてたところに引き離すと眉に皺を寄せてそう言った。
「確かに薫様は仕事にやりがいを感じておられるのかもしれませんが、それはそもそもご婚儀を延々と先延ばしにしてまでせねばならないことでしょうか」
「別にあなたには関係ないでしょ、トール」
さらに続く小姑みたいな言種に私はそう言って鼻を鳴らした。
「いえ、関係はあります。今こちらで薫様が無理をなさってもしものことがあれば、オラトリオの方も無事では済みません。
そんなことになれば、殿下や妃殿下はもちろん、グランディールの国全体が悲しみに沈みます」
 トールは実はパラレルワールドの住人。鮎川の話では、あっちの世界には宮本君そっくりのトールだけじゃなく、鮎川や私や絵梨紗、それから武叔父様やお祖父様のそっくりさんまでいるという。
 私のそっくりさんは王太子妃らしい。
「見たこともないパラレルワールドのために、私が何をしなくちゃならないって言うのよ! そんなのゴメン、私は私よ!!」
私はそう言って、トールから離れて奥の展示の方に向かおうとした。
 だけど、トールはそんな私の腕を掴んで、
「お子を産み育てることも立派な仕事だと存じますが。しかもこれは私ども男性には逆立ちしたってできません。ですのに、ニホンの女性たちは蔑ろにしておられる方が本当に多いのに驚きます」
なんて、一昔も二昔も前の論理でお説教を垂れる。
「そんなこと言ったって、この日本じゃ二人で働かないと生活できないのよ」
私がそう言うと、
「世間様はそうでも、鮎川様はそうではないでしょう。見習いと言えども会社の長、薫様とお子さまを養えないような薄給とは思えませんが」
と言って、反論する。
 そうよ、鮎川は正直このマスオさん状態の中、すごくがんばってると思う。私が今すぐ専業主婦になったところで別に何の問題もないと思う。
 だけど、それじゃ私の居場所は? 存在価値が何もないような気がする。バリバリ仕事をする鮎川を見ているだけの生活なんて耐えられない。社会から取り残されていくような感じがするもの。
「あなたに何が分かるって言うの、トール」
「私には薫様の心情は解りかねますが、今の事態は看過ごすことができません。臣下として私には殿下のお子さまを守る義務があります故」
睨みながらそう言った私に、トールはそう返すと私の視界が反転した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...