156 / 162
福井藩主・松平重富は若年寄に内定した田沼意知の排除について実弟・一橋治済と相談する。1
しおりを挟む
重富が怒りと屈辱を腹に溜めたまま、常盤橋御門内にある上屋敷に辿り着いたのはまだ昼前であった。
重富はしかし、昼餉も摂らず、着流しに着替えると、一橋御門内にある一橋館へと足を運んだ。
重富は一橋館の主である治済の実兄ということもあり、館への出入は「フリーパス」であった。
幸い、治済は重富よりも早くに家治への拝謁を済ませたこともあり、既に帰邸しており、館にその姿があった。実兄・重富の来訪は治済にとっては不意であったものの、しかしこれを歓迎した。
否、不意の来訪には違いないが、それでも治済は重富の来訪を予期していた。今日の月次御礼を考えた時…、将軍・家治より「宣戦布告」を受けたことから考えて、重富もまた何らかの形で家治より「宣戦布告」を受けたのではあるまいかと、治済は御城を下城し、この一橋館へと帰途に着くその道中、その時分よりそう見当を付けていたので、それゆえ不意の来訪にもかかわらず、治済はそれ程、驚かなかった。
ともあれ治済は重富と向かい合うや、予期した通り、重富より伊達重村から受けた「仕打」を聞かされたのであった。
重富の話を聞き終えた治済は、「成程…」とまずはそう反応した上で、
「恐らくは上様が差金に相違ありますまいて…」
そう付け加えた。
「上様が差金と?」
重富がそう聞き返したので、治済は頷くと、
「そうでなくば如何に伊達とて、斯かる暴言には到底、及びび得ず…、なれど実際には兄上に対して斯かる暴言に、それも御三家や加州、それに大広間詰や帝鑑之間詰の諸侯らにも聞かせるが如くに斯かる暴言に及んだと言うことは、上様が御墨付があってのことに相違なく…」
そう推量を述べた。その推量は奇しくも意知のそれと寸分違わぬものであった。
ともあれ重富は「成程」と合点がいった。
それから治済は重富に対して将軍・家治より受けた「宣戦布告」を語って聞かせると、重村の暴言もまた「宣戦布告」の一環に相違ないと断言し、兄・重富を頷かせた。
「問題は、帝鑑之間詰の諸侯にも伊達の暴言が聞かれてしまったこと…」
治済が思い出したようにそう呟いたので、重富にはその言葉の真意が分からずに首を傾げた。
すると治済は兄・重富が首を傾げたことからそうと察すると、今の己の言葉の真意を解説してみせた。
即ち、治済は当初、同じく御三卿でありながら、今は当主不在の明屋形である田安家に仕える者を使嗾して、意知の暗殺を謀ろうとしたことを重富に打ち明けたのであった。
重富はしかし、昼餉も摂らず、着流しに着替えると、一橋御門内にある一橋館へと足を運んだ。
重富は一橋館の主である治済の実兄ということもあり、館への出入は「フリーパス」であった。
幸い、治済は重富よりも早くに家治への拝謁を済ませたこともあり、既に帰邸しており、館にその姿があった。実兄・重富の来訪は治済にとっては不意であったものの、しかしこれを歓迎した。
否、不意の来訪には違いないが、それでも治済は重富の来訪を予期していた。今日の月次御礼を考えた時…、将軍・家治より「宣戦布告」を受けたことから考えて、重富もまた何らかの形で家治より「宣戦布告」を受けたのではあるまいかと、治済は御城を下城し、この一橋館へと帰途に着くその道中、その時分よりそう見当を付けていたので、それゆえ不意の来訪にもかかわらず、治済はそれ程、驚かなかった。
ともあれ治済は重富と向かい合うや、予期した通り、重富より伊達重村から受けた「仕打」を聞かされたのであった。
重富の話を聞き終えた治済は、「成程…」とまずはそう反応した上で、
「恐らくは上様が差金に相違ありますまいて…」
そう付け加えた。
「上様が差金と?」
重富がそう聞き返したので、治済は頷くと、
「そうでなくば如何に伊達とて、斯かる暴言には到底、及びび得ず…、なれど実際には兄上に対して斯かる暴言に、それも御三家や加州、それに大広間詰や帝鑑之間詰の諸侯らにも聞かせるが如くに斯かる暴言に及んだと言うことは、上様が御墨付があってのことに相違なく…」
そう推量を述べた。その推量は奇しくも意知のそれと寸分違わぬものであった。
ともあれ重富は「成程」と合点がいった。
それから治済は重富に対して将軍・家治より受けた「宣戦布告」を語って聞かせると、重村の暴言もまた「宣戦布告」の一環に相違ないと断言し、兄・重富を頷かせた。
「問題は、帝鑑之間詰の諸侯にも伊達の暴言が聞かれてしまったこと…」
治済が思い出したようにそう呟いたので、重富にはその言葉の真意が分からずに首を傾げた。
すると治済は兄・重富が首を傾げたことからそうと察すると、今の己の言葉の真意を解説してみせた。
即ち、治済は当初、同じく御三卿でありながら、今は当主不在の明屋形である田安家に仕える者を使嗾して、意知の暗殺を謀ろうとしたことを重富に打ち明けたのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる