異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだから場外編

kaonohito

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Edition:M

Chapter-39 Ver.M

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 帝都で、そして、爵位を受けて初めての、この世界での大晦日が、そして、新年がやってくる。

 去年の年越しは……女っ気もなにもなかったな。
 まぁ、ジャックと2人、バカやって過ごした感じだ。
 こんな年越しも、若い頃には往々にしてあることで、悪くはない。

 なにせ、前世での年末年始は、その最後の頃になると、仕事がない貴重な時間で、休息のために寝正月であることが多かったからなー。
 親から、たまには帰ってらっしゃい、と言われても、そんな余裕はなかった。

 あ、でも、その前の年越しは女っ気はあったな。
 と言っても、師匠と姉弟子だが。

 普段は酒は呑んでも呑まれないを心がけている2人だったが、この日ばかりは羽目を外して、俺がほどの騒ぎをしてたな。
 まぁ、それで潰れるような2人でもないんだが。

 それに、前世での人生経験があるから酒で騒ぐ女性見たところで、それで困ったり取り乱したりするほどでもないんだが。

 そんな前世の記憶のある俺だが、俺の前世の人生経験に組み込まれたことがない事象もあったりして、そしてそれは意外に身近なものだったりすることもあったりするわけで。

「今年の大晦日は、ミーラと二年参りに行くべき」

 エミが、そう言ってきた。

 この世界での──というか、いわゆる「五柱神聖教」での二年参りというやつは、家庭の多幸を祈って、夫婦が教会で、祭壇に灯籠を収めて祈りを捧げるものなんだが。

「あれって既婚者がやるものだろう?」
「でも、都会じゃ婚前のカップルなんかもよくやるって言うわよ」

 俺が少しショックを受けてそう言い返したら、キャロが、そんなことを言ってきた。

「うーん」

 言われてみると、俺の現世での親父殿と母上殿もやっていたはずなんだが、俺、11歳の時に前世の記憶が上書きされちゃってるから、それまでの記憶って曖昧なんだよね。
 だから、興味があるのかないのか、と言われれば、少し好奇心の動かされるところではあるのだが。

「でもさ、ミーラって、どっちかって言うと、訪問してくる参拝者を迎える側の人間なんじゃないのか?」

 俺が気になったのがこれ。
 ミーラって、教会の人間だからな。

「いえ」

 俺が少し困ったように言うと、ミーラがそれを否定するように言ってくる。

「お祖父様や両親からは、これからはアルヴィンの家人になったつもりで過ごしなさいと言われていますから……」
「んー……教会のこういうイベントにも、そのつもりで参加しちゃっても大丈夫ってこと?」

 ネコ科のような、癖のあるショートカットに大きなツリ目をニコっと満面の笑みにしながら、ミーラが言ってくる。

「と言うか、今更文句は無いだろってことでしょ?」
「まぁ、端的に言っちゃうとそういうことになります」

 なんか、エミのちょっと怖い言い回しに、ミーラがあっさり同意している。

 普段の丁寧な言葉遣いに惑わされがちだけど、ミーラって下手したらキャロやエミより更に気が強いからなぁ。
 まぁ、その強気な女の子に弱いのが、俺って男なんだけど。

「うーん、まぁ、そういうことなら、行ってみようかな」

 そういうわけで、年をまたごうかと言う時間に、俺はミーラと連れ立ってアドラス聖愛教会に向かった。
 元々家を手に入れた経緯もあって、大きな教会としては一番の近所だし、本洗礼もここで受けてるから、別に避ける理由もない。

 ミーラは普段身につけている教会の法衣ではなく、シンプルなシャツにスカートの上から、防寒着を着ている。
 あくまで今日はゲストという立場をあらわにしているのだろう。
 もっとも、ホーリーシンボルの大きめのメダルは首から下げたままだったが。まぁ、これはミーラのこのメダルが、俺のマントと同じ機能を持っているからってのもあるけど。

 ともあれ、教会に到着はしたんだけど……

「確かに、婚前交際っぽい組み合わせも多いなぁ」

 俺は、場内を見渡すようにしながら、そう呟いていた。

「そうですね、でも、毎年こんな感じですよ」

 ミーラが、口元で笑いながら言ってくる。
 と言うか、見た感じ、俺達と同じくらいか少し年上くらいのカップルが多いように見えるんだが。

 ああ、でもあれか、アドラーシールム帝国では、数えの15歳が成人年齢だから、俺達より少し上程度の歳のカップルでも、もう結婚しているってこともあるのか。
 平民だと、だいたい18歳くらいで結婚する人が多いらしいけどな。貴族だと、婚約が決められているとかで、早くに結婚する人も多いが。

