完全変態メタモルビッチーズ

沢井橘花

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序章

プロローグ 「ポスドクサ ~去勢の番犬~」

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「はぁ……はぁ……もう少しだエンドルフィン……ッ。あの廃工場まで行けば」
 街灯もほとんどない、暗く狭い夜の道。
 俺と彼女は、ただひたすらに、前へ、前へと走り続ける。
 どんな暗闇でも獲物を決して逃がさない――あの黒い猛禽類に捕まらないように。
 チクショウ……逆流する胃酸が食道を焼いていやがる。
 気持ちが悪い。
「はぁ……クソッ、クソォ!」
 あいつらに捕まったら最後。どれほど残酷な結末を辿るのかは――想像するまでもなかった。
寝太しんた、もういいわ……あなただけでも逃げて」
「ッ……何言ってんだよエンドルフィン! 俺たちは……仲間だろ?」
 俺の隣を共に走る一人の少女は、ピンクブロンドの長い髪を揺らし、数歩後ろで必死に地面を蹴っている。
 誰が見てもわかるほどに疲弊しているらしく、引きずる脚はほとんど上がっていない。
 スカーレットの瞳からは生気も薄れ、持ち前のいつもの明るさは見る影もなかった。
 彼女の名はエンドルフィン。
 追われているのは俺ではなく、エンドルフィンだ。
 しかし現在、彼女を匿った俺自身も共に追われる身となっている。
 性天使はテロリストだから……そんな勝手な決めつけで、彼女だけでなく性天使は全員貞操を狙われることとなった。
 そしてそれに異を唱える者は、人間であっても同罪である。
「あそこだ! 早く、早くこっちへ!」
「きゃあっ!」
 大きな石に躓き、転びかけたエンドルフィンの手首を掴む。
「大丈夫か!」
「大……丈夫、平気」
 そして俺たちは、鉄錆の匂いが立ち込める古い廃工場に飛び込んだ。
 
