遠い旋律

神山 備

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遠い旋律

G9 

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「ホントに心配したんだかんね!あんた普段からオーバーワーク気味だから」
帰宅して早速、私は電話でノエに叱られた。そう思ってると思うから、私はあの時音切ったのよ。彼女はあの後、何回か心配してメールを入れて、それに応じないから着信まで入れてくれてた。

「でも、あたしに感謝しなさいね。あたしがそんなメールを送んなきゃ、その子とそういう展開になってない訳だし。」
なによ、それ。
「別に展開らしいもんなんてないじゃん。あの後、駅前に行ってお茶しただけだよ」
と言ったら、
「次に会う約束は?」
って聞かれる。
「したけど…」
「じゃぁ、充分じゃん。ねぇねぇ、で、どんな話したの?」
ノエは前のめりで私に聞いてきた。別に報告するほどのことは何もないんだけどと思いつつ、私は話し始める。


 あの後、私と彼は、駅に向かって歩き出した。大体、高校なんて運動場とかけっこう大きな土地を確保しないといけないからなのか、坂道のいっとう上とかすごくへんぴなことにあるのよね。

「へぇ、じゃぁ三輪さんって看護師なんですか」
「そう、今回ちょうど休みと重なってね。勤務が不規則だから、なかなかみんなに会えないからって出てきたんだけど、あれじゃぁね。」
さっきの音、思い出しただけで気分が悪くなりそう。
「オレはさっきも言ったように、初めて同窓会の案内が着たんで、誰かいるかなって思って来たのに、ほとんど年配の人ばっかりでがっかりきて……そこにあの音でしょ。内心最悪だぁ~って思ってました。」
彼はそう言って笑った。笑うとなお子供っぽく見えた。

「それで…さっきの音なんですけど……」
彼は自分のケータイを取り出し、彼の着信音を鳴らした。まったく同じ曲。でも…
「そう、ココだ! 三輪さん、十六分音符にしてるでしょ、コレ三連符です」
彼は一度しか聞いていない私のメール音のリズムのハネた所を指摘した。
「もう……先生みたいなこと言わないでくれる? 実は私、いつも先生に『頼むから作曲しないで楽譜どおり弾いてくれ』って言われるのよ。大体、楽譜読むの苦痛なのよね」
「楽譜読むのが面倒になる気持ちは解んなくないけど。確かに、聞いただけで音取れますもんね。でも楽譜の中に結構発見とかないですか。作者の意図とか……」
うわっ、そんなこといちいち考えて演奏してないって! 音楽はノリだよ?……違う?
「作者の意図!?坪内君将来は音楽家にでもなるつもりなの?」
「いいえ、オレなんて音楽で食べられるレベルじゃないし、それにオレ建築の仕事もしたいから、そっち方面の大学に行ってるんです」
ほーら。プロとしてやれるのは、ほんの一握り。私も音楽やらずに看護師やってるし。なら、楽しくやらなきゃ。かたっ苦しいよ。でも、
「いろいろと、才能がおありですのね…夢多き少年は」
と私が言うと、彼はちょっとむっとした表情になった。
「今、三輪さんオレをガキ扱いしたでしょ。43期だったら、オレより2歳しか違わないじゃないですか」
私は3月も最後のほうに生まれてるから、彼が早生まれでなきゃ、1歳違い。でも、男の子ってそういうとこに拘るもんなの?

 それから私たちは、駅前の喫茶店で音楽を中心にいろんな話をした。彼-高広は、大学のオケでバイオリンを弾いているという。
「だけどまた、クラシックギターなんてシブいっすね」
私の楽器がクラシックギターだと聞いて、彼はそう言った。(ん、何かそれってヤな言い方……)
「坪内君、それってオバサン扱いしてない?」
私が剥れてそう言うと、彼は舌を出して笑って言った。
「さっきのお返しです。同じ弦だし、オレあの音物悲しくて好きですよ」
-アノオトスキデスヨ-そんななんでもない一言に、私はドキンとしていた。別に私を好きだと言われた訳でもないのに。

 私たちは次の私の公休日に会おうと約束をして別れた。その説明をしたら、ノエの方が盛り上がってしまって、異様に騒ぐのでウザかった。
ウザかったけど、喜んでくれるのがなんだか嬉しい複雑な気分だった。




※タイトルのG9とは、彼らの着信音に設定している曲の最初の一音のギターコードです。演奏をされる方はお分かりだと思いますが、かなりの不協和音です。
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