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婚約破棄中に決闘します

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 王家主催の美しい王城で行われる卒業パーティ。

 私は一人で会場に入る。
 足を踏み込んだその時。

 「ルッカ・アルティー!!貴様との婚約を破棄させてもらおう!!」

 私の婚約者の声が会場の響き渡る。
 それに周囲の人々は同情だったり「ああ、やっぱり」と言うような表情をしていた。

 「はぁ......。婚約破棄は了承するけどさぁ....ったく、こんな所で破棄するのやめてくれる??面倒くさいのよ。」

 私は、呆れながら了承と同時に愚痴る。
 それと同時におじさんの声が響きわたった。

 『口が悪いなぁ。本当に“摩天楼の賢者”である僕の弟子なのか不安になってきたよ。』
 「は?1000年前の魔法の創始者は変人だって教師たちは言ってるけど。突然消えたのも、まさか指輪に封印されたとは思っていないみたいだし。そんな変人の弟子なんだけど??」
 『…しってるけどさぁ....っ。僕が「側近に拗ねてひとり旅に行った」っていう事にされてるのは知ってるけどさ....っ!!』

 それを言いたいんじゃない、と“摩天楼の賢者”は頭を抱える。
 と言っても、彼には魂しかないため頭を抱えられなかった。

 『君は本当に口悪すぎ。もう少し敬語とか使えないの??』
 「仕方がないじゃない。私生まれてから「まともな」人間と話した記憶はないし。王族と魂とならあるけど。」
 『それは素直に可哀想だと思う。』

 離れに幽閉されていたルッカは書斎に引きこもるしか手段がなく、そこで意外にも読書の楽しみを味わってしまったのだ。
 それ以来、彼女は離れの本をすべて読み明かし、暇になったあとはカッコイイヒーローみたいに離れから脱獄して日々街に出かけていた。
 しばらくたったある日、洞窟に踏み込んだ先に“摩天楼の賢者”が封印されている指輪を見つけたというわけだ。
 何度か人は来たらしいが、賢者の声は聞こえなかったらしい。
 おかげで一人寂しくバッドエンドを迎えた悪役令嬢のように過ごす危機は免れた。

 しかし、かなり煩いのが玉に瑕である。
 さらに、中身がイケオジなので完全にお父さん感覚でもある。

 「それに物語で断罪される令嬢は皆こんな感じの口調だったと思うけど??」
 『たしかにそうだけど。』
 「なに?文句でもある??殺そっか??」
 『君本当に貴族令嬢??絶対にそんな物騒な事言わないよ。』
 「あ゛??本当に指輪かち割ってやろうか??」
 『あ~、はい。スミマセン。誠に申し訳ございませんでした。』
 「誠意がこもってないじゃない!」
 『それは君も同じでしょ。』

 どんどん“摩天楼の賢者”との喧嘩がヒートアップしていく中、それを収めたのは元婚約者だった。

 「おい!聞いてるのか!」
 「え??なんか言った??」
 『さぁ??俺も聞いてなかったからなぁ。』
 「聞いときなさいよ。何で聴覚共有を許したのか忘れた??」
 『え~、何でだっけ??』
 「やっぱり死ぬ??」

 「おい!話を聞けよ!!!」
 『「うるせぇよ!!」』

 “摩天楼の賢者”と同時に叫ぶ。
 今こっちで戦ってんだから入ってくんなよな。

 「あんたの話なんか聞く価値がないでしょ!?今は師匠の喧嘩買ってる最中なんだから!!」
 『あ、それは気付いてたんだ。』
 「うるさいわね!!喧嘩買ってやるんだから魔法でも何でも召喚しなさいよ!!」
 『え~、魔法陣書くの魔力たくさん使うから好きじゃないんだよな~。』
 「はぁ??“摩天楼の賢者”なのに??魔法陣如きを発動する魔力もないの??」
 『なっ......!!こっちだってやってやるよ。幻影出すから待ってろ。』
 「へっ、いいわ!こてんぱんにしてやるんだから!!」

 私の2mほど前に魔法陣が作られ、中から“摩天楼の賢者”が出てくる。

 「久しぶりね。戦うのは。」
 「俺なんかにまだ勝てないだろ??」
 「へっ!!私にだって秘策があるのよ!!」

 私の心にまでは干渉できないんだからね!このクソ親父は!!