「平民の方が多い感じかな」

 俺は、特に考えもなしに、見たままそう呟いた。
 アドラス聖愛教会は、先に書いたとおり、俺の帝都屋敷から近所、つまり、貴族街に近いわけだが。

「そうですね、うちの……新教派は、貴族で帰依している方は、少ないですから」
「あ…………」

 ミーラが、少し寂しそうに苦笑しながらそう言った。
 本当に考えなしだな、俺。
 本祖派のジジィが、分けても法衣貴族束ねてっことぐらい、知ってたはずだろ。

「すまん……その……」
「いえ、アルヴィンは新教派に帰依してくれたじゃないですか。謝ることなんて無いですよ?」

 まぁ……それもちょっと打算があったのは事実なんだけどな。
 とはいえ、その選択肢を選んでなかったら、ミーラとも出会ってなかったのか。

 大礼拝堂の奥に、年越しの祈りの祭壇が設けられている。
 本殿の入り口で、受付係の宣教師から、納める紙細工の灯籠をもらうわけだが……

「おお、これは婿殿、ミーラと一緒に新年の儀ですかな?」

 ありゃ、セニールダー主席宣教師。

「ええ、まぁ、そんなところです」

 うーむ、なんとなく居心地が悪いような?
 いや、ミーラを正妻の相手として選んだんだから、そのあたりに引け目は感じなくて良いはずだが。

 あ、でもあれか、婚前交際の状況を女性の家族に見られるってのは、あんまりいい気分じゃないか。

「おや、どうかなされましたかな?」
「いや……正式な結婚はまだなのに、ミーラを連れてきちゃって、あれかなぁ、と」

 俺はそんな事を言って苦笑する。

「いえいえ、もう、結婚を誓っているのですからな、別に構いはしないと思いますぞ」

 セニールダー主席宣教師はそう言う。

「それとも、跳ねっ返り娘と、やはり、まだ馴染めませぬかな?」
「いやぁ、そんなことはないんですが」

「お祖父様、何を言ってるんですか!」

 うん、流石にそこは、ミーラ怒っていいと思うぞ。
 スポーティー元気系って、前世でも人気あったし、現世でも、冒険者養成学校に通っているが意識されたりするんだから。

「いや、実はその……ミーラって、容姿的にも性格的にも、割と自分の好みのツボと言うか、そんな感じでして……」
「おっと、そうなのですか」

 はい、そこで奇特な人物を見るような目をしない。

「では、アルヴィン卿、ミーラ様、こちらの灯籠を、どうぞ」

 本来の受付係の宣教師から、棒に吊るした灯籠を貰う。
 使い捨てレベルのドライ・マナで、やや青めに清浄な感じの光を放つ紙灯籠だ。

「ドライ・マナとは、結構凝ってるな」
「昔は、油行灯やロウソクが使われていたそうなんですけどね」

 俺が、灯籠をしげしげと見ながらそう言うと、ミーラが苦笑交じりにそう言った。

「私が物心つくあたりから、発光タイプのドライ・マナに置き換わっていったそうです」
「ふーん」

 最初は、なんの気無しに聞き流してしまったが、

「あれか、新年初っ端大惨事ってのが多かったわけだ」
「ええ、そうらしいですね」

 と、俺がそう言うと、ミーラも流石に苦い顔をしながら、そう言った。

 他の参加者や、すでに祭壇に飾られた灯籠の灯りで、聖堂内は清浄な感じに、しかし明るすぎない程度に照らされている。
 そんな中を、歩いていくというのは、確かに、少しデートっぽい雰囲気ではある。

「なんか、悪くないな、こういうの」
「そうですね……」

 俺が、穏やかにそう言うと、ミーラもまた、穏やかに言った。

「ひゃっ?」

 唐突に、ミーラが声を上げた。
 と言うか、俺が、半ば無意識に、ミーラの頭を撫でていた。

「す、すまん、嫌だったか?」
「嫌なんて訳ありません。ただ、突然だったから、驚いてしまっただけで」

 俺の言葉に、ミーラは、最初こそ少し困惑気にそう言ったが、

「でしたら、私も、これぐらいのことは、しますよ?」

 と、悪戯っぽそうな顔になり、俺の腕に抱きついてきた。

 当然、ブレストプレートはつけていない。ミーラの、割と豊かなそれが、腕に押し付けられてくる。

 いかんいかん、なに新年初っ端、しかも教会なんてとこでいきなり煩悩に取り憑かれてんだ、俺。

 そのまま、順路を静かに歩いて、祭壇の前に来ると、山のように置かれた灯籠が並んでいる、そのちょっと空いたスペースに、俺達の灯籠を置いた。

 ミーラと揃って、自分の両手を握るようにして、祈りを捧げる。

「神々よ、どうか1年、皆の心に安息をお与えください」

 小声で祈りを口にするミーラの横で、俺は声に出さずに、祈願した。

 どうか、今年1年、俺も皆も、安泰でありますように……
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