プリンセスになりたかった

浅月ちせ

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第1章

迷子

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午後12時30分。外気温25度。スマートフォンの地図アプリを片手に歩き回ること約1時間。もはや体感温度は30度を越えていた。



稽古開始時刻まであと30分。到着後すぐに稽古着に着替えて水分補給をし、スッピン並みの薄メイクを少しだけ直し、柔軟発声のウォーミングアップをして演出家さんを待つにはかなりギリギリである。



この舞台人あるある「初めて行く稽古場に一向に辿り着けない」状態はかなり精神的疲労を蓄積する。
駅歩15分のところを1時間も迷っていれば体力も間違いなく減っているだろう。



ここまできたら駅から行き直した方が早いかもしれない…でも今は引き返す時間すら惜しい。
もうタクシーに乗ろう。そうしよう。

ああ、また地味な出費が…。自分の方向音痴を自覚しているので、最新式ケータイの音声案内アプリを嬉々としてダウンロードしたが、結局のところ使いこなせないのである。



「ん…?ちょっと待って…。
あ!!あれ…!あったーーーーー!!!」



タクシーを拾おうと大通りに向かったところで目印にしようと思いつつなかなか見つけられなかったパン屋さんを発見。店名が素敵な字体の英語だったからまったく読めなかった。


うん、赤い屋根のお店。おとなりは個人経営の酒屋。間違いない!



信号点滅中の横断歩道を急いで渡る。


白い線と黒い線を交互に。




最後の白線を踏んだその時ーーー




ぐにゃり




え?   地面が揺れたーー?



状況を理解することも声を出すこともなく






そこから先の記憶が




わたしには無いーー。


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