上等だ

吉田利都

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友達と映画

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映画館に向かう道中お互い会話はなかった。

分からなかったのだ。

こういうときって何の話をするんだろう。

小石をけりながら考えていると痺れを切らした美咲が口を開いた。

「なあ、黒沢。」

「な、なに」

「お前の母親良い人だよな。」

何を言い出すかと思えば母さんの事かよ。

「そうかな。」

「あそこまで息子を思ってくれてる人いねぇよ。」

僕は黙った。

「黒沢ってさ。」

次は何を言い出すんだとドキドキした。

「なんでいじめられてんの?」

「はあ!?」

周知の事実なのに改めて言われると反抗したくなる。

ここまでストレートに言われたことがなかった。

「いじめられてるというか・・・」

「ストレス発散に使われてるんだよ。」

美咲はプッと吹き出し

「ナハハハ、それをいじめっていうんだよ。」

「そ、そうか。」

「黒沢面白れぇな。」

それからまた沈黙が続いた。

「それで、何の映画見るの?」

またも切り出したのは美咲だった。

気を使ってくれているのかもしれない。

「ゾンビ映画だけど」

「えぇ!?黒沢ってゾンビ映画が好きなのか意外だな。」

そう、僕はゾンビ映画が好きなのだ

もとは人だったものが感染してゾンビになると敵だと言われ殺されてしまうんだ。

ゾンビの気持ちを僕は容易に想像できる。

そういった点でいろいろ考えさせられる映画なのだ。

という説明をすると多分ひかれるだろうから

そうかなとだけ言っておいた。


映画館に着くと土曜にしては人が少なかった。

「ねえ、黒沢あたしチュロス食べたい。」

「食べたらいいじゃないか」

「ここにきて申し訳ないが今日お金持ってきてない。」

「はぁ!?」

この巨人は僕に全部払わせる気だったのか。

だからさっき取り繕うように話しかけてきたってわけか

「後日絶対返すから!お願いします!」

お願いされちゃあ断れないのも僕の悪いところだ。

「わかったよ。返してね?」

「返すって~」
チュロスとコーラを奢らされ

僕もギリギリコーラを買えた。

「席どこだっけ?」

「えっと、Fの13,14」

「あった、ここだ。」

「ど真ん中でいい席じゃん。」

「僕は洋画を見るときは真ん中が好きなんだ。」

「へぇ、なんか変わるの?」

「うん。話すと長いから。」

「じゃあ、いいや。」

少しくらい興味持てよと思いつつ携帯を眺める。

美咲は早くもチュロスを頬張っている。

「人入ってこないね。」

「そろそろ上映期間も終わるからね。」

「ふーん。」

「なんか、貸し切りみたいでテンション上がるな。」

映画が始まってもほんとに人が入ってこず貸し切り状態になった。


映画中は美咲も静かに見ていた。
案外そういうマナーは守るんだなと安心した。

途中ゾンビが急に襲いかかってくるシーンでは美咲も少しびくっとしてて
笑いそうになった。


「あ~、面白かったな。」

「そうだね。」

「今回の出来は何点でしょうか黒沢さん。」

「やめてよ。映画に点数はつけたくないんだ。」

インタビュー風に向けられた手を軽くあしらう。

「ゾンビものってもっと安っぽいと思ってたけど最近の技術はすごいな。」

「そうだね。昔に比べると迫力も何もかも段違いだ。」

僕は小さいころからゾンビ映画を見ていたらしく

父さんにその話を聞かされた時は流石にひいた。

「そうだ!黒沢。」

「なに?」

「提案があるんだけど」

そういうと美咲は携帯を取り出し待ち受けを見せてきた。

「綺麗・・・」

そこには漁港から見える夕焼けを写した写真だった。

「これすぐそこの漁港で見えるんだけどさ、行ってみない?」

にっこり笑う美咲は少年漫画の主人公のようだった。

「行きたい。」

「よし、決まり!」

「今からだと30分くらいで着くから丁度陽が沈んでいい感じかも。」

純粋に見てみたいと思った。
ほんとに今まで夕焼けなんて気にしたことなかったけれど

美咲の待ち受けに写るそれは僕の心を鷲掴みにした。

映画を見て帰るだけだった当初の予定は崩れたけど、

夕焼けを見に行く。

という高校生らしい出来事に少しだけ心が躍った。
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