 「魔法陣に干渉して破壊する方法か??それは前にやってこてんぱんにされただろ??」
 「そんなのあんたが予測してるに決まってんじゃない!!だから別の方針で..................!!!」

 二人が魔法を放つ直前。

 「はーい、ストップ、ストーップ!!」
 「誰だお前!」「誰あんた!」

 私を後ろから抱きしめて必死に止めているのは、この国の第二王子だった。
 ......なーんだ、ウィルか。

 「君たちが喧嘩すると国が一つ滅ぶから!!せめて敵国でやって!!」
 「兄さん!それも駄目だろ!前に本当に喧嘩してリヴルン公国消滅させてたじゃん!」
 「ウィル!その通りだ!敵国でも駄目だ!俺らは消滅させた時に父上から『弟の幼馴染みがやらかした。あれはどうにもならんから三人で頑張ってくれ。』って言われたの忘れたのか!!」

 突然の王子兄弟軍が止める。
 .........消滅させた??
 いやいやそんな記憶はないんだが。
 “摩天楼の賢者”も同じようで、

 『公国を消滅??たしかに丁度いい山のない開けた土地があったからそこで戦ったことはあったが。』

 と私と同じように首を傾げていた。
 その後は素直に指輪に戻っていった。
 そんな私たちに、王家の人々は呆れていたが気にする事ではないだろう。

 「もう.....。一応だけど今はパーティ中だよ??そしてルッカは婚約破棄されてるんだけど。」
 『「..................あああああああ!!!!!!!」』

 もう、それは本当にびっくりして元婚約者の方に向く。
 が。

 「.....返事がないわね。」
 「まぁ、あの魔力圧だとね.......。俺らでも耐えるのは大変だからね。」
 「.......たしかに周りも皆倒れてるわ。そんなに魔力解放した記憶はないわよ??」

 そう言いつつ、元婚約者のところに行きカーテシーをする。

 「婚約破棄、承りましたわ。」

 王族の前で婚約破棄をしたので、もう安心。
 そう思って振り返ると。

 「ウィ、ウィル......!?どうしたの??」
 「ルッカ、僕と結婚してください。」

 そう言って私の手にキスを落とす。

 .........ちょっと待って。まったく意味がわからない。

 「ちょっと兄さん!色々とすっ飛ばしてるじゃん!」
 「おい!今いい雰囲気だったのに......。」

 今度は王子の方でごった返す。

 「あ~、分かったから。えっとねルッカ。僕は君の事をずっと好きだったんだ。学園に入る前から。」
 「......どこかで会ったっけ??」

 そう言うと、王族たちは顔を見合わせて何とも言えない顔をしている。

 「あ~、それはまた追々説明するよ。で、ルッカが好きだったんだけど婚約しちゃったから、ソイツの女好きの癖を使って追っ払った。それで見事好きな女性に想いを告げる事が出来た訳。」
 『ルッカ好物件だよお得じゃない??』
 「賢者うるさい。」
 『酷い....っ。』

 ちなみに、王族たちは“摩天楼の賢者”の声が聞こえている。
 何故聞こえるのかはまだ謎だ。
 仮設としては魔力量が関係しているのではないか、と思っている。

 「えっと.....私、ウィルを親友としか思ってなかったから、なんというか.......。」
 「ああ、今は答えなくていいよ。これは宣戦布告のようなものだから。」
 「え!?やっとウィルも魔法戦闘してくれるの!!」
 『お前違うだろ。』
 「「うるせぇ、クソじじい。」」

 ”摩天楼の賢者”は放っておいて、ウィルは続ける。

 「これからいっぱいアピールするから覚悟してね??って事。」
 「?? まぁ、分かったわ!!」
 「分かってないよねぇ。」

 呆れられながら、私はニコリと笑った。



 ◇ ◇ ◇



 「ゴホンッ」

 王のわざとらしい咳でハッ、とした皆はイヤーな雰囲気を感じ取りぎこちなく振り向く。

 「ルッカ嬢。この現状はどうする気かい??」
 「.....ウィルの婚約のお返事はオッケーで。えーっと、闘いかけたのは、ま、“摩天楼の賢者”のせいで....。で、では!ごきげんよう!」

