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第4話 Pretty Woman.

Chapter-21

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 テーブルの上に、イタリアン風の洋食メニューが、所狭しと並んでいた。

「来た来た、旨そー」

 サイゼリア・BoxHill取手店。
 取手駅ビルの5階にあるレストランで、澄光、俊彰、正恭の3人は、並んだメニューを目の前に、舌なめずりをしかけていた。

「あ、でも、ホントに御馳走になっちゃっていいんですか? 真帆子先生」
「ええ、あなた方と有意義なdiscussionができたお礼よ」

 正恭が、真顔になって、訊ねる。
 すると、真帆子はそう言って、3人に勧めた。

「それに、食べざかりの年頃でしょ、私みたいになられても、困るしね」

 苦笑交じりに、そんな冗談まで言う。

 放課後、真帆子は、3人が写真部の部室でダラダラしているところにやってきた。
 そこから、とりとめのない話が、続いた。
 主な内容は、最初は本当に雑談だったが、段々と人工知能に関する研究についての話題になっていった。

 主に話していたのが、正恭で、一番置いてきぼりだったのが、澄光だったのは、ある意味皮肉である。

 その最中、それまで3人は、真帆子のことを「平城先生」と呼んでいたが、

「私、アメリカ長いから、ファミリーネームで呼ばれるのは慣れてないの。真帆子でいいわよ」

 と、真帆子はそう言っていた。

 澄光が、まずはマルゲリータのピザに手を伸ばそうとした時、その制服の胸ポケットに入れてある、KED製コンパクトスマートフォンが、着信のバイブレーションを振動させた。

「すみません、ちょっと失礼」

 澄光が、そう言って、スマホを取り出す。

「兄貴からだ。なんだろ」

 澄光はそう言って、着信ボタンをタップした。

『うぉい、何やってんだ。食事御馳走になるって、どこの誰にだよ』

 他のメンツにも聞こえるほどの声で、電話越しに、朱鷺光の声が聞こえてきた。

「学校の先生だよ……やましいことなんかないって」

 澄光は、やや言いわけじみた言葉を口にしつつ、苦笑した。

「貸して。私が説明するわ」
「あ、ちょっと、一旦電話代わるわ」

 真帆子がそう言って手を伸ばすと、澄光はそう、電話口の朱鷺光にそう言ってから、真帆子にスマホを渡した。

「もしもし、お電話代わりました。ええ、講師の平城真帆子と申します。澄光君達は、私に付き合っていただいて、遅くなってしまったものですから、ええ、大丈夫です。責任持って帰しますから」

 真帆子は、社会人らしい口の利き方で、朱鷺光にそう事情を説明した。

「ええ、大丈夫です、わかりました。左文字朱鷺光博士。ええ、失礼します」

 真帆子はそう言うと、電話を朱鷺光の方から切ってしまったようで、通話終了、の表示がされていた。

「いいお兄さんね」
「いやぁ、普段は家で何してるんだか。会社も6代目は自分じゃなくて、姉貴に継いでもらうって言ってますし」

 真帆子の言葉に、澄光は、苦笑しながら、スマホの画面を消灯させ、胸ポケットにしまう。

「それで……食事を御馳走してあげた代わり、ってわけじゃないけど、3人には私にちょっとした協力をしてほしいのだけど、どうかしら? 別に断ってもらっても構わないけど」
「協力……?」

 澄光達は、既に料理に手を付け始めていた俊彰を含め、お互いに顔を見合わせる。
 そして、澄光が答えた。

「いいですよ、俺達に協力できる範囲のことでしたら」
「そう、ありがとう」

 真帆子は、チャーミングな、満面の笑顔になって、そう言った。
 澄光の事を合法ロリ属性持ちだのと言っていた俊彰、それに、普段割と落ち着いた雰囲気の正恭までも、その笑顔には、ついニヤッと笑って顔を赤面させてしまっていた。

「お願いっていうのは他でもないんだけど、私の所属している大学で研究している人工知能アプリ、そのモニターになって欲しいのよ」
「モニター、ですか。俺達が?」

 正恭が、真顔になって、訊き返す。

「ええ、と言っても、難しく考えることはないわ。3人ともスマホは持ってるんでしょう?」

 真帆子が聞く。

「ええ、と言っても、俺と宇佐のは、少し、旧型ですが」

 正恭が言った

「いいよなぁ、澄光は。なんのかんのと言って家が金持ちでよ」

 俊彰が、腕を組んだ姿勢で、少しふんぞり返るようにしながら、横目で澄光を見つつ、そうぼやくように言った。
 澄光が、そんな俊彰に、苦い顔を向ける。

「大丈夫よ。端末に必要なリソースは、オンラインゲームより軽いぐらいだから。メモリ1GBはあるんでしょ?」
「ええ、まぁ、FG◯やア◯゙レンが動く程度のスペックはありますけど……」

