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プロポーズ
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僕はこうして、海との結婚の承諾を全てとりつけた。
でも……本当にこれで良かったのだろうか。全ての承諾を取り付けた後になって、僕はひどく不安になった。
もし、ここで健史が思い直して戻ってきたら、どうすれば良いのだろう。
それに、海は僕と本当に縁りを戻したいと思っているのだろうか。あの状況下ではそんな事も確認できなかった。結局僕は、これ幸いにと僕の気持ちをごり押ししたに過ぎないのではないか、そう思った。
夕方、海が確実に帰っている時間を待ちわびて僕は彼女に電話を入れた。
「結城君、昨日はどうも。考えてみたら、倒れた夏海ちゃんを病院に運んでくれたのに、お礼を言ってなかったわね。ありがとう」
「いえ、僕の責任ですから。お礼なんてとんでもないです。夏海さんは?」
「今、部屋にいるわ。電話、夏海ちゃんのところに持って行くから」
海のお母さんの態度は、娘の婿として認めた途端、それまでとは明らかに違っていた。
「海、身体はどう?」
「うん、大丈夫。もう何ともないから」
後から考えると、電話だから僕がそうしたって意味はないのに、僕は自然に声を潜めていた。
「ねぇ、お義母さん、側にいるの?」
「ううん、もう行ったよ」
それにつられてか、海の声も小さくなる。
「明日、ご両親は?」
「日曜だから、家に居ると思うけど。それがどうしたの?」
いきなり彼女の両親の所在を聞いた僕に海は怪訝な声で返した。
「あの人に話したんだ、今日。こんな事態だから入籍だけでもってね。そしたら、即座にちゃんと式を挙げろと言われてさ、それで、明日妙子さん……あの人のパートナーなんだけど、その人と正式な挨拶に行きたいと思うんだ。それで、そっちの都合を聞いて欲しいと思って」
「多分大丈夫だけど……ホントに明日?」
海は軽く驚いている様子だった。こんな事態だからって事は解ってはいるけど、僕も彼女もここまで早く事が進展するとは思っていなかった。
そして僕は、一番不安に思っていた事を口にした。
「でさぁ、僕……あんなこと言って良かったのかな。海の意志なんてまるで無視して結婚話進めちゃったけど……」
「ううん、嬉しかったよ」
僕は海の返事にひとまずホッとした。
「でも、後で健史が戻ってきたら、僕はどうすればいいのかな」
「たぶん、彼はもう私の所には戻って来ないわ。龍太郎は彼がもう戻ってくるなんて思ってないんでしょ? だから結婚しようって言ってくれたんでしょ。でないとこの子を……ありがとう、助かった。ウチはたぶん、そういうの許してくれないと思うから……」
一応お義母さんは側にはもういないらしいが、海は声が洩れる事を心配してか健史の名前は出さなかった。シングルマザーにはなれないと言いたかったのだろう。海本人が希望したとしても、決して許されないと。
「だから、本当に嬉しかった。でも、龍太郎のほうはそれで良いの?」
僕の子供でもない子を宿した君を、すんなり受け入れる僕の事が海には理解できないのだろう。本当の事情を言えば良いのだろうけれど、昨日の事を考えると僕はまだ言うのは怖かった。本当のことを知ってしまったら、彼女は僕のことを憎むかもしれないと思ったからだ。だから僕はこう返した。
「病院で言った事は全部僕の本心だよ。海を失って初めて僕がどんなに海を愛していたのか痛切に解った。子供が僕の子じゃないなんてそんなの問題じゃないんだ。僕は君と一緒にいたい。この子が居てくれてこんなにとんとん拍子に話が進むんだもの、むしろ感謝してるよ。
それでね、全部お膳立てしてしまった後に言うのはすごくアンフェアだとは思うんだけど、海……僕と結婚してくれますか?」
電話の向こうで海が泣いているのが判った。
「こんな私で良いの?」
「君で良いんじゃない、君じゃないとダメなんだ」
「はい……こんな私で良かったら、喜んで……」
