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白い痛み
15話
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キンッー!バキッ!!
「っ!!、っ?」
切先が両断した光の輪が砕けて大理石に散らばる。鮮やかな剣術は服の繊維一つ傷つけることなく、忌々しい魔法だけを粉砕した。
支えを失い揺らいだ身体を抱き止め、引き寄せる勇者は魔法使いを睨みつけた。身体を引き裂く筈だった剣が魔法使いに向いているのが不思議でセーレは状況把握をできないままに勇者を見上げた。
可笑しい、絶対に可笑しい。
「ひ、ィッ!?な、ッなんで!?」
「早く治せ」
「治す?な、何をです、か?」
勇者は剣を下げないまま魔法使いを睨みつけるとより、抱擁する腕の力を強めた。傷ついた皮膚が押さえつけられて激痛が襲いかかる。滲んだ涙が恐怖で零れ落ちる。
やっぱり勇者は俺を油断させようとしてるんだ。そんなことしなくても倒せるはずなのに、安心させてから倒すとか怖すぎる。わざわざ傷を痛めつけるなんて。
「セーレの傷に決まってるだろう」
「せー、れ?」
魔法使いとセーレは混乱したまま固まった。この場で勇者以外の誰もが意味を理解できなかった。
魔法使いは思考を張り巡らせる。味方である神官と勇者には傷が付いていないのに、傷を治せとは誰のことを指しているんだ。セーレという人名は聞いたことがない。賞賛と共にこれからの同行を誓ってくれるはずだった勇者に睨まれ、威圧されている。動揺に呑まれた魔法使いは杖を落とし、浴びた冷ややかな視線にひ、と声を落とした。
対して、セーレは眼球が落ちそうなほど目を見開いて勇者を凝視する。思わず耳を疑った勇者の言葉に自分の名前が含まれていることが錯乱させて、その意図を探るに表情を観察するが、視線は味方である筈の魔法使いを刺していた。身体中を刺す激痛にまともな思考はできずに、段々と力が抜けていく。
「セーレって、まさかその魔物とは言いませんよねぇ?」
「黙れ」
「勇者であろう方が魔物を庇うなんて、ありえませんしねぇ?」
悠長な様子で神官は勇者を揶揄した。移る勇者の殺気すらも躱して、愉快そうに笑うと一歩ずつ足音を響かせる。コツ、コツ、と白衣を靡かせた神官は抱えられたセーレを覗き込み、虚に脱力した顎を掬い上げようと、近づかせた指は勇者に振り払われた。
「ッ、触るな」
「そんなに大事な子なんです?死にそうになってますけど」
「っ、!は、」
長時間聖なる光という毒に浸されたセーレは既に意識を失っていた。だらりと垂れ下がった腕が青白く血の気を無くしている。
気づくと一瞬にして、青褪めた勇者がのしかかる身体を慎重に動かし、かがみ込むと抱え込んだ。滲んだ冷や汗に濡れた額と皺が寄った眉間は痛々しく、セーレの苦痛を訴えている。
振り払われた掌をわざとらしく撫でた神官が手を振った。
「あ、ぁあ……まって!」
魔法使いが錯乱から目を醒めるのと扉が乱暴に開けられた。警戒を露わに歩んだ勇者が神殿を抜けると崩れ落ちた魔法使いに追い討ちの扉の音が響く。
「っ、悪かった」
頬を撫でる指の背は震える。僅かに開いた唇を閉じると足早に裏路地へと歩みを進めた。陽の光に晒されないように自身の腰布を被せる勇者は焦燥が滲む。巡る脳内には治癒魔法の使い手を探しては、仮想の魔法使いを蹴り飛ばした。
「っ!!、っ?」
切先が両断した光の輪が砕けて大理石に散らばる。鮮やかな剣術は服の繊維一つ傷つけることなく、忌々しい魔法だけを粉砕した。
支えを失い揺らいだ身体を抱き止め、引き寄せる勇者は魔法使いを睨みつけた。身体を引き裂く筈だった剣が魔法使いに向いているのが不思議でセーレは状況把握をできないままに勇者を見上げた。
可笑しい、絶対に可笑しい。
「ひ、ィッ!?な、ッなんで!?」
「早く治せ」
「治す?な、何をです、か?」
勇者は剣を下げないまま魔法使いを睨みつけるとより、抱擁する腕の力を強めた。傷ついた皮膚が押さえつけられて激痛が襲いかかる。滲んだ涙が恐怖で零れ落ちる。
やっぱり勇者は俺を油断させようとしてるんだ。そんなことしなくても倒せるはずなのに、安心させてから倒すとか怖すぎる。わざわざ傷を痛めつけるなんて。
「セーレの傷に決まってるだろう」
「せー、れ?」
魔法使いとセーレは混乱したまま固まった。この場で勇者以外の誰もが意味を理解できなかった。
魔法使いは思考を張り巡らせる。味方である神官と勇者には傷が付いていないのに、傷を治せとは誰のことを指しているんだ。セーレという人名は聞いたことがない。賞賛と共にこれからの同行を誓ってくれるはずだった勇者に睨まれ、威圧されている。動揺に呑まれた魔法使いは杖を落とし、浴びた冷ややかな視線にひ、と声を落とした。
対して、セーレは眼球が落ちそうなほど目を見開いて勇者を凝視する。思わず耳を疑った勇者の言葉に自分の名前が含まれていることが錯乱させて、その意図を探るに表情を観察するが、視線は味方である筈の魔法使いを刺していた。身体中を刺す激痛にまともな思考はできずに、段々と力が抜けていく。
「セーレって、まさかその魔物とは言いませんよねぇ?」
「黙れ」
「勇者であろう方が魔物を庇うなんて、ありえませんしねぇ?」
悠長な様子で神官は勇者を揶揄した。移る勇者の殺気すらも躱して、愉快そうに笑うと一歩ずつ足音を響かせる。コツ、コツ、と白衣を靡かせた神官は抱えられたセーレを覗き込み、虚に脱力した顎を掬い上げようと、近づかせた指は勇者に振り払われた。
「ッ、触るな」
「そんなに大事な子なんです?死にそうになってますけど」
「っ、!は、」
長時間聖なる光という毒に浸されたセーレは既に意識を失っていた。だらりと垂れ下がった腕が青白く血の気を無くしている。
気づくと一瞬にして、青褪めた勇者がのしかかる身体を慎重に動かし、かがみ込むと抱え込んだ。滲んだ冷や汗に濡れた額と皺が寄った眉間は痛々しく、セーレの苦痛を訴えている。
振り払われた掌をわざとらしく撫でた神官が手を振った。
「あ、ぁあ……まって!」
魔法使いが錯乱から目を醒めるのと扉が乱暴に開けられた。警戒を露わに歩んだ勇者が神殿を抜けると崩れ落ちた魔法使いに追い討ちの扉の音が響く。
「っ、悪かった」
頬を撫でる指の背は震える。僅かに開いた唇を閉じると足早に裏路地へと歩みを進めた。陽の光に晒されないように自身の腰布を被せる勇者は焦燥が滲む。巡る脳内には治癒魔法の使い手を探しては、仮想の魔法使いを蹴り飛ばした。
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