62 / 65
前に進もう
しおりを挟む
「もう怒ってない、怒ってないから……」
「ホントか?」
「私も、楽しみ」
涙で詰まりながらそう言うと、鮎川は何とも嬉しそうな表情をしてみせる。
そう、最初からあんまり怒ってはいない。心の準備ができてなくて焦っていただけ。でも、もう大丈夫だよ。だから、元気に生まれておいで。私はそっと自分のお腹をなでた。
「私こそ、この子を危険な目に遭わせてゴメン」
それから私がそう言うと鮎川は、
「それ、お前のせいじゃねぇだろ。大体、宮本があんな面倒なことさえ起こさなかったらよ……」
口をとがらせてそう言う。
「宮本君のことは悪く言わないで」
それに対して、私はそう返した。
宮本君があんな魔法を使わなかったら、私はトールも、その先にあるパラレルワールドも知らずにいた。そしたら、私は本当にもっと無理をして、あっちの鮎川や私を悲しませる結果になっていたかもしれない。
それに、宮本君が唱えてくれたあの魔法で、私はちょっぴりだけど自信がついたんだよ。自分だけを頼ってくれる彰教ちゃん(本当は私より5歳も年上だけど、そう呼んで良いよね)がいると、強くなれるんだってことに気づいたから。
実はね、彰教ちゃんを預かると聞いたとき、絵梨紗や英雄の面倒を看てきたんだから大丈夫だって軽く考えてたんだ。でもね、下ろすだけで泣き出したり、私にしかなつかないで絶えず目で追いかける彰教ちゃんを見て、そんなのすぐにふっとんじゃった。頼る人がいないのって、こんなに大変なのかと思った。
この彰教ちゃんを預かる(というのが妥当なのかどうかはわかんないけど)のはたった一日だったけど、自分の子供はそれがずっ続く。
『お子を産み育てるのも立派な仕事だと思いますが』
私の耳に、トールの口幅ったい忠告が今一度聞こえた。うん、とっても立派な仕事だよ。大変だけど、だからこそ片手間にはできないって思うよ。
「まぁな、あいつが中司をガキにしちまわなきゃ、こいつ助かってないかも知んないしな」
鮎川も、私の言葉に反論せずにそう答える。逆に私がその答えに首を傾げると、
「ああ、おまえがさっき倒れた時、中司の弟がお前の腹に向かって話しかけたんだ。『かなちゃんもう少しがんばってて』ってよ。それでいきなりお前を産婦人科にかつぎ込むことができたからな。あと半日処置が遅れてりゃアウトだったらしい、間一髪セーフだったんだよ」
鮎川はそう言って首を竦めた。あと半日という数字が妙に生々しい。
「そっか、彰幸くんが助けてくれたのかぁ」
「ああ、俺たちとは世界の見え方がたぶん違うんだろうな。最初は面食らったけどよ、『かなちゃん』が『奏』だって気づくまでちっと時間食っちまった」
私がつぶやくようにそう言うと、鮎川がそう返した。
実は鮎川は、結構子供好き。というか、子供と一緒になって遊んでしまうタイプ。今や2歳半になった英雄にも、お兄ちゃまではなく、『こーたろー』って呼ばれている。
だから以前男の子がほしいのかと聞いたら、鮎川は、
「絶対女の子だ。名前はそうだな、お前が薫だから、やっぱり一字で、そうだ、奏だ」
と、間髪入れずに即答したのだ。きっと奏と言う名も、そのとき思いついたんじゃない。ずっと考えてたに違いない。鮎川はそういう男だ。
「ホントか?」
「私も、楽しみ」
涙で詰まりながらそう言うと、鮎川は何とも嬉しそうな表情をしてみせる。
そう、最初からあんまり怒ってはいない。心の準備ができてなくて焦っていただけ。でも、もう大丈夫だよ。だから、元気に生まれておいで。私はそっと自分のお腹をなでた。
「私こそ、この子を危険な目に遭わせてゴメン」
それから私がそう言うと鮎川は、
「それ、お前のせいじゃねぇだろ。大体、宮本があんな面倒なことさえ起こさなかったらよ……」
口をとがらせてそう言う。
「宮本君のことは悪く言わないで」
それに対して、私はそう返した。
宮本君があんな魔法を使わなかったら、私はトールも、その先にあるパラレルワールドも知らずにいた。そしたら、私は本当にもっと無理をして、あっちの鮎川や私を悲しませる結果になっていたかもしれない。
それに、宮本君が唱えてくれたあの魔法で、私はちょっぴりだけど自信がついたんだよ。自分だけを頼ってくれる彰教ちゃん(本当は私より5歳も年上だけど、そう呼んで良いよね)がいると、強くなれるんだってことに気づいたから。
実はね、彰教ちゃんを預かると聞いたとき、絵梨紗や英雄の面倒を看てきたんだから大丈夫だって軽く考えてたんだ。でもね、下ろすだけで泣き出したり、私にしかなつかないで絶えず目で追いかける彰教ちゃんを見て、そんなのすぐにふっとんじゃった。頼る人がいないのって、こんなに大変なのかと思った。
この彰教ちゃんを預かる(というのが妥当なのかどうかはわかんないけど)のはたった一日だったけど、自分の子供はそれがずっ続く。
『お子を産み育てるのも立派な仕事だと思いますが』
私の耳に、トールの口幅ったい忠告が今一度聞こえた。うん、とっても立派な仕事だよ。大変だけど、だからこそ片手間にはできないって思うよ。
「まぁな、あいつが中司をガキにしちまわなきゃ、こいつ助かってないかも知んないしな」
鮎川も、私の言葉に反論せずにそう答える。逆に私がその答えに首を傾げると、
「ああ、おまえがさっき倒れた時、中司の弟がお前の腹に向かって話しかけたんだ。『かなちゃんもう少しがんばってて』ってよ。それでいきなりお前を産婦人科にかつぎ込むことができたからな。あと半日処置が遅れてりゃアウトだったらしい、間一髪セーフだったんだよ」
鮎川はそう言って首を竦めた。あと半日という数字が妙に生々しい。
「そっか、彰幸くんが助けてくれたのかぁ」
「ああ、俺たちとは世界の見え方がたぶん違うんだろうな。最初は面食らったけどよ、『かなちゃん』が『奏』だって気づくまでちっと時間食っちまった」
私がつぶやくようにそう言うと、鮎川がそう返した。
実は鮎川は、結構子供好き。というか、子供と一緒になって遊んでしまうタイプ。今や2歳半になった英雄にも、お兄ちゃまではなく、『こーたろー』って呼ばれている。
だから以前男の子がほしいのかと聞いたら、鮎川は、
「絶対女の子だ。名前はそうだな、お前が薫だから、やっぱり一字で、そうだ、奏だ」
と、間髪入れずに即答したのだ。きっと奏と言う名も、そのとき思いついたんじゃない。ずっと考えてたに違いない。鮎川はそういう男だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる