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第12話 姉弟子、決闘する。
Chapter-41
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騒ぎがだいぶ大きくなったが、まぁいいか。
私、リリー・シャーロット・キャロッサ騎士爵が、ブラッドリー・ダグラス・ドーン伯爵に決闘をふっかけたという話は、あっという間に広がり、ついには帝国宰相、バーナード・センツベリー・サッチュス侯爵が見届人になるという話にまでなってしまった。
ついでに、決闘場として、帝立闘技場が使われることになってしまった。
そんなに、この帝都の民は娯楽に飢えてんのか。
「大丈夫なんですか、リリーさん……」
控室。ジャックが、ハラハラしたような表情で、私を見てくる。
「大丈夫だよ」
私は、最初は、安心させるような笑顔になったつもりだったが、
「私を、誰だと思ってる?」
と、少し挑戦気味になって、問いただしてしまった。
「え!? えっと……リリーさんは、リリーさんで……その、アルヴィンの姉弟子で……あ」
ジャックが、気づいたかのように声を出した。
「そうだ、ドラゴン・スレイヤーのアルヴィン・バックエショフの同門。アドラーシールム西方の魔女、ディオシェリル・ヒューズ・ディッテンバーガーの弟子だ」
マントを翻すという、我ながらクサい見栄切りをしてしまいつつ、そう言った。
「アルヴィン、お前は、心配じゃないのかよ」
「うーん、ジャックと同じ意味での心配は、してないかな……」
アルヴィンは、頭に両手を当てて、呑気そうに笑いながら答える。
まぁ、そうだろう。
「でも、姉弟子。良かったんですか、こんなことに巻き込んでしまって……」
「どのみち私がやるかお前がやるか、程度の差だろう」
若干申し訳無さそうに言ってくるアルヴィンに対し、私はそう言った。
「お前だって、ああする一歩手前だったろ? 見ていれば解るよ」
「それは……そうですが」
「それに、エミのお嬢ちゃんは、お前より沸点に近かったみたいだしな」
「え!?」
私に言われて、今気がついた、というように、アルヴィンはエミを見る。
エミは、ニュートラルっぽい表情だったが、どこか、照れ隠しをするように、アルヴィンから視線をそらした。
「手袋を、脱ぎかけていたよ。私が先じゃなかったら、どうなっていたかね」
「もちろん、私も、ドラゴン・スレイヤー。引いたりなんかしない」
ぐっ、と利き手で拳を作って、エミは静かにだが、はっきりと、それも、怒気を孕んだ声で、そう言った。
「それに、お前たちも聞いていたろ? うちのお館様に、なんて言いやがったか。それだけ私には、アイツにふっかける理由が、お前たちより多いってことだ」
選りにも依って、あの禁句を吐きやがった。お館様が、なぜ若くして爵位を継いだのか、知らないわけではあるまいに。
「シャーロット・キャロッサ卿!」
私が、軽く準備体操をしていると、そこに、2人連れの青年が現れた。アルヴィン達と、うちのお館様と、ちょうど真ん中、ぐらいというところか。
片方は、うん、少し面影が似てるぞ。
「すみません。話はアルヴィン・バックエショフ卿からお聞きしました。アイリスのために、こんな事になってしまって、なんと言えば良いのか……」
アルヴィンとほんのり似ている方とは別の方の青年が、そう言った。
するっていうと……
「いいのかい? 仮にも騎士爵の分際でお父上にふっかけた相手に、そんな態度で」
アイザック、確か、そんな名だったな。ドーン伯爵の次男坊。
今回、アイリスの話を、アルヴィンのところに持ち込んだ男だ。
「いえ、もう、父には愛想が尽きました。アルヴィン・バックエショフ卿に、全ておまかせしてしまえば良いものを……」
アイザックは、悔しそうに、視線をそらして、そう言った。
「ですが、このような事態になったことを、シャーロット・キャロッサ卿になんとお詫びすれば良いのか」
「勘違いするな」
困惑げな顔を向けてくるアイザックに対して、私は、きっぱりと言う。
「私も、アルヴィンも、人類の普遍正義だとか、そんな甘っちょろい考えなんか持っちゃあいない」
