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グラスネス
7話
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満腹の状態に甘やかされた日常にいたセーレの身体はすぐに眠気が襲う。けれど、幾らご飯を与えられたからといって警戒を解くことはしない。しないと言ったらしない、けど。
「眠いか?寝ていい」
「、ねない」
人間がどうかわからないが獲物に食物を与えてから捕食する悪趣味が魔物にはいる。勇者は剣でセーレを斬りつけることができる状況はまだ変わっていないのだ。
「……、……っ、、」
「寝ないのか?」
「ねな、ぃ」
極限の緊張状態が緩和され、食糧を手に入れた身体は睡眠を欲している。言葉では否定していても木目に腕を伸ばして頭をころりと乗せた。
うつらうつらと船を漕ぐ頭に視線が注がれる。蕩けた感情に声が乗せられた。
「セーレ、好きだ」
「へ、?」
一瞬で意識が浮上した。聴覚が伝えたそれに瞠目して、嘘だと顔をあげれば勇者と目が合った。相変わらずの無表情に、恐怖は増した。
え、なに怖い、怖すぎる。つまらないから遊んでやろうってこと?勇者やっぱ怖すぎない?脳内は忙しなく回転して、着地点に硬直することを選ぶ。勇者が望む反応など思い浮かばなくて、逸らす拍子を失った瞳は氷のように冷たい瞳に呑まれて瞬きすら忘れる。
「、セーレ、?」
「ぅ、あ……ひ」
「ぃっ、」
ゴンッ
疲労状態に恐怖と緊張が重なった瞬間、限界に達した身体は強制的に機能を停止することを選んだ。木机に勢いよく突っ伏した頭は寸でのところで勇者に受け止められたが、頭と木机に挟まれた指に勇者は呻き、笑い声が響く。皿を洗ったブノワが帰ってきた。
「ははっ、あの勇者さまが魔物に攻撃されてやがる」
魔王城までも攻略したと文を飛ばした勇者の姿にはかすり傷一つ存在しない。そんな勇者が簡単に倒せてしまえる魔物にダメージを与えられている姿にブノワは愉快で声を上げた。人型となればすぐさま容赦なく切り捨てた姿とはかけ離れすぎている。幼い頃から不思議な子供であったがその思考回路が未だ解明できていない。
木机に黒布を引いてセーレの頭を寝かせてやり頭を撫でる様子の穏やかさにブノワは内心驚いていた。
「そういや、あの子は見つかったのか?」
「……城も森にもいなかった」
「そうか」
話題を出せばその美しい顔の眉間が顰められる。変わらずの無表情に落胆を僅かに滲ませ目線を落とした。
幼い掌の感触と焦燥に焦れた瞳が焼きついて勇者の脳内で何度も再生される。自分たちに避難を求める声と嫌だと拒絶する悲鳴は染みついて、勇者が生まれた。
たったの一週間を過ごしただけの小さな友達は一瞬で消えてしまった。どうしようもない悲しみと罪悪感に苛まれて、それらは原動力として勇者の中で根を張っている。
「他でも捜してはいるんだが、全く手掛かりがない」
特徴的な茶髪と深淵のような黒目。茶髪の種族が少ない周辺地域では捜しやすいと考えていたが、見つからず十年が経ってしまった。魔物に追われる姿に目を逸らした二人の人間は思考の逃避を繰り返して過ごしてきた。
「こいつより育ってるだろうな」
「ああ」
すやすやと眠るセーレを大きな手が撫でる。艶が良く指通りの良い髪の感触は、撫でると喜んだあの子に酷似していた。けれど、人間であったあの子には角も牙も存在しない。
「魔物はあの子を殺さなかった。魔物が理由なく捕まえて後から殺すとは思えない」
「生きているはずだ」
うつ伏せに組み敷かれたあの子は魔物に拘束されて、嫌だと身体を揺らして縄を解こうと蜿く姿は酷く目蓋に刻まれている。
魔物がそうしてまで人間を捕まえたかったのは原因があったはずだと、ブノワと勇者は考えていた。襲いかかる魔物は容赦なく火をつけ抵抗すれば裂いていたのだから。
魔王城に行っても尚、気づけなかった存在に表情を曇らせる。セーレを抱いて扉を蹴り飛ばしたが、どの部屋も人間の気配を見つけることはできなかった。
「悪い、暗くさせたな。布団で寝かせてやれ」
「ああ」
脱力した身体を易々と抱き上げた勇者は迷いなく奥へ階段に足を進める。
「……」
振動にも起きず無防備に寝息を立てる姿を見下ろした。長いまつ毛に縁取られた瞳はゆっくりと瞬きを繰り返しながらどこか幼さの残る顔立ちを見入っては頬を撫でる。冷たい指先に眉を顰めたかと思えば掌を受け入れるように表情を緩めて、寝返りを打つ。
「はは、かわいい」