僕がそう言うと、海は涙で声を詰まらせながらそう返事してくれた。
でも……本当にこれで良かったのだろうか。全ての承諾を取り付けた後になって、僕はひどく不安になった。
もし、ここで健史が思い直して戻ってきたら、どうすれば良いのだろう。
それに、海は僕と本当に縁りを戻したいと思っているのだろうか。あの状況下ではそんな事も確認できなかった。結局僕は、これ幸いにと僕の気持ちをごり押ししたに過ぎないのではないか、そう思った。
夕方、海が確実に帰っている時間を待ちわびて僕は彼女に電話を入れた。
「結城君、昨日はどうも。考えてみたら、倒れた夏海ちゃんを病院に運んでくれたのに、お礼を言ってなかったわね。ありがとう」
「いえ、僕の責任ですから。お礼なんてとんでもないです。夏海さんは?」
「今、部屋にいるわ。電話、夏海ちゃんのところに持って行くから」
海のお母さんの態度は、娘の婿として認めた途端、それまでとは明らかに違っていた。
「海、身体はどう?」
「うん、大丈夫。もう何ともないから」
後から考えると、電話だから僕がそうしたって意味はないのに、僕は自然に声を潜めていた。
「ねぇ、お義母さん、側にいるの?」
「ううん、もう行ったよ」
それにつられてか、海の声も小さくなる。
「明日、ご両親は?」
「日曜だから、家に居ると思うけど。それがどうしたの?」
いきなり彼女の両親の所在を聞いた僕に海は怪訝な声で返した。
「あの人に話したんだ、今日。こんな事態だから入籍だけでもってね。そしたら、即座にちゃんと式を挙げろと言われてさ、それで、明日妙子さん……あの人のパートナーなんだけど、その人と正式な挨拶に行きたいと思うんだ。それで、そっちの都合を聞いて欲しいと思って」
「多分大丈夫だけど……ホントに明日?」
海は軽く驚いている様子だった。こんな事態だからって事は解ってはいるけど、僕も彼女もここまで早く事が進展するとは思っていなかった。
そして僕は、一番不安に思っていた事を口にした。
「でさぁ、僕……あんなこと言って良かったのかな。海の意志なんてまるで無視して結婚話進めちゃったけど……」
「ううん、嬉しかったよ」
僕は海の返事にひとまずホッとした。
「でも、後で健史が戻ってきたら、僕はどうすればいいのかな」
「たぶん、彼はもう私の所には戻って来ないわ。龍太郎は彼がもう戻ってくるなんて思ってないんでしょ? だから結婚しようって言ってくれたんでしょ。でないとこの子を……ありがとう、助かった。ウチはたぶん、そういうの許してくれないと思うから……」
一応お義母さんは側にはもういないらしいが、海は声が洩れる事を心配してか健史の名前は出さなかった。シングルマザーにはなれないと言いたかったのだろう。海本人が希望したとしても、決して許されないと。
「だから、本当に嬉しかった。でも、龍太郎のほうはそれで良いの?」
僕の子供でもない子を宿した君を、すんなり受け入れる僕の事が海には理解できないのだろう。本当の事情を言えば良いのだろうけれど、昨日の事を考えると僕はまだ言うのは怖かった。本当のことを知ってしまったら、彼女は僕のことを憎むかもしれないと思ったからだ。だから僕はこう返した。
「病院で言った事は全部僕の本心だよ。海を失って初めて僕がどんなに海を愛していたのか痛切に解った。子供が僕の子じゃないなんてそんなの問題じゃないんだ。僕は君と一緒にいたい。この子が居てくれてこんなにとんとん拍子に話が進むんだもの、むしろ感謝してるよ。
それでね、全部お膳立てしてしまった後に言うのはすごくアンフェアだとは思うんだけど、海……僕と結婚してくれますか?」
電話の向こうで海が泣いているのが判った。
「こんな私で良いの?」
「君で良いんじゃない、君じゃないとダメなんだ」
「はい……こんな私で良かったら、喜んで……」
僕がそう言うと、海は涙で声を詰まらせながらそう返事してくれた。
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