ミーラのお嬢ちゃんがいたら、ちょっと問答になってしまうようなこと、しかし、私の、そしておそらくアルヴィンと共通の、自身の信念を、私は改めて口にする。
「ただ、気に入らないからブッ潰す。それだけよ」
そう言って、私は、呼び出し係の、肌もあらわな衣装の女性の案内に従って、アリーナの方へと移動を始めた。
「これより、リリー・シャーロット・キャロッサ騎士爵と、ブラッドリー・ダグラス・ドーン伯爵の決闘を執り行う! 見届人は、僭越ながらこの私、バーナード・センツベリー・サッチュスが引き受ける」
サッチュス候の宣言が聞こえてきた。
「なお、ダグラス・ドーン卿は、決闘代理人を申し立てている。この事に、異議のある者は、申し出でよ」
異議を唱える者はいない。ジャックはなにか言いたいだろうが、みなし貴族の彼がこんなところで発言するなど、できるはずもない。アルヴィンはするはずもないし。
まぁ、それは予想していた。立場だけではなく、ドーン伯、私より年上のはずだしな。ちょっと自ら剣を取るには、歳を取りすぎている。
「それでは、両決闘人の入場である。まず、リリー・シャーロット・キャロッサ騎士爵」
サッチュス候の言葉で、私が入場すると、意外にも、私に好意的な歓声が聞こえてきた。まぁ、むさい男よりかは、私のようなちんちくりんでも、女のほうが、まだ華があると思われているのか。
私は、歓声をくれる観客に、手を振ってみせた。
「続いて、ブラッドリー・ダグラス・ドーン伯爵の決闘代理人、モーガン・マスグレイヴ・ドーン、場内へ!」
え!?
私は、耳を疑ってしまった。
てっきり、手勢の中から、腕のたつ剣奴か兵士でも連れてくるものと思ったが────
モーガン・マスグレイヴは、ドーン卿の長男坊じゃないか。
「お初にお目にかかります、ではないですね、シャーロット・キャロッサ卿」
初対面ではない? あ、そうか、思い出したぞ!
モーガン・マスグレイヴ、帝都の魔法協会に出入りしてたはずだ。
誰かに師事して、魔導師になったか。
「なるほど、ならば、遠慮はいらない、ということか」
私は、不敵に笑い、マントを翻す。
「両者、位置について」
サッチュス候の声に従い、私とモーガンは、待機位置に進み、そこで、一礼をする。
「はじめ!」
サッチュス候が、戦いの始まりを、合図した。
私、リリー・シャーロット・キャロッサ騎士爵が、ブラッドリー・ダグラス・ドーン伯爵に決闘をふっかけたという話は、あっという間に広がり、ついには帝国宰相、バーナード・センツベリー・サッチュス侯爵が見届人になるという話にまでなってしまった。
ついでに、決闘場として、帝立闘技場が使われることになってしまった。
そんなに、この帝都の民は娯楽に飢えてんのか。
「大丈夫なんですか、リリーさん……」
控室。ジャックが、ハラハラしたような表情で、私を見てくる。
「大丈夫だよ」
私は、最初は、安心させるような笑顔になったつもりだったが、
「私を、誰だと思ってる?」
と、少し挑戦気味になって、問いただしてしまった。
「え!? えっと……リリーさんは、リリーさんで……その、アルヴィンの姉弟子で……あ」
ジャックが、気づいたかのように声を出した。
「そうだ、ドラゴン・スレイヤーのアルヴィン・バックエショフの同門。アドラーシールム西方の魔女、ディオシェリル・ヒューズ・ディッテンバーガーの弟子だ」
マントを翻すという、我ながらクサい見栄切りをしてしまいつつ、そう言った。
「アルヴィン、お前は、心配じゃないのかよ」
「うーん、ジャックと同じ意味での心配は、してないかな……」
アルヴィンは、頭に両手を当てて、呑気そうに笑いながら答える。
まぁ、そうだろう。
「でも、姉弟子。良かったんですか、こんなことに巻き込んでしまって……」
「どのみち私がやるかお前がやるか、程度の差だろう」
若干申し訳無さそうに言ってくるアルヴィンに対し、私はそう言った。
「お前だって、ああする一歩手前だったろ? 見ていれば解るよ」
「それは……そうですが」
「それに、エミのお嬢ちゃんは、お前より沸点に近かったみたいだしな」
「え!?」
私に言われて、今気がついた、というように、アルヴィンはエミを見る。
