異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。第2部

kaonohito

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第22話 たまにはまったりともしてみる。

Chapter-32

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「はぁ……疲れたな……」

 結局自領に帰ってきてからも、農地整備で俺の判断を要求されることが多くて、あんまりゆっくりできんかった。

 陞爵でもらった北部領の、塩田の開発と、灌漑の為の水路建設、風車塔の建設なんかの計画の話を、アイザックやセオ兄と詰めていて、息をついている暇がなかった。

 米の水田や麦の畑は間に合わんが、ジャガイモ畑の拡張は秋までに大急ぎでやれば1期分間に合う。
 アクアビットの生産も考えると、ジャガイモの増産は課題だからな。

 元々ここに定植していたジャガイモ農家は春植えと秋植えの2期作をやってきたそうだが、春植えジャガイモがそろそろ収穫時期になる。
 今まではその後、夏場の暑い時期は休耕していたのだそうだが──



「そういや、今の世界、葉ネギってあるのか?」

 こいつはシレジア行き直前の話。

 葉ネギとか長ネギって基本、中華や和食の食材だからな。
 洋食っぽいこの世界では一般的ではないかもしれない。
 と、思っていたのだが。

「えっと、薬味や香り付けに使う万能ネギのこと?」

 エミ曰くある。
 薬味として少量使ったりする他、グラタンのようにして食べることもあるという。

「しめた! あるんだな!」
「え? どうするの?」

 俺が指を鳴らすと、エミはわけがわからない、と言ったように、小首をかしげながら訊いてきた。

「ジャガイモの収穫が終わった後の畑に植えるんだよ」
「葉ネギを?」
「そう、輪作っていうんだが、ジャガイモにつく病原体や害虫……つまり悪疫だな、ネギはそれを追っ払う力があるんだ」

 ジャガイモ自体連作障害は出しにくいが、それでも対策しておくには越したことはない。
 それに、畑の生産効率も上がるしな。

 小ネギの苗を晩春のうちに準備しておき、初夏のジャガイモ収穫と入れ替わりに植え付ける。
 今度は小ネギの収穫ができる頃、秋植えジャガイモの植え付け時期になる。

 そんなわけで、シレジア行きの前、セオ兄やアイザックに小ネギの苗を調達するように頼んでおいた。



「他にも、小麦畑に遅蒔きの大豆を植えれば土が痩せずに済む。定期的にニンニクやタマネギを植えれば病気を追っ払える」
「大豆か……お前、大豆の生産量上げたがってたもんな」

 セオ兄にそんなことを言われてしまった。
 しかしまぁ、ある程度は図星である。
 醤油……アル・ソルの増産には大豆は必須だからな。

 薬剤も導入した。
 と言っても、まだ化学合成の薬剤なんか存在してない。
 前世に某テレビ番組で見た自然素材の薬剤というやつだ。
 もっとも、流石にレシピまでは覚えていなかったので、これは改めて資料を調べて作ったんだが。

「こんなもので収穫量が上がるのですか」
「平年の収穫量から劇的に上がるかはわからないけど、悪疫の発生率は劇的に抑えられるようになるよ」

 半信半疑と言った様子のアイザックやセオ兄に、俺は自信有りげに言ってみせた。



 なんてまぁ、シレジア行きの前後に、調子に乗って農業改革の仕事をガッツリやってたんだが、シレジアから帰ってから数日間そんな感じで領内を飛び回ってたら、流石にバテました。

「お疲れさま」

 安息日、つまり日曜日になって、ようやく一息つくことができた。
 屋敷のソファでバテていると、キャロが苦笑しながら、そう声をかけてくる。

「んー……」
「ど、どうかした?」

 出会った頃と同じ、強気そうな感じの顔つきをしたキャロが、ふっと俺の向けた視線に、少し戸惑った様子を浮かべる。

「いやぁ……何となく、こんな疲れたときは、たまには甘やかされたいなと思うわけなんだけど……」

 俺は苦笑しつつ、言葉は濁した。

 俺の嫁さん、3人共、そういうイメージじゃないもんなぁ。
 まぁ、俺の女性の好みが、そうだから仕方ないけど。

 などと、思っていたら。

 ぽふぽふ、なでなで。

「えっ?」
「こういう感じで良いのかしら?」

 なんか、キャロが俺の隣に腰掛けてきて、そう言いながら頭を撫でてきた。

「ん……そういう感じなんだけど」

 ちょっと意外でした。

「多分、エミやミーラでも、今のアルヴィンの言葉聞いたら、こうしてると思うわよ」

 キャロが、苦笑しながらそう言った。

「そうかな」
「もう、私達だって女の子なんだからね、それぐらいしてあげられるわよ」

 俺が、ちょっと意外そうにしたままそう言うと、キャロは一瞬、呆れたような感じでそう言った後、クスッ、と笑った。

「それに、アルヴィンは前世での最期のこともあるし」

 キャロが言い、わずかにだが困ったような、心配そうな、そんな感じの表情になる。

「領主様だから、泣き言言ってられないっていうのもわかるけど、また、忙しくて倒れたなんて、みんな、あってほしくないんだから」
「うん……まぁ、前世でのテレ……、いや、エンターテイメントショーに、農地を自力開梱するって話があってね。そのノリでちょっと張り切ってた」

 ため息交じりに言うキャロに、俺は少し困惑したような顔になりつつ、そう言った。

「エンターテイメントショー? 農地を切り開くのが?」

 キャロは、不思議そうに訊き返してくる。
 まぁ、そりゃそうだよな。

「ああ……前世では、もっと様々な機械が登場して、そうしたものが活躍するのが普通になってたからね。あえてそうした力に頼らないっていうのが、ショーになったんだよ」
「ふうん……」

 キャロは、イマイチ納得しきれない、という感じで言う。
 まぁ、実際そうなってみないと、わからないか。

 なでなで。

 不思議そうな表情をしつつも、キャロは、俺の頭を更に撫でてくる。

「どんな理由があるにしろ、張り切るのは悪くはないと思うけど、張り切りすぎてまた倒れるなんてことがないようにしてね、アルヴィンは、領主様なんだし、それに……」

 そこまで言って、キャロは、照れたように顔を赤くする。
 赤くしつつも、どこか楽しそうにと言うか、穏やかそうにと言うか、笑っている。

「その、私達の旦那様なんだから」
「そ、そうだな」

 キャロに言われて、俺の方まで、多分赤面してると思えるほど、顔が熱くなってくる。

「でもそうしたら、今日はこのまま、キャロに甘えちゃおうかなぁ」
「良いわよ」

 俺が冗談交じりに言うと、キャロは短く言って、微笑んだ。

「じゃあ、ちょっと態度悪いかもしれないけど」
「?」

 俺は、キャロの膝に頭を乗せるようにして、ソファの上で横になった。
 キャロが嫌がる素振りはない。

「はいはい、今日はしたいようにしなさいな」
「あ、ああ……」

 キャロが、そう言ってやっぱり俺の頭を撫でてくるので、俺の方が、一瞬面食らったようになってしまったが。
 なんか、キャロに頭を撫でられているうちに、身体の力が抜けて、そのまま微睡んでしまった。

 そんな、休日の午後のひとときだった。
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