 そう言ってルッカは転移でどこかに行ってしまった。
 それを見届けてから弟のセオドアが、はぁ、とため息をつきながら言った。

 「......で、我々は尻拭い、と。えーっと、まず根本的にはルッカ姉様の元婚約者が悪いからその噂をスラーっと流しておいて......。」
 「何度目だろうね....。でも皆ルッカがやらかす時は相手や根本が悪いって知ってるから、まぁ同情の目を向けられるだけだよね.....。」

 卒業パーティには全ての生徒が参加していたため、家で考えると何万といる。
 絶望的な数に、国王たちは遠い目をした。

 「ハハハ.....今回は何徹で終わるかな。」

 その問いかけに王妃が絶望を悟る顔で応える。

 「オホホ.....。まぁ大丈夫よ。公国消滅の時よりは......。…ウィル、ルッカちゃんのどこを好きになったの??まぁ言いたい事は分かるけど。」
 「自由なところと実は優しいツンデレタイプかつ、僕に媚び売るどころか僕の身まで守ろうとしていた強さに、ですかねぇ。」

 「あのさ」とウィルは話を続ける。
 その何とも言えない声色が発する続きに皆は少し強張る。

 「ルッカは今ムカついていると思うんだよね。」
 「...............ちょうど隣国で、大量の魔力の大移動が見られたらしい。」
 「.................隠密に兵が移動してるんだっけ??」
 「いやまさ.....か......。」

 「「「「「................」」」」」


 王家の者たちは、真っ暗闇の地獄への切符を手に、何徹で終わるかな、と現実逃避を始めた───────.....



 ◇ ◇ ◇



 「“摩天楼の賢者”。ムカつくから国滅ぼしてくるわ。今、ちょうど隣国が兵を上げているそうよ。凄く凄く内密に地下通路まで作って頑張ってらっしゃるわ。」
 『え~、ちょっと僕もいらついてるんだけど。指輪から経由して出していい??』
 「あ~!!面倒!面倒な事はどうでもいいのよ!さぁ、適当に国滅ぼすわよ!」
 『あ~、楽しみっ。』

 まさに本当に滅ぼしに行っていたのだが、それを彼らが知るのはもう少し先である。



 ◇ ◇ ◇



 「さっ、軽く隕石落として終わるよ。」
 『はいよ、こっちで一般市民には結界張っておくから。』
 「よろ。」

 私は、十本の杖を手にしっかりと詠唱を始めた。
 無詠唱が私の戦闘スタイルなのだが、効果がより高い詠唱を今回はとる。

 《フレイストゥーン、燃え上がれ。山のように高く。空のように大きく。》
 《メーアステレク、多く強くなれ。影で支えて強化せよ。》

 合計十個の魔法を詠唱し終えた私は敵国のど真ん中に向かって狙いを定める。

 「よろしく。」
 『分かってる。』

 《炎よ、落ちて破壊せよ。》

 次の瞬間、巨大で真っ赤な隕石が現れる。

 それは敵国の終わりを指す示すものだった。
 真っ赤に燃え盛る炎。
 急速にやってくる速さ。

 またたく間に、帝国は隕石に飲まれ......わずか10秒で滅亡した。



 ◇ ◇ ◇



 「──────という事。」
 「やっぱりか.............。」

 王国に戻ったあと、すぐにウィルに捕まって王の前で椅子を召喚して座っている。
 事情聴取とかいうやつだ。

 「まーた、ルッカは国を滅ぼしたの??」
 「僕ら、尻拭いしないと......。」

 遠い目をする彼らに向かって私は言った。

 「その必要はなくない??だって未来の王子妃が正当防衛をしていただけなんだし。」
 「......。」

 それこそが問題なのだが、ルッカには分からない。
 しかし、他の国も軍の進行状況を知っていたと考えると、王子妃が防衛を担ったで上手く通せる可能性もあった。

 「正当防衛で国を滅ぼす人なんて普通いないけどね......。」
 「そう?これぐらい日常茶飯事だけど。」
 「…もしかして一週間前の南大陸の一国が凍らせて滅ぼしたのってルッカがやったりした??」
 「『そんな事してない。』」

 そろそろとウィルから視線をずらす。
 やってない、やってないはず。

 氷を発射できる大砲に辺り一帯を凍らせる魔導具を入れて飛ばした先は海だったはず。実験で成功したのは見届けたし。
 うん。違う違う。

 「......まぁ、今回は向こうが悪い、な....。」
 「そうそう。.....あ、美味しい。あなた紅茶入れるの上手ね。」
 「お褒めに預かり光栄でございます。」

 優雅に紅茶に口をつけて、席を立つ。
 片手に手を振りながら退場していったのは中々かっこいいんじゃないかしら??




