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遠い旋律
一縷の望み
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明け方……再び目を覚ました高広が私を呼んだ。
「さくら……さくら……」
「高広?何、苦しいの?」
「心配すんなよ、大丈夫だ。今日はすげぇ楽だから。お前、もう帰れ」
「高弘……」
「それに、オレたちはもう別れてんだから、お前はオレの面倒看ることなんてないんだ。今日も仕事あるんだろ」
やっぱり、仕事のこと気にするんだ。
「仕事なんて……お願い、そばにいさせて……」
私は高広の手を握って言った。
「ここ、お前の病院なんだろ。聞こえたらどうすんだよ」
そしたら、高広はそう言って怒った。
「聞こえたって構わないよ」
私はそれに対して、口を尖らせてそう返した。こんな状態で仕事になんかならないもん。
「ダメだ! 今日仕事ができなくちゃ、この先だって同じだろ。辞めるっていうつもりか?」
高広の言いたいことは解かってる…でも、心はまた別なんだって…私はあいつの質問に答えることができなかった。高広は私が黙っていたら、そのまま続けた。
「オレがいまどんな状態だか分かってんだろ?お前の仕事ならこれから先オレがどうなるのかも大体想像つくんだろ?」
「止めて、そんな言い方!あきらめてしまうみたいで…すごく辛いよ」
私はあいつの顔を見ていられなくなってうつむいた。そんな私に、高広はこう返した。
「あきらめてるんじゃなくて、これは事実だろ」
そう言われて私はまた高広を見た。あいつは笑っていた。すごく穏やかな笑顔だった。
「それに、お前オレのこといつもカッコつけって言うじゃねぇか。まだ今は、こうやってしゃべれるけど、その内それもできなくなって、いよいよって時には、オレはお前の名前呼んで泣き叫ぶだけかもしんない。そんなカッコ悪いとこ、お前には見せらんない。」
「カッコなんてどうでも良いじゃない!泣き叫んだって私、あんたのこと嫌いなんかならない!」
最後まで私の名前呼んでくれるとしたら、その方が嬉しい。でも、認めたくないと思いながら結局私、最後だって認めてるのか…そう思うと悲しかった。
「ヤダよ。これがオレの最後のワガママだ、聞け」
「最後だなんて言わないで!」
そんなに最後、最後って言わないで!そんなこと聞きたくないよ!!
「それと、ここに居ると来たくなるだろうから、前の病院に戻してもらえるように手続きしてもらうつもりだから。見舞いには来るな。死んでも葬式には出て欲しくない」
「何で?何でそこまでしなくちゃならないの!」
「それがオレの愛し方だから…お前なら解ってくれるよな」
「そんなのどう解れって言うの? 解らないわよ! 解りたく……ないわよ!!」
「ゴメン、これだけは譲れない……」
高広は目を閉じて頷きながらそう言った。気持ちは絶対に変わらない、高広の顔はそう言っていた。
このまま別れてしまって、それで私は何もできないままなの?そんなのヤダ!何か私にできること…
その時、私の胸に高広の昨日の一言がよみがえってきた。
-ホントにこいつとはつながっているから-
…ホントに私たちがつながっているのなら……
「じゃぁ、これだけは約束して!もしどうしても辛くなったら私を呼んで。私、どんなとこにいてもあんたのとこに行くから……私たちはつながっているんでしょ」
すると高広の顔色が変わった。
「さくら、あん時、お前ウソ寝してたのか?!」
「ううん、ちゃんと寝てたよ。でも夢の中でテレビ見てるみたいに、高広と久美子ちゃんがしゃべってる姿が見えたの。だから……私、どこにいてもあんたのとこに行ける気がする」
そういって私は高広のケータイを見た。その様子を見た高広は、そんなとんでもない私の提案を驚いてはいたけど、呆れてはいない様子だった。そして、私が久美子ちゃんとのやり取りを本当にテレビのように見たのだと確信したのかも知れない。
「気がするってな……お前」
と言いながらも、
「じゃぁ、母さんと久美子に、そん時には電話するように言っとく。」
と答えた。
「ありがと、じゃぁ…帰るわ。待ってるから」
「来れなくても恨むなよ。それ、オレのせいじゃねぇからな」
「大丈夫、私絶対行けるから」
不思議なんだけど、私はその時、本気で絶対に行ける気がしていた。妙に自信あり気な私を見て、なんだかあいつが嬉しそうな顔をしたように思ったのは、気のせいだったんだろうか。