エミは、ニュートラルっぽい表情だったが、どこか、照れ隠しをするように、アルヴィンから視線をそらした。
「手袋を、脱ぎかけていたよ。私が先じゃなかったら、どうなっていたかね」
「もちろん、私も、ドラゴン・スレイヤー。引いたりなんかしない」
ぐっ、と利き手で拳を作って、エミは静かにだが、はっきりと、それも、怒気を孕んだ声で、そう言った。
「それに、お前たちも聞いていたろ? うちのお館様に、なんて言いやがったか。それだけ私には、アイツにふっかける理由が、お前たちより多いってことだ」
選りにも依って、あの禁句を吐きやがった。お館様が、なぜ若くして爵位を継いだのか、知らないわけではあるまいに。
「シャーロット・キャロッサ卿!」
私が、軽く準備体操をしていると、そこに、2人連れの青年が現れた。アルヴィン達と、うちのお館様と、ちょうど真ん中、ぐらいというところか。
片方は、うん、少し面影が似てるぞ。
「すみません。話はアルヴィン・バックエショフ卿からお聞きしました。アイリスのために、こんな事になってしまって、なんと言えば良いのか……」
アルヴィンとほんのり似ている方とは別の方の青年が、そう言った。
するっていうと……
「いいのかい? 仮にも騎士爵の分際でお父上にふっかけた相手に、そんな態度で」
アイザック、確か、そんな名だったな。ドーン伯爵の次男坊。
今回、アイリスの話を、アルヴィンのところに持ち込んだ男だ。
「いえ、もう、父には愛想が尽きました。アルヴィン・バックエショフ卿に、全ておまかせしてしまえば良いものを……」
アイザックは、悔しそうに、視線をそらして、そう言った。
「ですが、このような事態になったことを、シャーロット・キャロッサ卿になんとお詫びすれば良いのか」
「勘違いするな」
困惑げな顔を向けてくるアイザックに対して、私は、きっぱりと言う。
「私も、アルヴィンも、人類の普遍正義だとか、そんな甘っちょろい考えなんか持っちゃあいない」
ミーラのお嬢ちゃんがいたら、ちょっと問答になってしまうようなこと、しかし、私の、そしておそらくアルヴィンと共通の、自身の信念を、私は改めて口にする。
「ただ、気に入らないからブッ潰す。それだけよ」
そう言って、私は、呼び出し係の、肌もあらわな衣装の女性の案内に従って、アリーナの方へと移動を始めた。
「これより、リリー・シャーロット・キャロッサ騎士爵と、ブラッドリー・ダグラス・ドーン伯爵の決闘を執り行う! 見届人は、僭越ながらこの私、バーナード・センツベリー・サッチュスが引き受ける」
サッチュス候の宣言が聞こえてきた。
「なお、ダグラス・ドーン卿は、決闘代理人を申し立てている。この事に、異議のある者は、申し出でよ」
異議を唱える者はいない。ジャックはなにか言いたいだろうが、みなし貴族の彼がこんなところで発言するなど、できるはずもない。アルヴィンはするはずもないし。
まぁ、それは予想していた。立場だけではなく、ドーン伯、私より年上のはずだしな。ちょっと自ら剣を取るには、歳を取りすぎている。
「それでは、両決闘人の入場である。まず、リリー・シャーロット・キャロッサ騎士爵」
サッチュス候の言葉で、私が入場すると、意外にも、私に好意的な歓声が聞こえてきた。まぁ、むさい男よりかは、私のようなちんちくりんでも、女のほうが、まだ華があると思われているのか。
私は、歓声をくれる観客に、手を振ってみせた。
「続いて、ブラッドリー・ダグラス・ドーン伯爵の決闘代理人、モーガン・マスグレイヴ・ドーン、場内へ!」
え!?
私は、耳を疑ってしまった。
てっきり、手勢の中から、腕のたつ剣奴か兵士でも連れてくるものと思ったが────
モーガン・マスグレイヴは、ドーン卿の長男坊じゃないか。
「お初にお目にかかります、ではないですね、シャーロット・キャロッサ卿」
初対面ではない? あ、そうか、思い出したぞ!
モーガン・マスグレイヴ、帝都の魔法協会に出入りしてたはずだ。
誰かに師事して、魔導師になったか。
「なるほど、ならば、遠慮はいらない、ということか」
私は、不敵に笑い、マントを翻す。
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