 「ルーッカ!」
 「!?」

 後ろからギュッとされたかと思えば、ウィルだった。

 「どうした??」
 「ん~、こうしたかっただけ。」
 「.....。」

 少しだけ気恥ずかしく思い、ぷいと顔を背けたはずが意外とすぐ近くにあってびっくりした。

 「ルッカって、意外とピュアだよね。」
 「は?違うわ!」
 「そういう所が可愛いんだけどな。」
 『態度まる変わりだねぇ。はぁ、いいな~、青春。アオハル。こんな脳筋バカのルッカが僕より先にアオハル....。』
 「ねぇ、『地獄』っていう職場に行ってみない??アットホームな職場よ。」
 『僕は天国に勤めているので。』

 今日も平和だ。



 ◇ ◇ ◇



 ウィルの婚約者になって数日、私は王城に秘密裏に引っ越してきて王族関係と仲がよく、私もお世話になって事がある公爵家に養子として入り、正式に婚約した。
 そして、今は王城の庭を歩いていた。

 「ウィルのお嫁さんか~。王子妃ってどれくらい権力ある??」
 『王妃の次くらいじゃないか?』
 「......権力があったって国を滅ぼすのはやめてよ??」
 『「............。」』

 何故そこまで考えている事が分かるのか。
 私と“摩天楼の賢者”はもしかするとウィルは開心術を扱えるのかもしれない、と思った。

 「はぁ~、や~っとルッカが隣りに居てくれる。」

 そう言って指を絡めてくるあたり、相当な手慣れな気がする。
 そういう男は「チャラい」らしいが、ウィルとかなりの時間一緒にいたからそんな事はないだろう。

 「…ねぇ、ウィル。王城のスパイって見つけ次第叩き出したほうがいい??」
 「何急に。」
 『いや、この王城70人ぐらいスパイがいるぞ。』
 「えっ、そこは初耳なんだけど。」

 まさに今魔法を唱えようとしているやつとかね。
 私は杖を後ろに向けて無詠唱で魔法介入をし、魔法を無効化する。
 ついでに魔法で賭博しておけば、一件落着だ。

 もちろんウィルは気が付いていないので、さながら暗躍ヒーローっぽい気がして上機嫌になる。

 「ほんと、この国ってスパイはGのようにいっぱいいるよね。」
 「うちのところの警備が甘いのか??」
 「私が王子妃になれば結界張れるから大丈夫じゃない??」
 「あー.....。」

 ちょっと嬉しそうにしていたので、私はすぐさま結界を張ることにした。

 《光の膜よ、この国を守る盾となれ。》
 《悪意を退き、憎しみを退き、敵をも入れん。》
 《敵は光で侵され、負となれ。闇に消え去り己の過ちを感じろ》

 十本の杖で一つの魔法を作り出す。
 魔法が完成して七色の光が分散し始めたとき、あたりからうめき声が大量に聞こえてきた。

 「え?え?え?」
 「今呻いてるのは全員スパイとか悪い事をしたやつよ。後でしっかりと怒っておいて、ね??」

 両手を前で合わせて、上目遣いでウィンクする。
 「あざといポーズ」というやつだ。
 ウィルはこれに弱いようで「うぐっ....。」とか言ってスパイたちみたいに呻いていた。

 「どうしたの??攻撃とかはしてないんだけど。」
 「ルッカが可愛い。ルッカは分かってるのか.....??」
 『お前厭らしい事考えてるんじゃねぇよな??一応コイツの保護者同然だからな??』
 「「まずはお前が黙れ」」

 そう言って魔法をかけて無理やり黙らせる。
 これでしばらくは大丈夫だろう。解除に時間がかかると思うから。

 「はぁ~.....。ルッカが可愛すぎる。」
 「!?」

 そう言ってウィルは思い切り私をぎゅっ、とした。
 恥ずかしいけど、悪くはない。

 背景でスパイがうめいたり叫んでいる中、完全に二人の世界ができていた。
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