 苦笑しながら言う真帆子に、正恭はそう答えた。

「実際には人工知能そのものは外のハードで動いてるの。ちょっとしたビルの1階分ぐらいの容量があるから、持ち運びは容易じゃないしね」

 真帆子は、穏やかに笑いながら、そう言った。

「でも、朱鷺光の兄貴は、人間サイズのロボットが作れるほどのサイズに収めちまったよな?」

 俊彰が、澄光や正恭の方を見て、言う。

「そこが、左文字朱鷺光博士の、天才たる所以でしょうね」

 真帆子が、少し決まり悪そうな苦笑になって、そう言った。

「天才……ねぇ……」

 正恭と澄光が、顔を見合わせて、苦笑する。

「なにか? 含むところでもあるの?」

 真帆子が問いかけると、

「真帆子先生はまだ聞いてないですか、その、“取手中央高トリチュウコウ伝説の3バカ”……」

 と、正恭が、苦笑のまま、真帆子の方を向いて、訊ねるように言った。

「伝説の……3バカ?」
 真帆子が、少し唖然としたような様子で、訊き返す。

「コンピューターを触らせたが最後、何しでかすかわからない左文字朱鷺光、ラジコンや電子工作には右に出るもののいない、取中高EOS党支部長の長谷口弘介、警察オタクで無線オタク、警察グッズ収集は今のアキバ系なんか目じゃない埋田淳志……」

 俊彰が、食事を口に運ぶ手を休めて、指折り数えながら、言う。

「なるほど、彼の母校もここだったのね……」

 真帆子は、穏やかに微笑しながら、ドリンクバーのコーヒーを口に運びつつ、そう言った。

「てっきり、知ってるのかと思ってました」
「残念ながら、それについては初耳よ、少なくとも私はね」

 澄光が言うと、真帆子はふふっと笑ってそう言った。

「まぁ、この3人が大学から大学院まで出てくれたおかげで、取中高も実業寄りから、今みたいに進学校の端くれになったって言われてますけどね」

 正恭が、苦笑したままそう言った。

「淳志さんなんか、本物の警察官になっちまったもんな、それも今や警視」

 澄光も、そう言って笑う。

「ま、問題は、そのとばっちりで、俺達も“伝説の3バカの再来”とか、“令和の3バカ”とか、言われてることなんスけどね」

 正恭が、困ったように苦笑しながら言う。

「あら、そう言う称号だったら、むしろ光栄なんじゃないのかしら?」
 真帆子は、口元で笑ったままながら、目をぱっちりと開いて、そう聞き返した。

「俺と俊彰は、いいんですけどね、中学時代からコンビでしたし」

 正恭は、そこまで言うと、

「ただ……」

 と、示し合わせたかのように、俊彰と共に澄光に視線を向ける。

「? なんだよ」

 澄光が、不思議そうに言った、次の瞬間。

「こいつは、兄貴と違って」
 正恭が言い、
「本物のバカです」
 と、その部分は、俊彰と、完全にハモった声で、そう言った。

 澄光が、思わず、前に滑るような形で、コケる。

「お前ら人の事を何だと思ってるんじゃ」

 澄光は、起き上がるなりそう言うが、

「バカ」
「うぉいっ」

 と、俊彰が端的に言い、澄光はそれに対して更にツッコミを入れた。

「言われんのが悔しかったら、せめて週の遅刻とオムリンさんに送ってもらう回数を3回未満にするか、長期連休に補習で呼び出されなくなるかぐらいは、してみろよ」

「ぐ…………」

 正恭に言われて、澄光は、悔しそうにしつつも言葉を詰まらせた。

「でも、その仲の良さだから、そんな呼ばれ方もするんじゃないかしら?」

 真帆子は、おかしそうに笑ってしまうのを堪えるようにしながら、そう言った。

「それで、……ああ、ごめんなさい、話を本題に戻すわね」

 真帆子は、口元に笑みを浮かべつつも、少し真剣そうな表情に戻って、そう言った。

「え……ああ、つまり、さっきの話ですと、そのアプリは、別に置かれている人工知能とのやり取りができるクライアントみたいなもんですね?」

 正恭が、そう言った。

「ええ、そんな感じ。通話もできるし、SMSの感覚で文章や画像、動画をやり取りすることもできるわ」

 真帆子は、話が早いなと思いつつ、そう説明した。

「それに、アバターがいるから、それを観察することもできるわよ」
「アバター、ですか」

 俊彰が訊き返す。

「ええ、と言っても、この人工知能にはモデルっていうかオリジナルがあって……」

 真帆子は、そこまで説明して、苦笑する。

「それは、私なんだけどね」

 それを聞いた、澄光、俊彰、正恭は、お互いに顔を見合わせて、

「ぜひ、やらせてください」

 と、身を乗り出すようにしながら、そう言った。
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