起きている時には絶対に行わないであろう仕草に布団を掛け直した勇者は目尻を緩ませた。震える肩も強がる声も滲んだ涙も怯える表情も、全てが可愛くて仕方なくて理性を放り出して攫った勇者は寝顔に煮詰まった恋慕を視線に注いだ。
「眠いか?寝ていい」
「、ねない」
人間がどうかわからないが獲物に食物を与えてから捕食する悪趣味が魔物にはいる。勇者は剣でセーレを斬りつけることができる状況はまだ変わっていないのだ。
「……、……っ、、」
「寝ないのか?」
「ねな、ぃ」
極限の緊張状態が緩和され、食糧を手に入れた身体は睡眠を欲している。言葉では否定していても木目に腕を伸ばして頭をころりと乗せた。
うつらうつらと船を漕ぐ頭に視線が注がれる。蕩けた感情に声が乗せられた。
「セーレ、好きだ」
「へ、?」
一瞬で意識が浮上した。聴覚が伝えたそれに瞠目して、嘘だと顔をあげれば勇者と目が合った。相変わらずの無表情に、恐怖は増した。
え、なに怖い、怖すぎる。つまらないから遊んでやろうってこと?勇者やっぱ怖すぎない?脳内は忙しなく回転して、着地点に硬直することを選ぶ。勇者が望む反応など思い浮かばなくて、逸らす拍子を失った瞳は氷のように冷たい瞳に呑まれて瞬きすら忘れる。
「、セーレ、?」
「ぅ、あ……ひ」
「ぃっ、」
ゴンッ
疲労状態に恐怖と緊張が重なった瞬間、限界に達した身体は強制的に機能を停止することを選んだ。木机に勢いよく突っ伏した頭は寸でのところで勇者に受け止められたが、頭と木机に挟まれた指に勇者は呻き、笑い声が響く。皿を洗ったブノワが帰ってきた。
「ははっ、あの勇者さまが魔物に攻撃されてやがる」
魔王城までも攻略したと文を飛ばした勇者の姿にはかすり傷一つ存在しない。そんな勇者が簡単に倒せてしまえる魔物にダメージを与えられている姿にブノワは愉快で声を上げた。人型となればすぐさま容赦なく切り捨てた姿とはかけ離れすぎている。幼い頃から不思議な子供であったがその思考回路が未だ解明できていない。
木机に黒布を引いてセーレの頭を寝かせてやり頭を撫でる様子の穏やかさにブノワは内心驚いていた。
「そういや、あの子は見つかったのか?」
「……城も森にもいなかった」
「そうか」
話題を出せばその美しい顔の眉間が顰められる。変わらずの無表情に落胆を僅かに滲ませ目線を落とした。
幼い掌の感触と焦燥に焦れた瞳が焼きついて勇者の脳内で何度も再生される。自分たちに避難を求める声と嫌だと拒絶する悲鳴は染みついて、勇者が生まれた。
たったの一週間を過ごしただけの小さな友達は一瞬で消えてしまった。どうしようもない悲しみと罪悪感に苛まれて、それらは原動力として勇者の中で根を張っている。
「他でも捜してはいるんだが、全く手掛かりがない」
特徴的な茶髪と深淵のような黒目。茶髪の種族が少ない周辺地域では捜しやすいと考えていたが、見つからず十年が経ってしまった。魔物に追われる姿に目を逸らした二人の人間は思考の逃避を繰り返して過ごしてきた。
「こいつより育ってるだろうな」
「ああ」
すやすやと眠るセーレを大きな手が撫でる。艶が良く指通りの良い髪の感触は、撫でると喜んだあの子に酷似していた。けれど、人間であったあの子には角も牙も存在しない。
「魔物はあの子を殺さなかった。魔物が理由なく捕まえて後から殺すとは思えない」
「生きているはずだ」
うつ伏せに組み敷かれたあの子は魔物に拘束されて、嫌だと身体を揺らして縄を解こうと蜿く姿は酷く目蓋に刻まれている。
魔物がそうしてまで人間を捕まえたかったのは原因があったはずだと、ブノワと勇者は考えていた。襲いかかる魔物は容赦なく火をつけ抵抗すれば裂いていたのだから。
魔王城に行っても尚、気づけなかった存在に表情を曇らせる。セーレを抱いて扉を蹴り飛ばしたが、どの部屋も人間の気配を見つけることはできなかった。
「悪い、暗くさせたな。布団で寝かせてやれ」
「ああ」
脱力した身体を易々と抱き上げた勇者は迷いなく奥へ階段に足を進める。
「……」
振動にも起きず無防備に寝息を立てる姿を見下ろした。長いまつ毛に縁取られた瞳はゆっくりと瞬きを繰り返しながらどこか幼さの残る顔立ちを見入っては頬を撫でる。冷たい指先に眉を顰めたかと思えば掌を受け入れるように表情を緩めて、寝返りを打つ。
「はは、かわいい」
起きている時には絶対に行わないであろう仕草に布団を掛け直した勇者は目尻を緩ませた。震える肩も強がる声も滲んだ涙も怯える表情も、全てが可愛くて仕方なくて理性を放り出して攫った勇者は寝顔に煮詰まった恋慕を視線に注いだ。
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