だから、私は涙ですぐに曇ってしまう目で高広をしっかり焼き付けて……病室を後にした。
「さくら……さくら……」
「高広?何、苦しいの?」
「心配すんなよ、大丈夫だ。今日はすげぇ楽だから。お前、もう帰れ」
「高弘……」
「それに、オレたちはもう別れてんだから、お前はオレの面倒看ることなんてないんだ。今日も仕事あるんだろ」
やっぱり、仕事のこと気にするんだ。
「仕事なんて……お願い、そばにいさせて……」
私は高広の手を握って言った。
「ここ、お前の病院なんだろ。聞こえたらどうすんだよ」
そしたら、高広はそう言って怒った。
「聞こえたって構わないよ」
私はそれに対して、口を尖らせてそう返した。こんな状態で仕事になんかならないもん。
「ダメだ! 今日仕事ができなくちゃ、この先だって同じだろ。辞めるっていうつもりか?」
高広の言いたいことは解かってる…でも、心はまた別なんだって…私はあいつの質問に答えることができなかった。高広は私が黙っていたら、そのまま続けた。
「オレがいまどんな状態だか分かってんだろ?お前の仕事ならこれから先オレがどうなるのかも大体想像つくんだろ?」
「止めて、そんな言い方!あきらめてしまうみたいで…すごく辛いよ」
私はあいつの顔を見ていられなくなってうつむいた。そんな私に、高広はこう返した。
「あきらめてるんじゃなくて、これは事実だろ」
そう言われて私はまた高広を見た。あいつは笑っていた。すごく穏やかな笑顔だった。
「それに、お前オレのこといつもカッコつけって言うじゃねぇか。まだ今は、こうやってしゃべれるけど、その内それもできなくなって、いよいよって時には、オレはお前の名前呼んで泣き叫ぶだけかもしんない。そんなカッコ悪いとこ、お前には見せらんない。」
「カッコなんてどうでも良いじゃない!泣き叫んだって私、あんたのこと嫌いなんかならない!」
最後まで私の名前呼んでくれるとしたら、その方が嬉しい。でも、認めたくないと思いながら結局私、最後だって認めてるのか…そう思うと悲しかった。
「ヤダよ。これがオレの最後のワガママだ、聞け」
「最後だなんて言わないで!」
そんなに最後、最後って言わないで!そんなこと聞きたくないよ!!
「それと、ここに居ると来たくなるだろうから、前の病院に戻してもらえるように手続きしてもらうつもりだから。見舞いには来るな。死んでも葬式には出て欲しくない」
「何で?何でそこまでしなくちゃならないの!」
「それがオレの愛し方だから…お前なら解ってくれるよな」
「そんなのどう解れって言うの? 解らないわよ! 解りたく……ないわよ!!」
「ゴメン、これだけは譲れない……」
高広は目を閉じて頷きながらそう言った。気持ちは絶対に変わらない、高広の顔はそう言っていた。
このまま別れてしまって、それで私は何もできないままなの?そんなのヤダ!何か私にできること…
その時、私の胸に高広の昨日の一言がよみがえってきた。
-ホントにこいつとはつながっているから-
…ホントに私たちがつながっているのなら……
「じゃぁ、これだけは約束して!もしどうしても辛くなったら私を呼んで。私、どんなとこにいてもあんたのとこに行くから……私たちはつながっているんでしょ」
すると高広の顔色が変わった。
「さくら、あん時、お前ウソ寝してたのか?!」
「ううん、ちゃんと寝てたよ。でも夢の中でテレビ見てるみたいに、高広と久美子ちゃんがしゃべってる姿が見えたの。だから……私、どこにいてもあんたのとこに行ける気がする」
そういって私は高広のケータイを見た。その様子を見た高広は、そんなとんでもない私の提案を驚いてはいたけど、呆れてはいない様子だった。そして、私が久美子ちゃんとのやり取りを本当にテレビのように見たのだと確信したのかも知れない。
「気がするってな……お前」
と言いながらも、
「じゃぁ、母さんと久美子に、そん時には電話するように言っとく。」
と答えた。
「ありがと、じゃぁ…帰るわ。待ってるから」
「来れなくても恨むなよ。それ、オレのせいじゃねぇからな」
「大丈夫、私絶対行けるから」
不思議なんだけど、私はその時、本気で絶対に行ける気がしていた。妙に自信あり気な私を見て、なんだかあいつが嬉しそうな顔をしたように思ったのは、気のせいだったんだろうか。
だから、私は涙ですぐに曇ってしまう目で高広をしっかり焼き付けて……病室を後にした。
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