 遡ること今から二年前、世界は未曾有の危機に瀕していた。
 世界各国の大都市に、被爆者を極度のうつ病及び不能状態に陥れる謎の爆弾が投下されたのだ。
 負傷者数は合わせて約百五十万人。
 例にも漏れずこの日本も、秋葉原に投下された爆弾によって多くの犠牲者を出した。
 その8.12世界同時多発テロと何の因果か、それからというもの世界の歯車は徐々に狂い始めたのである。
「エンドルフィン……この奥の部屋で魔力を回復しよう。そうすれば、また転移魔法が使えるようになるんだろ?」
「ええ、でも間に合うかどうか……奴らが来るのは時間の問題よ」
「でもそんなこと言ってる場合じゃないだろ? どっちにしろ、一か八かなんだ」
 実はこの廃工場、俺が小学生の頃は秘密基地として遊んでいた場所だ。だから内部の間取りも頭に入っているし、ちょうど隠れやすい場所もすぐにわかる。
 俺は穴あき屋根の隙間から漏れる月明かりを頼りに、おそらくはかつて事務室であっただろう二十畳くらいの部屋に足を踏み入れた。
「エンドルフィン、そこに俺が昔持ち込んだマットレスがある。埃が溜まってて汚いけど、少し横になってくれ」
「うん」
 エンドルフィンを押し倒し、俺はその上に馬乗りに跨がった。
 窓から差し込む薄明かりに照らされたその白い肌は、どこまでも透き通るように滑らかで、彼女の心の純粋さを証明しているかのようだ。
「いい?」
「……うん」
 一瞬の沈黙の後、エンドルフィンは静かに答える。
 俺は白いブラウスのボタンを一つずつ外し、彼女の生まれたままの姿を目の当たりにした。
「綺麗だよ。エンドルフィン」
 胸から腰にかけての括れ、そして尻から太ももへの艶かしい曲線美が露わとなり、俺はつい劣情を孕んだ視線を彼女に向けてしまう。
 ブラジャーを付けていない上半身全体を舐めるように見回した後、俺は自分自身の行動に一瞬のためらいを感じてしまった。
「本当にいいのか?」
「早くしなさいな……私だって、はは、恥ずかしいのよ?」
 やはり余計な心配だったのか、逆に行動を急かされるハメとなる。
 耳まで真っ赤になって赤面するエンドルフィンに少々気を遣いつつも、俺はゆっくりと両手を伸ばした。 
 母性愛を象徴するような大きな二つの膨らみに、そっと両手を添える。
 少しだけ力を入れると、広げた指がまるで底なし沼のように果てしなく沈んでいく。
「……ッ……ああん」
 柔らかな感触と共に温かな体温が手のひら全体に伝わり、俺は一瞬で彼女の虜になってしまった。
「あっ……あ……んあっ……寝太ぁ……激しいよぉ」
 エンドルフィンの胸を揉みしだきながら、時折その中心を彩る蕾を指先で刺激する。
「……んヒィッ!」
 その度にビクンッと体を痙攣させ、端正に整った彼女の顔は興奮の色に支配されていく。
 小刻みに喘ぎながら快感に眉を潜めるエンドルフィンを見ると、どうやら確実に魔力は増えているようだ。
 だが実際、どれ程の魔力が必要なのかは彼女自身にもわからない。
 魔法を使えて初めて、十分に足りていたと知ることができる。
 だからこそ時間の許す限り、興奮を最大限に高める必要があるのだ。
「寝太ぁ……来てぇ」
「ん、どうした?」
「キス……して?」
 これはもしや……。
「ああ」
 両手を広げるエンドルフィンに覆い被さり、彼女の促すままその小さな桜色の唇に自分の唇を重ね合わせた。
「んっ……レロ……んちゅ……にちゅ……っハァハァ……」
 粘着質な音を立てながら、二つの舌がヌルヌルと絡み合い、唾液が混ざり合って一つになっていく。
 蠢く軟体動物のような舌が互いに擦れ、絶妙なざらつきがよりいっそうのアクセントを醸し出す。
「あっ……ああん……イク……イキそうだよぉ」
「もう少しだ。頑張れ」
 身を震わせ、今にも昇天してしまいそうなエンドルフィン。
 ――かわいい。
 そんな彼女の姿を眺めていると、この狂った現実を忘れていられる。
 いつまでもこうしていたい。
 だがそもそも、なぜ俺は現実から逃避したがるのだろうか。
 こう思い始めたのは、いつのことだろう?
「寝太……あんっ……ありがとう……寝太ぁ」
「エン……ドルフィン?」
 どうして俺は今まで、自分の行動に自信が持てなかったのだろう?
 どうして周りのみんなは、どれだけ尽くしても認めてくれなかったのだろう?
 俺は本当に生きているのか、はたまた死んでいるのか。
 そんな忌まわしくも懐かしい疑問が脳裏に浮かんだその時、背後の扉の向こうから複数の足音が耳に入った。
「おい……」
「え……来たの?」
 俺は目を丸くするエンドルフィンに、黙って頷いた。
「転移魔法は?」
「ダメ、あとちょっと足りない」
 カツ……カツ……と、コンクリート製の床に響く足音は、徐々に大きくハッキリとしたものに変わっていく。
 だんだんと近づくにつれて、ガチャガチャという装甲板の擦れる音も聞こえてくる。
「来たな……」
 一歩ずつ、一歩ずつ、この世界からエロを抹消するためだけにに鍛え上げられた狼たちが、俺たちを狩るために目を血走らせているのだろう。
「どうする?」
 そして部屋の前まで辿り着いたところで、不自然な静寂が俺たちを包み込んだ。
「寝太……」
 後ろにいるエンドルフィンが、不安げに俺の服の裾をギュッと掴んだ、次の瞬間――
「あれはっ――」
 少しだけ開いたドアの隙間から、スプレー缶のような物が投げ入れられた。
「フラッシュバン!?」
 直後、耳をつんざく爆音と共に、俺の眼前は完全にホワイトアウト。
 慌ててその場に伏せる。 
「ぐあああああッ! 目が……目がぁ!」
 しかしその場を襲ったのは、それだけではなかった。
 俺の聴覚のキャパシティーを完全に凌駕するほどの、たくさんの音がいっぺんに飛び込んできたのである。
 火薬の炸裂音、薬莢やベルトリンクの落ちる金属音、銃弾の風切り音、コドモウムが無機物と衝突して対消滅する音。
 あまりにも混沌としたこの状況に置かれても、俺の信念に揺るぎはなかった。
 守るんだ。せめて俺だけでも貞操を守り抜くんだ。自己犠牲だけが、最善の策じゃない。それは俺自身がよく知っている。
「わああああああああああああああああああああああッ!!!!」
 ほんの一瞬の出来事が、永遠のように感じられた。
 
 ――数秒後、辺りは突然静まり返った。
 それを認識できている時点で、俺は自分が生きていることを理解する。
 でもなぜこれほどの銃火に晒されて、俺は無事でいられたのか。
 もしかして、もう萎んでしまったのだろうか。
 そんな疑問を胸におそるおそる目を開くと、そこには金色に輝く白銀の鎧騎士が一人、俺に背を向けて立っていた。
「……エンドルフィン」
「寝太、危ないから下がってて」
 視線を上げると、エンドルフィンの頭部に装着された銀色のパンティーが目に入る。
 その瞬間、俺はエンドルフィンが完全変態したことを悟った。
「動クナ、無駄ナ抵抗ハヤメロ」
 彼女から広がる神々しい光に照らされ、俺たちを追っていた者の正体が暴露される。
「ポスドクサ……」
 全身が漆黒の装甲版に覆われたパワードスーツ、20式対色欲特殊強化服着た一団が五人、未だ煙を上げ続ける銃口をこちらに向けて佇んでいた。
 それぞれのフリッツヘルメットの下からは、赤い眼光が二つ、妖しくこちらを覗いている。
 胸部装甲に刻まれた「公安省」の三文字が、国家に飼い慣らされた番犬であることを克明に示していた。
「引キ続キ、対象ヲ射萎スル」
 ガスマスク内で淀んだ抑揚のない不気味な声が、改めて俺たちを萎やすことをその場に宣言。
「フンッ、やってやろうじゃないの」
 それに対してエンドルフィンは、ゆっくりと股間に手をやり、何かを引き抜くと同時に思い切り叫んだ。

「聖剣抜刀、いでよブラズレッタッ!」

 俺はここから純潔を保ったまま帰れないかもしれない。
 だが、俺にはやらなければならないことが一つだけある。
 そう、抵抗だ。


To be continued→
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