Cheeze Scramble

神山 備

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ここはどこ、あんたは誰?

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(ダメや。あー、あたしもう死ぬんやろなぁ)
と、正直思た。
 だけどすごい勢いで落下したあたしの体は、なんでか一瞬浮き上がってから着地した。せやから、あたしが予想していた痛みなんか全然のうて、その代わりに、
「グエっ!」
っていう蛙を踏みつぶしたような音が聞こえた。
 よくよく見ると、あたしは目も髪も黒いんやけど日本人離れした顔のにーちゃんに抱き抱えられてた。いや、それを言うなら、上から降ってきたあたしをにーちゃんが全身で受け止めたていうのが正解やろう。女性とは言え、二階から降ってきたらめっちゃすごい衝撃やったんちゃうんかな。なにげに涙目やし、さっき『グエっ』って聞こえたし。肋骨とか折れてなかったらええけど。とにかくお礼は言わなあかん。けども、
「あ、ありがとう。にーちゃんが下におってくれたお陰で、ケガせんで済んだみたい。せやけど、にーちゃんの方が大丈夫? あたしそんなに軽ないから
それにしても、なんなんこのカラオケボックス! いきなり床が抜けるなんてあり得へんやろ」
と、あたしが言うのとほぼ同時ににーちゃんが、
「○▽X〒*☆……◎|+$!」
と、訳わからんこと言うてきた。うわ、このにーちゃん、顔つき外人っぽいと思てたけど、ホンマに外人やったんや。どないしょう、怒ってるし……そらそうやよな、上から人が降ってきてんもんな……って、それあたしのせいやないんやけど!
「ちょっと、店の人おらへんの! ここ床抜けてんけど!」
あたしはそう言いながら辺りを見回した。もちろん、店の人にこの被害状況を確かめてもらうためや。
 
 だけど、そう言いながらだんだんとあたしの顔が引きつった。なんか様子がおかしい。ここ、カラオケボックスやろ? 部屋の大きさが三十畳? ううん、もっとあるし、第一、置いてある調度がそもそもカラオケボックス仕様やない。ソファーはどう見てもヨーロッパ製のアンティークやし、まず間違うてもカラオケボックスには天蓋付きのベッドなんてあらへんやろ。
「ここはどこ? んで、あんた誰?」
あたしは踏んずけてしもたにーちゃんを指さしてそう言うた。そしたらにーちゃんは、
「分かっちゃいねぇ」
と返してきた。
「へ? あんたもわからんの?」
そうか、にーちゃんも分からんのやったらしゃーないなと思ったら、にーちゃんはもう一度、
「分かっちゃいねぇ、言(ゆ)わん、スカタン」
分からないから言わないと言い、言葉の最後にスカタンと付け加えた。
「スカタンって誰のことなん!」
とあたしはちょっとムッとしたけど、よう考えたらこの人日本人やなかったんやった。一体何言うてんねんやろ。
分かっちゃいねぇ……分かっちゃいねぇ……
What‘s your name!……あ、名前?
「name?」
試しにそう聞いてみる。
「Yes, your name」
そしたら、ちゃんと答えが返ってきた。何や、慌ててたし、ちょっと訛ってたから分からへんかったけど、よう聞いたらコレ英語やん。あたしは気を取り直して、
「my name is Chiduru Kanbe」
と答えた。すると、にーちゃんは、
「my name is Fren Gye Ra Rosh Please remember me to somebody」
と答えた。平ったく訳したら、『私の名前はフレン・ギイ・ラ・ロッシュと申します。以後お見知り置きを』ってとこだろうか。
「そうや、にーちゃん、あ、フレンさんか。早よ一緒にフロント(そんな高級なもんとちゃうけど)に文句言いに行こ」
あたしはそう言って名前の分かったフレンの手を引っ張って部屋の外に出たんやけど……
 部屋の外は見慣れたカラオケボックスの薄暗い通路やのうて、日差しが燦々と降り注ぐ廊下。おまけに窓から見える景色はあたしの住む大阪のごちゃっとした町並みやなく、中世ヨーロッパを思わせる、石造りのそのまま絵にできそうな長閑な風景やった。あたしは思わず一旦開けた扉を閉めて、自分の落ちてきた天井をもっぺん見上げて……
「う、ウソやん……」
絶句した。天井にはあたしの落ちた痕なんて微塵もなかった。
「なぁ、ここはどこ? で、あんた誰なん!」

あたしが反射的に日本語で聞いてしもたんは、もう、お約束やろう。

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